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and then you lived happily ever after
登場人物 陛下、夕鈴
カップリング 陛下x夕鈴のような、違うような

・陛下x夕鈴の軽い話をちょこちょこアップするつもりがちょっと方向が変わってしまいました。
・わがままで自分勝手で臆病で人間関係がうまく築けなくて卑屈で、保身に走ってしまう陛下。
でも夕鈴のことは大事。

※未来

陛下x夕鈴好きな人にはあまりおすすめできませんが、
ひとつの終わり方として。

つづきからどうぞ







十数年前に一度訪れただけであっても、
道は忘れていなかった。
しかしそこに目的のものはないので、
外から眺めるだけで、
すぐに別の場所に移った。

警備もない民家になど、
一人で簡単に進入することができる。
足音を立てずに入り、
寝台に自分の探す人物がいることを確認し、
彼女の髪に手をのばす。
日光や乾燥でひどく痛んでいて、
かたくなっている。
眠りにつく横顔もどこか疲れを見せているが、
その口元には笑みが浮かんでいた。
彼女を囲むように膨らんだ二つの山は、規則正しい寝息とともに膨らんで、沈む。

幸せな家族をしばらく眺めて満足し、
頬をもう一度指でなでると、
その場を離れることにした。












「さようなら」

薄暗くなった空の下、
静かで冷え切った空気の中に、
彼女の声が響く。

「ありがとう」

声に出せない言葉の変わりに、
嘘ではない気持ちを口にする。
彼女にもらったものがたくさんある。
教えてくれたこともたくさんある。

例えばこの瞬間のこと。
人との別れが、
息ができなくなるほど苦しいこと。

この心臓に重く感じる痛みは、
いつまでも忘れないのだろうか。
それが、僕が、
彼女がここに確かにいた証拠として、
持っていられる唯一のものだろうか。

彼女は最後にふわりと笑って礼をした。
その表情は曖昧になって、
最後に見たのが笑顔だったという記憶になって、ずっと残っている。









後宮の一室、日の沈みきった後、
その部屋は、蝋燭の明かりでぼんやりと照らされている。
白陽国の王、珀黎翔と、その仮初の妃、汀夕鈴は、
長椅子に並んで腰掛け、安眠効果のあるお茶を手に、いつものように他愛のない話をする。
手を伸ばしても、偶然には触れない程度にあいた距離を、黎翔は少しだけ縮めた。
そして、隣に座る夕鈴の髪をすくう。
「…なにかついてますか?」
夕鈴が尋ねるが、黎翔は答えなかった。
髪はさらり、と指の間を通る。
出会ったときは、ここまで滑らかにも見えなかったし、光沢もなかった。
毎日侍女に丁寧に梳かれている間に、
するすると指からに逃げるほどになったのだろう。
「きれいだ」
ぽそり、と意図したわけでもなく言葉が漏れた。
橙色の明かりに照らされて、
昼の日光とは違う色を受けた髪は、誘うようにちらちらと揺れて見えた。
「陛下、またご冗談を」
夕鈴の頬は少し赤くなったが、明かりが橙色なので、
はたから見ると分からなかった。
しかし黎翔がその頬に触れると、熱は伝わる。
軽く触れる。触ったら消えるとでも思っているのか、
本当に軽くしか触れない。
「陛下?」
夕鈴は返事がないことを怪訝に思い、探るように黎翔を見る。
視線が合った。
紅の瞳に蝋燭の火がいくつにも見えた。
あまりにも強い視線を受けて、怖くなって顔をそらそうと思うのに動けなかった。
「どうしたんですか」
「少し、顔が熱いね」
黎翔は頬に当てた指を滑らせた。
夕鈴の顔は固定されて、動かすことができない。
じっと夕鈴を見つめる瞳の中で、蝋燭が揺れた。
「夕鈴」
「はい?」
「あのね」
言葉が区切れた一瞬の沈黙は短すぎて、
夕鈴は瞬きもできずに紅い瞳を見つめていた。
「戻りたい?」
夕鈴の唇が小さく震える。
動揺していることを隠すように、夕鈴はわざと強く黎翔の瞳を見つめた。
どこへ、と聞かれなくても夕鈴は答えることができる。
しかし答えは口に出せない。
正解は決まっているのだろうか。
ここで『いいえ』と答えたたら、
側においてくれるのだろうか。
「はい」
意図したよりもはっきりした声で、
夕鈴は答えた。
手は震えているが、音は震えない。
「…うん」
黎翔は短く返事をして、
茶に手を伸ばした。
「あの」
お茶を一口飲むだけの沈黙もつらくて、
夕鈴は思わず口をひらいた。
「ん?」
「あの、私は、どこにいても陛下の見方ですから。
それだけは嘘ではありません」
この言い方ではなにか嘘をついたみたい、と夕鈴は自分で気づいたが訂正しなかった。
嘘はついている。
戻りたくない。
でも、戻りたくないと言ってしまったあと、
どのような反応が返ってくるのか想像もできなくて怖くなった。
何があっても隠しとおすと決めた気持ちを、
包み紙に隠して打ち明けた。
自分が傷つきたくないと思ってしまった卑怯さが、
口にした言葉で覆いきれずににじみ出てきているようで、やけに耳障りに聞こえた。
ああ吐き気がする。夕鈴は口元を押さえる。
「そっか」
そう言って、黎翔は微笑みながら返事をしてくれた。

