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登場人物 陛下 夕鈴
カップリング なし

・糖度ゼロで内容がないよう
・陛下って夕鈴のことどう思っているんだろう、どんな育ち方してきたんだろう、どういう人なんだろうと考えつつ。


つづきからどうぞ





陛下!
夕鈴は何か言いたそうな、微妙な表情だったのだけれど、
僕がふらふらとしているのを見てそこまで忙しくないと判断したのか、
決心したように僕を呼んだ。
「今いいですか」
まだ遠慮するような顔をして、夕鈴は尋ねる。
夕鈴もきっと急ぎではないのだろうけれど、
僕も急ぎの用事はなかったので、
隣の隣の部屋にいるだろう李順がこちらに来ないようにと短く祈り、
「いいよ」と言った。
少し休憩しよう。冬は無駄に疲れる。
「一緒に来てください」
「うん、どうしたの」
「内緒ですよ」
僕が一緒に行くことを告げると、、
いたずらをしかけている子どもみたいに、
夕鈴は楽しそうに前を歩く。
外へ出て庭をくねるように歩き、
池をまわって、橋を渡って、いくつかの殿の中も通り過ぎて、
いったいいつ夕鈴はこんな大冒険をしたのだろうと不思議に思いつつも黙ってついていく。
何度尋ねても夕鈴は楽しそうに、「内緒」と繰り返す。
僕は夕鈴の後ろで、ふわりふわりと揺れる髪を見ているだけで楽しかったから、
それ以上細かいことは気にせずに、
ただついていくことにした。
王宮の中のことなら知らない場所はないし、
危ないことがあったら僕が助けてあげられる。

「はい、つきました!」

夕鈴が後ろを振り向いて、
大きくてを広げて見せてくれたのは、壁だった。
ただの壁で、特別には見えなかった。
「…?」
なにか感想を言わなければならないのだろうけど、
壁に対して何を言えばいいかも分からず僕が少し口を開けたまま固まってしまった。
夕鈴もそれに気づいて、
「こっちですよ」
と僕を誘導する。
そこには小さな穴が開いていて
(今年中に修理しなければいけないと思ってついつい修理費を計算してしまう)、
夕鈴の指はそこを指していた。
「中を覗いてください」
言われるがままに中を覗くと、
ただ一面が白かった。
建物も、霧のせいか山も見えないし、
川もなにもない。
地面と空が同じ色になったみたいに真っ白だった。
「それでこうするんです」
夕鈴の手が僕の耳を覆う。
周りの音が消える。
ただでさえ雪で音が響かないとこを、
耳を蓋をされると、
聞こえるのは僕自身の呼吸と鼓動の音。、
あと生きていると思えたのは、
夕鈴の手のひらから伝わってくる熱と、
かすかな鼓動が伝えてくれる動きだけだ。

「世界に一人になったみたいじゃないですか」

そのとき夕鈴は無表情ともはにかんでいるとも思える表情をしていて、
僕は結局夕鈴がどうしてこれを僕に見せたかったのか分からなかった。

僕が毎日たくさんの人に囲まれて、
一人の時間がないと思ったから、
一人の世界を教えてくれたのかもしれない。
ただ綺麗で、
何も考えられないくらい綺麗な場所を見せてくれたのかもしれない。
下町の喧騒の中で育った夕鈴には、
この静けさは感動するようなもので、
それを分けてくれたのかもしれない。

雪に囲まれて、
夕鈴の体温は世界で唯一の熱のように貴重に感じられた。
何もなくてだれもいなくても、
夕鈴がその手を僕に預けてくれたら、
それだけで僕は不安ではなくなる。

「そうだね」

夕鈴がいるから僕は世界に一人ではないのだけれど、
細かいことは野暮だと思って口にはしない。
一人ではないから、
『まるで』世界で一人っきりになれることがおもしろいのだ。
そのことに感謝しなくては。

とても静かで、
まるで僕と夕鈴しかいないような気がして、
世界で一人っきりの体験ができるより、
世界で夕鈴と二人っきりの気分になれるほうが、
悪くないなと思った。





「あー寒いですね」
「結構ね。今日は冷えるな」
「お茶飲む時間ありますか」
「うん」
帰り道の半分で、夕鈴は振り向いて後ろを見た。
「……」
「どうしたの夕鈴」
「あ、いえ…」
少し気まずそうに、照れるように、夕鈴は笑う。
「こんなに帰り道近かったかなあと思ったんです。
陛下と歩いてると、時間が短くなるみたい。おかしいですね」

そんなことを言われると僕は上手く返事ができなくて、
仕方ないから君を抱き上げる。
恥ずかしがって、自分が何を言ったのか忘れてくれるのを期待して。

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