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雨の日のこと
登場人物 陛下 夕鈴
カップリング 陛下x夕鈴

・壁のある2人で糖度低いです(いつもかもしれませんが)

続きからどうぞ!


雨季に入り1週間は雨が降り続いている。今日も朝からどしゃぶりの一日だった。
地方からの連絡は交通網の滞りのせいで遅れていて、
そのすきにと黎翔は早々に仕事を片付けて、
夕方からは夕鈴との時間を取った。
李順をうまく納得させるのは難しいのだが、
彼が席をはずしたところをするりと逃げてきたのだった。
もしそこにいたならば、未だに机に向かっていたところだろう。
李順は国王の机が少しあけば、片手が開けば、隣の官吏がどけば、
さっと新しく書簡やら問題点やらを持ってくるのだから。

「雨、ずーっとやみませんね」
長椅子に腰掛けた夕鈴は、格子窓を見てためいきをついた。
1日2日とかすかに降るなら風流だと思えても、
毎日毎日ザーザーと朝から寝るまで同じ音を聞いているのでは嫌になってしまう。
「雨の音しか聞こえないなんて、ほんっと退屈しちゃいます。
それに洗濯物乾かなくなっちゃうし、においつくし、もう!
部屋のすみにもカビが生えるんじゃないかって心配なんですよね・・・」
「ははは」
夕鈴の淹れた茶で手を温めながら、
黎翔は1人雨に向かって文句を言う夕鈴を見て頬を緩めた。
雨の音で外の音は遮断され、
まるで夕鈴と2人だけの世界につれてこられたかのようだ。
「僕は雨は嫌いじゃないな」
「そうなんですか?」
「うん。こうやって雨の音しか聞こえないと、世界に夕鈴と僕しかいないような気がしてくるな・・・」
夕鈴の頬に手をあてる黎翔。
その雰囲気が少し変わったことを敏感に察して、夕鈴は反射的に立ち上がった。
「お、お・・・お菓子あるので持ってきます!」
パタパタと足音を立てて夕鈴は隣の部屋に行ってしまった。
「逃げられちゃった」
顔を赤くしてあわてる様子もおかしくて、思わずくすりと笑みがこぼれる。
雨の音が強くなり、黎翔1人になった部屋に溢れる。
なにかを落としたのか、隣からよく響く大きな音が聞こえた。
それと一緒に夕鈴の悲鳴も。
しばらくして、気まずそうな顔の夕鈴がでてきた。
「陛下、すみません。お菓子の箱を落としてこなごなに・・・」
「いいよ、味は一緒だから。一緒に食べよ」
「はい」
恥ずかしそうにしながらも、夕鈴は安心して笑顔をこぼした。
夕鈴の表情の変化はどれだけ見ていても飽きなくて、
すべて愛しい。
今この空間を、夕鈴と2人の時間を用意してくれた雨に感謝しなければならないと思う。
「これ、南の州で有名なお砂糖を使ってるらしいですよ。私は全然知らないんですけど」
「へー」
南の州といえば、サトウキビからとれる黒砂糖のことだろう。
あそこは農業で成り立っているから、予想はしていてもこの土砂降りでなにか影響が・・・
「陛下?」
「え?」
「大丈夫ですか、ぼんやりしてましたけど」
「うん、ごめんね」
黎翔は、ふとした瞬間に自分が仕事のことを思い出すのを恐ろしく感じた。
思い出すということは、忘れていたということなのだ。
それがどんなに些細な瞬間でも、自分の存在意義ともいえることが頭から離れたことが信じられなくなる。
この雨で区切られた2人だけの世界は幻なのに。
そちらに引き込まれそうになっていたなんて。
「考えごとですか?」
「ちょっとね。雨のことを考えてたんだ」
「雨、ですか・・・雨は嫌なんですけど、ひとつだけいい使い方を考えたんですよ」
そういって夕鈴は、目をつむって手のひらをあわせた。
祈るようにぎゅっと手を握る。
「こうして、昔の恥ずかしいこととか嫌なことをを思い出すんです。
そして、雨に流れろ~!って念じます」
夕鈴はぱちっと目を開けた。
「これでちょっとは気持ちが楽になるって発見したんです!」
どうですか、と得意顔をする。
「・・・」
なにか大発見をしたかのように輝く瞳を見て、思わず黎翔は吹き出してしまう。
そして大笑いした。
「ちょ、ちょっと陛下ー!なにがおかしいんですか!」
「だってそんな真剣に・・・、かわいくて、ね」
「もう、本当なんですよ。やってみてくださいよ!」
夕鈴は自分の発明が笑われたことに拗ねた顔をした。
黎翔の手を無理やり握らせる。
「さあ!」
「わかった、やってみるね」
「陛下、信じてませんね?」
不満そうな夕鈴を見つつ、黎翔はゆっくりと目を閉じた。
自分の過去のことは、思い出さなくても常に心を横切る。
今の自分とつながっている。
息をしていても、空を見ていても、筆をとっても、
まるですべてがつながっているかのように自分の中によみがえってくる。
今まで決断したことが、捨てたことが、壊したものが、
自分の足場を作っていて、それはいつ崩れるのかわからない。
それを保つためにまた同じことを繰り返すことになる。

――水に流れてほしいとは言わない。
せめて君の目に映らないように、厚い雨がすべて覆ってくれたらいいと思う。
雨の降っている間だけ、
君の隣でこの心に知った暖かさを感じていられたら、それでいい。

黎翔は静かにまた目をあけた。
「夕鈴」
「はい」
黎翔がずいぶんと長く目をつむっていたため、まさか眠りについたのかと、
彼をじっと見つめていた夕鈴は驚いて飛び跳ねた。
長いまつげと端正な顔をまじまじと見ていたのだから。
「ほんとに楽になった気がするよ、ありがとね」
「よかったです」
「うん」
「・・・」
「・・・」
「・・・本当は、私が直接きけたらいいんですけどね」
その一言は、夕鈴は黎翔に聞かせるつもりはない心の声だったのだが、
うっかり口から音として出てしまっていた。
黎翔はそれを雨の音にまぎれた独り言として、聞こえないふりをすることにした。





―――――――

(10.14.2011)

陛下は悪いことは夕鈴になにも言わないようにしていて、
夕鈴もそれは分かっているから聞かないようにしていて、
でもふとした瞬間に、お互い油断してしまうんだといいなという話です。

本当は言いたくて、本当は聞きたくて、でも絶対しない。

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