その顔がなんとなく寂しそうだったのは、
気のせいだったろうか。












黎翔と最後に会話した夜を思い出す。
夕鈴は水瓶に映った自分の顔をかき消した。
あのとき違う答えを口にしていたら、
自分はここにいなかっただろうか。
それとも、どちらにしろ変わらなかったろうか。
最後まで嘘しか言えなかったことを後悔しつつも、
この気持ちが迷惑でしかないことを考えると、
こうして下町に戻ったことは、
一番悪い結果ではなかったのかもしれないと思えた。

自分の利益のために、言葉を操り表面だけ笑顔を振りまく王宮の人々と、自分と何が違うだろうか。
一緒にいたい、とその思いのために、間違えたりしないように、
一つ一つ言葉を慎重に選んだのだ。
本心を隠す。
それは自分の、欲望のため。
素直な気持ちなんて、言えるわけがない。
隠さなければ傍にいられないのだから。
それしか方法がなかったから、そうしただけだ。
どれだけ軽蔑されたって、嘘をつかなければ、傍にいられなかったのだから。
結局だめだったけれど。

そこで夕鈴ははたと思考をとめて、
そんなふうに考えるのは思い上がっているだけだと気づいた。
自分の行動や気持ち一つが、理由になるわけもない。
きっとどのように答えても、
あの夜自分が後宮を去ることは決まっていたに違いない。

黎翔に思いを寄せていることも、
このどうしようもなく苦しくて、愛しい気持ちも、
その思いを向けられた黎翔には、
なんの意味もないもの。
自分には想像もつかないような理由があるのだろう、と夕鈴は考える。
あるいは、なんの理由もなく、ただ飽きたかもしれない。
ただいらなかったのかもしれない。もうが用がないのかもしれない。
考えたって考えたって分からない。
自問自答しながら、夕鈴は意味もなく水で手を洗った。
味方になるなどと言いながら、
いつでも簡単になくなれるのだから
馬鹿馬鹿しいことをいってしまったと思う。
一歩王宮の外に出ただけで、
夕鈴ができることは何もなくなる。
自分が黎翔に贈った言葉はもう全て、
ただ意味のないものになって、
いらない記憶と一緒に捨てられていることだろう。
ただ事実として残っているのは、
もう二度と、一人の庶民の娘が、
国王の姿を一目見ることは叶わないということだ。

ぽたぽた音を立てながら、井戸の中に雫が落ちる。
深いその底で水を弾いて、遠くで音が反射する。
王宮を去ってはじめのうちは、
次の仕事を見つけたり、身の回りを整理するのに忙しすぎて、
泣いている暇もなかった。
夜に一人きりのとき、
時々こみ上げてくる涙を抑えるくらい強がることもできた。
しかし日が経って
自分の手が土や水でボロボロになっていくにつれて、
王宮での記憶に霞がかかっていくのを感じた。
手入れをされていた手や髪が、
見慣れた荒さを取り戻していく、
それとともに、もはや思い出となってしまった記憶が薄れていく。
消えていくのを止められないと、何度も確かめるうちに、
夕鈴は強くいることができなくなってきた。
袖で拭うこともしなくなったら、
涙は勝手に流れて、流れ出て枯れると、勝手に止まる。
「はぁ」
弟の青慎にさえ見られなければ、涙もぐちゃぐちゃの顔も構うものかと思う。
そこに少しだけ姉としての誇りが残っているのは救いだった。
夕飯の献立を考えて、
買い物の予定を立てる。
明日も明後日も、同じように過ごす。
そうして、多分、
今流れた涙がただの苦い思い出になるころには、
自分の隣には今は顔も想像できないだれか違う人がいるのかもしれなかった。













「本当によろしかったのですか」
李順が尋ねる。
黎翔は顔を向けようか迷って、
そのまま遠くを見つめて短く答えた。
「ああ」
「承知しました」
もうこれ以上追求はしない、と示すように
李順はいくつかの書簡を卓子に残して立ち去った。
黎翔はすでにぼんやりとしか覚えていない夜を思い出す。
卓子に残された茶はその日と同じものであるが、
淹れた人間が違っていると、
味も別のもののように感じた。

