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あいうえおSS集 2 (かきくけこ)
登場人物 陛下、夕鈴


6.かのじょのかしつ
7.きみはかたくな
8.くるくる
9.けせらせら
10.こんばんは

短編集というよりは繋がって1つの話です。
途中かすかにR15っぽいのでご注意です。
最初年/齢制/限ものにしようと思ったけど諦めて健全です。

6.かのじょのかしつ


「陛下、すみません!」
廊下の先を行く黎翔を呼び止め、
夕鈴は急いで彼のところまで走った。
「どうしても確認したいところがあって…」
夕鈴は手に持った書簡を広げた。
政務室で聞けばよかったのだが、
あまりにも緊張した空気で声をかけられなかった。
「夕鈴」
「あ、ここなんですけど…あ」
くすぐったくなるような声で名前を呼ばれて気づいたが、
そのときにはもう遅い。
夕鈴は壁に押し付けられて、
顔は固定され黎翔から目が離せない。
「二人でいるときは名前で呼んでくれるのではなかったか」
夫婦になっても一向に名前を読んでくれないことが悲しくて、
黎翔は半ば無理やり約束にした。
「陛下と呼んだらお仕置きだって言ったよね」
「…すみません」
「わざと?」
妖艶な笑みが恐ろしくて、夕鈴は身震いしながらなんとか答えた。
「わざとではないです」
「いいよ、恥ずかしがらなくて」
夕鈴は勢いよく首を左右に振ったが、
黎翔は知らん顔で夕鈴を持ち上げた。
「あ、あの、どこへ」
蒼白な顔で尋ねる。
黎翔の顔は見えないが、声はとても楽しそうに聞こえた。
「すぐに分かる」




7.きみはかたくな


「さて、と」
ぶるぶると震えている夕鈴を床に下ろす。
ここは書庫や倉庫の並ぶ廊下の一室で、少し薄暗いが日の光があれば姿は見える。
黎翔は微笑みとも無表情ともとれない顔でその怯えた顔を見つめた。
「どうしてほしい?」
夕鈴は答えない。
実際そこまで名前にこだわりがあるわけではないが、
夕鈴が頑なに拒み続けることに苛立ちがあった。
夕鈴といるときは、
ただ一人の男として彼女を愛しているというのに、
いつまでも肩書きでしか呼ばれないのではそれを拒絶されているような気がする。
「夕鈴、呼んで?」
「れい、しょう様…」
「『様』もいらないけどね」
陛下、陛下と呼ぶたびに小さなお仕置き、言うよりは悪戯をしているが、
もちろん夕鈴を傷つけるようなことはしていない。
それでも回数を追うごとに夕鈴は怯えるようになってきている。
黎翔にはそれが自分の表情のせいだとは分からない。
じっと夕鈴の目を見ると、夕鈴も囚われたように強張った顔を向けていた。
黎翔は夕鈴の着物の飾り紐を取った。
びく、と夕鈴が目を瞑った。
黎翔は無言のまま夕鈴の手をとると、
両手を頭の上まで上げさせて、
そのまま紐で縛り上げた。
「な、なにを…」
「生ぬるいことしても忘れてしまうなら、
少し雰囲気を出そうかと思って。同じことばかりだと飽きるだろう?」
そのまま夕鈴の帯を解き、固定に使われていた紐で、
夕鈴の手を近い窓枠に縛り付けた。
着物の前を広げ、次に長襦袢の紐に手を伸ばす。
夕鈴は泣きそうな顔をしていて、
何かを訴えるように黎翔を見ている。
「どうしたの?」
「ここどこですか」
宮中での生活にはもう慣れたが、全ての部屋を把握しているわけではない。
見たことはある廊下だが、その一つ一つの部屋に入って覚えてはおらず、
今夕鈴は自分のいる場所がどこだか完全には分からなかった。
それが余計不安を煽る。
時々聞こえてくる話し声と、遠い足音がさらに落ち着かない。
「書庫の裏の部屋だよ。別におもしろいところではないけれど、
あまりうるさくすると人が来るかもしれないね」
「そんな」
まだ何か言おうとした夕鈴の口を塞ぐように軽く口付けをする。
「静かにしていれば大丈夫」
黎翔は夕鈴の足首に触れ、そのままするりと沓を脱がせた。
素足を撫でるとそのまま顔の前まで持ち上げる。
「いやっ」
「いやならちょうどいい」
腕を固定されているため、露わになってしまった足を隠すこともできない。
黎翔を蹴り飛ばすわけにもいかず、
夕鈴は震えながら目でやめてほしいと訴えた。
明るいところで足を出すなんて、みっともないし恥ずかしい。
黎翔は夕鈴の視線を無視して足の指に順番に唇を落とす。
「へいかっ!やめてください!」
夕鈴はどうしてこんな状況になったのか理解できないが、
自分がまたしても失態を犯したことには気づいた。
「やっぱりわざとなんじゃないの?」
「ちがいます、ほんとに違います」
泣きそうになりながら、夕鈴は小さい声で答えた。
もう癖みたいに呼んでしまうから、
咄嗟に名前に切り替えるのは難しい。
一人きりで部屋にいるときに何度も練習したけれど、
やはり本人を目の前にすると自然に出てしまうのは「陛下」のほうだ。
「もう一度呼んで」
「…黎、翔様」
つま先で遊んでいた黎翔は足首に音を立てて口付けすると、夕鈴の足を解放した。
ゆっくりと夕鈴の手を縛っている紐もはずす。
「痛くはなかった?」
「大丈夫です」
冷たい床に投げ出されるようになっている夕鈴の足に沓をはかせる。
乱れた着物の前もきちんと直してあげると、
黎翔は夕鈴の頭に軽く手を置いた。
「っあの…!」
立ち上がってしまった黎翔を引きとめようとしたが、
体に力が入らず声も弱弱しかった。
下を見て一瞬微笑んでくれた顔が何か言おうとして少し口を開きかけ、
しかしそのまま何も言わないで去った。




