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登場人物 夕鈴、水月、方淵
カップリング なし

キリノさんが主催してくださっている
夕鈴・方淵・水月さんのトリオ好きのための、
素敵企画『匂紫』に投稿させていただいたものです。

小説一覧表をつくるにあたって
散らばってる作品もサイトに集めておこうと思い掘り起こしてきました。

つづきからどうぞ。

―――――


外を見つめながら、水月は小さなため息を漏らした。
色素の薄い髪が柔らかい風に揺られる。
伏せた瞳にかかる睫毛も同じ色で、空の色をした瞳に影を落としていた。
「水月さん?」
その様子を見ていた夕鈴が、後ろから声をかける。
「お妃様、いかがなさいましたか」
夕鈴の姿を目に入れると、水月の表情はいつもと同じ柔らかい笑顔になった。
しかしそれさえも輝かしさはなく、どこか悲しそうだ。
「いえ、なんでもないんですけど・・・」
「そうですか」
様子がおかしいから話しかけただけで、
特になにを言うか決めていなかった夕鈴は会話を続けられなかった。
夕鈴が口ごもれば、普段の水月であれば気まずさを紛らわせるような言葉をかけてくれるのに、
今日はそれがない。
やっぱり、少し様子がおかしい気がした。
「水月さん、なんだか・・・」
「申し訳ありません、お妃様。
今はあまりゆっくりお話している時間がありませんので、また」
「はい、ごめんなさい。いきなり話しかけてしまって」
付け足す言葉も見つからなくて、夕鈴はただ頷いた。
水月は無言で微笑む。
去っていく後姿もなんだか頼りなく見えて、思わず追いかけてしまいたくなる。
夕鈴が元気がないときには、
魔法のように一言で、水月が励ましてくれるというのに、
自分ではうまくいかない。
もともと夕鈴は体当たりで挑むところがあって、
相手の様子を読んで気の利いたことを言うのは苦手だった。
そもそも本当に元気がなかったのさえ分からない。
ただ、外を見つめてため息をつく姿があまりに寂しそうだったから、
声をかけずにはいられなかっただけだ。
しかし、水月は夕鈴との立ち話も拒絶してしまった。
やはり突然現れた妃だから、信頼されていないのかもしれないが。
「水月さん・・・」
「お妃様」
もどかしい気持ちのまま水月を見送っていると、無愛想に呼ばれた。
顔を見なくてもだれかはわかるが、一応振り向く。
そこには腕を組んで仁王立ちをする国王の臨時補佐官がいた。
「何か?」
李順との特訓で鍛えたお妃スマイルで返答すると、
もともと狭くなっていた方淵の眉間にさらなる皺がよる。
「妃ともあろうお方が、陛下以外の男の背を熱心に見つめるのは関心致しません」
夕鈴が水月の様子を心配することを、
まるで黎翔への裏切りのように言われて腹が立った。
売られた喧嘩は買わなければならない。
「熱心って・・・はっ、方淵殿!」
方淵を睨んでいた瞳が見開かれた。
そして、夕鈴は方淵にすがりつくように衣をつかむ。
「な、何を」
「ちょっと、頼みたいことがあるんですけど!」
「なぜ私が貴女からの依頼など」
面倒なにおいがするので、方淵は心底嫌だと顔に出すのをためらわなかった。
「聞いてくれるだけでいいですから」
夕鈴の大きな瞳が方淵を捉える。
じっと真剣に見つめられるのは気分が悪かった。
こうして熱心な彼女を跳ね除けると、あたかも犯罪を犯しているような錯覚を覚える。
別に、そのまま拒絶して立ち去ったって、いいはずなのに。
断ろうとして口を開いたのに、出てきたのは正反対の言葉だった。
「分かりました。聞くだけでしたら」
ぱあっと子どものように輝く顔も、好きではない。
妃として感情を表に出しすぎるのは、相応しくないと思う。
その上こうして、実害を伴うとは、本当に好ましくない。
好ましく、ない。



最近雨が多い。
しとしと、と趣のある降り方ではなくて、
ただ植物に水をあげるために必要だからという理由で、
空が適当に水を撒き散らしているような、そんな降り方をする。
「おい、氾水月」
ぶっきらぼうな呼びかけに応じて、水月は足を止めた。
ずかずかと歩いてくる同僚の歩き方があまりに気品を損なっているので苦笑いしてしまう。
いつもならどれだけ速く歩いても、名門貴族の出身だけに、
ある程度綺麗な歩き方をするのに、あまりにも雑な足の運び方だった。
今日はしっかり定時に出仕し、許可なく職場を放棄してもいないから、
彼に文句をつけられる理由はどこにもないはずなのだが、
なにか過去のことをぶり返すつもりなのだろうか。
そうなったら適当に流して帰ってしまおうと思った。
「貴様、何か悩み事があるか」
前置きもなにもなく、いつもと同じ不機嫌そうな表情のまま、
方淵の口から似合わない言葉が飛んできた。
水月はぽかんと口を開けたまま方淵を見る。
「なんで、そんな・・・ことを聞くの?」
真面目に聞かれたので真面目に返答しようとしたが、
方淵と自分の関係と、彼の口から出てきた言葉があまりにも不釣合いなので、
途中で顔がゆるんで笑ってしまった。
「なにがおかしい」
「いや、おもしろいなと思って」
「おもしろくない」
「そうだね、おもしろくはないんだけど、君が言っていると・・・」
くすくすとおさえた笑いをしていると、方淵が一歩前に出る。
「お妃様が貴様の様子がおかしいから理由を聞いてほしいとおっしゃっていた。
面倒なことをするな」
「お妃様が・・・?」
そういえば今朝、声をかけられてうまく会話をできなかったことを思い出した。
「それは困ったね」
「困っていないで早く理由を言え」
方淵がいらいらした口調で会話を進める。
そのうえ、様子がおかしい、という部分を否定する時間もくれないつもりらしい。
待ってくれる気はなさそうだった。
「全然私のことを心配しているように聞こえないなあ」
「当たり前だ。なぜ私が貴様のために懸念せねばならないのだ」
「全く、いい同僚だよ」
なににも包まれずに、厳しい口調で次々と言葉が飛んでくる。
苦笑いして、水月は空を見る。
雨が強くなってきた。