はっきりと決断をしていたわけではなくて、
ただ決めなくてはいけないと分かっていたことと、
ようやく向き合っただけだった。
あまりに愛おしい彼女を前に、
ときどき我を見失ってしまいそうになることがあった。
その味わったことのない感覚は、
決して不快ではないはずなのに、黎翔をとても不安にさせる。
あたたかく、居心地のよい彼女の隣に甘えて、
答えを出せないままに引きずってきたことは今なら不正解だったと分かる。

仮に雇われた妃は、都合のよい時期にいつでも解雇できると思っていた。
少しずつ信頼関係を築いてからは、
本当に永遠にともにすごすことを考えてもよいと思った。
まさかどちらも選べずに、
誤魔化しながらいることになるとは予想だにしていなかった。

夕鈴の口にする言葉ひとつひとつと、
その表情を思い出す。
あの日、
黎翔の問いかけに対して、
気遣いように微笑んだ。
夕鈴が嘘をついたとき、彼女との間にできた、
どちらが作っているのかもわからない透明な壁を強く感じた。
そしてそれがとてももどかしく、気に入らなくて、
破壊してしまいたいのに、
そこに居心地のよさを見出しているのもまた確かなことだった。
何を隠されているか、
どこかで気づいているのに無視をする。
そして夕鈴はそのことを責めもせずに、
もしくは気づいていなくて、
黎翔を気遣って嘘をつく。
本来の彼女なら、選ばない手段だ。
なんでも顔に出てしまう彼女の口から出てくる嘘は、
悲しくて、
しかしその嘘のおかげで保たれている距離に、
助けられていたのは事実だ。
だからといって、
惹かれてやまない彼女の性格や、表情や、言葉が、
自分の隣にいることで、
少しずつ変わっていくその様子を、
身近で見ていることにこれ以上耐えられただろうか。
下町で見た生き生きとした表情も、
だれかと喧嘩するときの本気の顔も、
黎翔に向けられることはない。
それを比べて、
一緒にいるだけで、
窒息させているような気持ちになる。

夕鈴の変化が、
自分では彼女を幸せにできないのだという事実を、
無視できない形で教えてくる。

彼女は嘘をつく。
嘘をつきながら笑う。
そうしてできた距離を、
埋めようとしなかったのは、
多分、彼女ではなくて…

黎翔は筆をとった。
今さら考えても仕方がないけれど、
あのとき、
戻りたくないと言われていたら、
彼女を抱きしめる覚悟はできていただろうか。

今こうして選んだ道は、
正解でありますように。

ここから離れて、
君は幸せになりますように。



「愛してるよ」










足元まで来た子どもを拾い上げて、膝に乗せた。
微笑んでやると、
その子どもは嬉しそうに両手をたたいた。
「あたたかいわね」
日差しが室内まで入ってきて、
風も心地よく、こんなときでなければ昼寝をするのに最適の日であったのだが、
夕鈴は膝に座る孫のために黒い着物を用意しながら、遠くのほうへ視線を向けた。
国王崩御の知らせは、その事実のあった次の日には夕鈴の耳にも届いた。
今日は葬儀が行われている。
齢は60を超えていたから、
その治世の間に行われたことを思えば、
短い人生だったとは言えない。
皇太子ももう立派に成人している。
これから世がどう変わるか夕鈴には分からないが、
夕鈴と同じように、
子どもたちにもこの国と王を誇りに思ってほしいと願う。
夕鈴の中では、
いつまでも若く、輝いている王。
机に向かうのは嫌いで、昼寝が好きで、
突然変わる二つの表情から、目が話せなかった魅力的な人。
いつか抱いていた淡い気持ちが、
ふわりとよみがえり、くすぐったい気分になった。

「いいお天気だって言って、昼寝をしにいってしまいそうね」

ふふ、と笑うと、
夕鈴は膝に座る子どもに頬すりをした。

















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2012.11.21

補足

夕鈴は手放したものの、
自分の選んだ彼女を幸せにする方法はきっと間違っていなかったと信じたくて、
どこかででも夕鈴が自分なしで幸せでないといいなあと期待しながら、
夕鈴を見に行ったら、もう家族がいて、子どもがいて、
それをみて正妃をとる決心をする。

というのが冒頭です。

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凄く、胸が締め付けられました。
陛下にここで後悔しないように、本編では夕鈴と幸せになっていってほしいです。
うさきさんへ
今の陛下を見ていると、夕鈴をこんなふうに手放す選択肢はぜったいなかったなと思います。思っていたよりも陛下は夕鈴に執着しているというか・・・しかも夕鈴も、思ったより陛下と一緒にいることに執着していたので、なるべくして一緒になって、幸せそうで本当によかったですよね。今後もいろいろあるでしょうがきっと夕鈴と一緒に幸せになってくれると信じています。
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