8.くるくる


「はぁ」
黎翔がため息をつくと、
隣にいる側近はそれを無視して書簡を追加した。
「今日中の処理をお願いいたします。急ぎです」
「お前は優しさという言葉を知らないのか」
「もちろん存じておりますが、
私に優しくされて嬉しいですか?」
「嬉しくない」
即答すると、李順はまあそうでしょうねと言って出来上がった書簡をまとめて取った。
夫婦喧嘩があると仕事が大いに捗るときと、
全く進まなくなるときがあって博打をしているような気分になる。
「なあ李順、お前は私の名前を知っているか」
「だれでも知っておりますよ」
一礼すると、李順は結局その名は口にしないで立ち去った。

名前を呼んでくれないことが、それほど大きい問題ではないはずなのに。
どうしてこれほど苛立つのか黎翔自身もよく分からない。
自分以外の人間は全員名前で呼ばれているから、
疎外感でもあるのだろうか。
ただ一対一で、
こちらを見てほしいと思うだけだ。
今日は癇癪をおこした子どものようにしてしまって、
申し訳ないと思う半分謝るために顔を合わせたいとも思えなかった。
ふざけたように何度も名前で呼んでほしいと言って、
もう何度も同じことを口にするのもしつこいのかもしれない。
夕鈴が呼びたくないのなら、
無理に呼ばせるものでもない。
呼び名など、呼ぶ人が勝手に選ぶ。
それでもまだ寂しいとか悲しいとかいう感情は底のほうから湧き上がってきて、
黎翔は自分が情けなくてまたため息をついた。
気まずいから、今晩はこのまま部屋に戻らず仕事を片付けてしまおう。



