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となり 1
登場人物 几鍔、夕鈴
カップリング 几鍔x夕鈴

※几鍔x夕鈴 のつづきものです。いつ続くか分かりませんがラストは決まっています。
・陛下は出てこないかも。夕鈴が下町に戻った後の話

『ゆうりん』

規則正しく響いていた包丁の音がやんだ。
考えないようにしていても、
ふとした瞬間に思い出す。
声や、横顔や、体温、におい。
髪の毛が揺れたり、
冷たい瞳に捕らえられたり、
楽しそうに笑う声がする。
『夕鈴』
どこかで声がする。
ふりむいたら、そこにいるんじゃないかという気さえする。
そう思うと、ぽろりと勝手に涙が出てきた。
それをきっかけにもう止まらなくなった。
夕鈴は自分に飽きれながら、
腕をあげて涙をぬぐう。
「ばか、どんだけ未練がましいのよ」
包丁はいったん置いて頬をたたいた。
「忘れるの!もう忘れた!」
勢いよく頬をたたくが、涙が落ちることは変わらない。
「なんでとまらないの…」
ぐず、と鼻を一度さする。
外で物音がした。
夕鈴の肩が音に反応してびくりとはねた。
こんなときにやってくるのはいったい誰だ。
泣き顔を見られないようにうつむいて、
また包丁を握りなおした。
「おい」
案の定ともいえる声だ。
こうやって一番顔を見たくないときにくるのだ。この男。
「なによ」
足音が近づいてくる。
「勝手に入ってこないで。私忙しいんだから」
几鍔は無言で、夕鈴から一歩か二歩離れたところで止まった。
「お前」
「なんの用」
涙がこらえきれずに落ちそうになって、夕鈴は思わず手でぬぐった。
肩が震える。
几鍔は夕鈴の肩に手をやって、
無理やり自分のほうに顔を向けさせた。
「ちょっ…何!」
「お前、そんなによく泣くっけか」
「…うるさいわね!」
怪我をさせるとかそんなことに気を使わずに。
夕鈴は全力で几鍔から離れた。
そんなことを言われたくない。
言われたくない。
泣きたくて泣いているわけではないし、
入ってくるなとも言った。
勝手に人の家に入ってきて、
勝手に人の涙を見て、
好き勝手なことを言われたくない。
「父さんならうちにいないわ」
「…そーかよ。邪魔したな」
岩圭に用などなかったが、几鍔はそう言うと、
一度だけ夕鈴の目をじっと見てから、
なにも言わないで外に足を向けた。


夕鈴は昔からよく泣く。
少し感情が高ぶったり、
なにか生き物が死んだり、
人の心情に訴えるようなありきたりな物語を聞いたときでも、
なんでも泣く。
ただし、自分の前以外では。
夕鈴の母親が他界してからは特に、
夕鈴は家族や、近所の人間の前で涙なんか見せなかった。
天敵のように警戒している自分の前では特に。
それがボロボロ涙を惜しみなく流して、
それでも睨み付けてくるところは
痛々しくて、哀れで、頭に来た。
夕鈴が泣くのも、
自分の前で涙を隠せないのも、
空元気で明るく町を歩くのも、
全てあの男が原因なのだろう。
下町に戻ったばかりのとき、
見違えるほど滑らかになっていた手のひらや髪は、
今は少しずつもとに戻ってきていたが、
仕草や視線に少しずつ、
見たことのない夕鈴がいるようで、
とても腹立たしいことだった。

あの頑なな馬鹿女を変えるなら、最後まで責任を持て。
途中で捨てるなら、アイツの記憶に残るようなことをするな。

へらへらと笑う胡散臭い男を思い出し、
几鍔は舌打ちをした。

「あの野郎」
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