「桜、ですか」
方淵は、水月に言われたことをそのまま告げた。
夕鈴には頭の整理が追いつかない。ぽかんと口を開けたままである。
「はい。あの男は、雨のせいで今年は桜の花びらが例年より早く散ってしまい、
桜が舞う庭で音楽を楽しめないことが悲しいと申しておりました」
政務室で報告をするときと同じきびきびとした口調だった。
この文章の合間合間に、
水月によって、春の訪れを感じさせてくれる、儚くも美しく桜が舞う庭、新しい気分にさせてくれる音楽、などいくつか形容の節が混じっていたのだが、
それは方淵によって無駄だと判断され縮小された。
報告は迅速、正しく、簡潔に、が方淵の考えだ。
「そういえば、今年はずっと雨が降っていますね」
夕鈴が窓の外に目をやる。
いつもなら満開の桜が咲いて、
庭の池に花弁が浮いているのがこの季節だ。
「うーん・・・」
「そういうわけですので、どうしようもありません。
桜は来年になるまで二度と咲きませんから」
正直水月の調子が良くても悪くてもどっちでもいいので、
方淵は非協力的に言い切った。
なぜ自分がこんなことに貴重な時間を割かなくてはならないのだ。
「方淵殿」
夕鈴の顔が輝く。
これはまた面倒だ、と直感的に悟った。
逃げようと思って体をそらしたのに、夕鈴の手は方淵の衣をつかんだ。
「なら桜を咲かせればいいんですよ!」
明るく言う夕鈴を、方淵は見下した目で見る。
「ですから、今年の桜はもう・・・」
「よし、紅珠に早速頼んでこよう!」
「お妃様?!お待ちください、また氾家の・・・」
言いたいことだけ人に言って、方淵の話は最後まで聞かずに夕鈴は走って消えてしまった。
廊下を走るな、と独り言を付け足しておいた。




紅珠から、私邸に水月を招くのは久しぶりだった。
最近は忙しくしていると聞いていたから、特に遠慮していたのだが、
夕鈴の頼みとなれば、紅珠は断らない。
しかも大好きな兄を呼べるいい理由ができて、
乗り気にならない理由はなかった。
「兄様、こちらですわ」
紅珠は水月の手を引いていく。
「どうしたんだい、紅珠。そんなにはしゃいで珍しいね」
常に華やかな雰囲気の紅珠ではあるが、
踊るように歩く、というのか、浮き足立っているように見えた。
「あ、水月さん!!来てくれましたか!」
見覚えのある桃色の衣が目に入った。
そして、なぜか国王陛下の唯一の妃が立っている。
「どうぞ!」
夕鈴が水月に駆け寄り、その手を引いた。
そして、廊下を曲がり、庭が見えた。
「・・・え?」
ふわりと目の前に、桃色のものが降ってきた。
たまたま手のひらに落ちたものをよく見ると、
それは桜の花びらだった。
「これは、」
庭の木には、桃色の帯や衣がかけられている。
紅珠のものだろうか。
舞い散る花びらと、風になびく桃色の衣が、春の満開の桜を連想させる。
夕鈴と目が合った。
夕鈴は照れ笑いのような、苦笑いのような微笑を見せた。
「あんまり、うまくはいかなかったんですけど・・・。
今年はこれでも、いいですか」
「兄様、」
紅珠に、いつも使っている笛を渡された。
そこで、水月はつい先日方淵に伝えた悩み事を思い出す。
自然と笑みが漏れた。
「では、・・・初めの一曲は貴女のために」
夕鈴の前で恭しい礼をして、その手をとって触れるか触れないかのところまで己の唇を寄せた。
そのとたんに、頭の上に勢い良くなにかの塊が落ちてきた。
「っ・・・!」
水月は桜まみれになる。
衣の中も花びらに進入されたらしくくすぐったい。
夕鈴が上を向いて怒鳴った。
「ちょっと方淵殿!ちゃんと綺麗に降らせてっていったじゃないですか!
せっかく集めたのに!」
上を見ると、露台に気難しい顔をした方淵がいるのが見えた。
「ふん」




笛と琵琶を披露したあと、水月は自分で茶をいれた。
夕鈴がやると言ってくれたが、
お礼のひとつとして、水月は譲らなかった。
片付けると夕鈴と紅珠はまだ2人で話したいことがあったらしく、
室内に消えていった。
「下らない虚言で人を使うな」
自分の屋敷に戻ろうと門を出たところで、方淵に話しかけられた。
いつの間に消えたと思っていたが、彼は外にいたらしい。
「なんのことかな」
笑って答えると、方淵は軽く水月を睨む。
「気まぐれには付き合ったのだから、その分は働くことだな」
そう言い捨てて、方淵はさっさと消えてしまった。
「別に、嘘ではないのにね」


―――――

2011.1.4
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