9.けせらせら

傷つけた。

廊下に出て少し歩いてみるとすぐに見覚えのある場所に行き当たり、
夕鈴はすぐに後宮に戻ってきた。
先ほどの部屋で最後に見た黎翔の微笑みはとても悲しそうで、
思い出すと心臓が鈍く痛む。
夕鈴自身が頑なに拒否しているわけではないのに、
どうしても急に呼ぼうとすると名前は出てこない。
とても大切な名前で、大切すぎて、
声に出すのがどこか恥ずかしいのかもしれない。
――私とても身勝手だわ。
自分が恥ずかしいとか慣れてないなんてことを理由に傷つけてしまった。
「黎翔様」
一人のときなら口に出せるのに、
本人を前にするとくすぐったくて、
どうしても逃げてしまう。
何度も呼んでいる「陛下」ならば、
何も考えなくても自然に呼ぶことができるのに。
「だめだわ」
謝っても、約束しても、
結局行動で示さなければ信頼はしてもらえない。
寝台においてある枕を取って、
それを掴むと顔の前で面と向かうようにした。
愛しい人の顔を思い浮かべると、少し体温があがる気がする。
「黎翔様、おはようございます」
「黎翔様、黎翔様、黎翔様」
真剣に枕と向き合っていると、
天井から何かを噴出すような声が聞こえてきた。
「な、なに?」
上を向くと、何も音がしない。
「お妃ちゃん」
「ひゃっ」
全く違う窓から声が聞こえて、夕鈴は飛び上がった。
「そりゃねーよ」
「浩大、何よ」
「いやー、それはヤバいでしょー」
「だから何よ!」」
浩大のことなら何も考えなくても名前で呼べるのに、と一瞬思うが今はそれは問題ではない。
「そんな気持ち悪い練習してないで、
本人に会って呼んでくればいいじゃん」
「気持ち悪いって!だって目の前にいると呼べなくなっちゃうんだもの」
「何回も練習すればいいんじゃないの。
あの人だって、何回も呼んでほしいんだから」
夕鈴は納得しない顔でしばらく浩大を見ていた。
浩大が肩をすくめると、夕鈴自身も肩の力を抜いた。



10.こんばんは


自室にも後宮にもおらず、黎翔は小さな書庫と隣り合っている部屋にいた。
探し出したころにはすっかり夜は更けてしまって、
黎翔は蝋燭の光の中で寝息を立てていた。
長いすに腰掛けていて、
傍にはいくつか書簡が転がっていた。
入り口から蝋燭に照らされて見える横顔はどこか子どもっぽくて、
夕鈴は思わず微笑む。
日によってとても色っぽく見えたり、
今日のように子どもっぽかったりする。
端麗な横顔はとても愛おしい。
夕鈴は黎翔の後ろに立って、
しばらく見つめた後、
そっと首に腕を回した。
力を込めると、着物越しにもじわりと熱が伝わってきた。
暖かい。
かすかに香る健康的なにおいに安心する。
「黎翔様」
無意識に呼んでしまって、夕鈴は自分でも驚いた。
とても自然で、こんなことで悩んでいたのは馬鹿みたいだ。
そのことにまた微笑んでしまって、
顔を摺り寄せるようにして、
もう一度呼ぶ。

「黎翔様」

寝ているから返事はないが、それでも満足だった。
自己満足で嬉しくなってしまうなんてやはり自分は勝手だと思いながら、
言わずにはいられない。

「好きです」




*


軽く頬に暖かい感触を残して、
夕鈴はすぐいなくなってしまった。
首を覆っていたものがなくなると急に空気が冷えたような気がして、
黎翔はぼんやりした意識から目を覚ました。
なくなった暖かさの代わりに膝には黎翔自身のどこかへ置いてきた外衣がかかっていた。
「夕鈴はずるいなあ」
優しく囁かれた自分の名前は、よく見知ったものであるはずなのに、
とてもくすぐったく響いた。


――――――


個人的なことですが、
自分の過去の経験から、
ずっと役職とか称号とかあだ名とかで呼んでいた人をちゃんと本名で呼ぶのって難しいんだけれども、
やはり本名で呼ぶというのは特別なことだな…
相手を大事だな、親しいな、愛おしいなと思った瞬間自然にぽろりと出てしまったりするなあ…
と不思議に思っていたのでそのことを書きたかったんですが全然伝わってないですねー…
夫婦になった夕鈴が陛下をなんて呼ぶのかとても気になりますねー


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