スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
おかえり
登場人物 陛下、夕鈴、李順、老師、青慎
カップリング 陛下x夕鈴

リクエストでいただいていた、
陛下x夕鈴で シリアス最後はハッピーエンド です。
これは…シリアスか?

つづきからどうぞ。



―――――


体が重いのも、頭がくらくらするのも、
寝不足なせいだと思っていた。
季節の変わり目で落ち着かず、
いつもより睡眠時間が減っていたのだ。
だから、
政務室でめまいがして、とうとう倒れたとき、
一番驚いたのは倒れた夕鈴自身だった、


「熱病じゃな」
「熱病?」
夕鈴が横たわっている寝台の横で、
李順と老師が話していた。
夕鈴は頭が朦朧として、
二人の会話がはっきりと聞き取れるわけではない。
しかし熱という単語はひろうことができた。
ああ、自分は熱があるんだ。
そう思うと急に寒気がする気がした。
熱があるから、頭がぼんやりとして、気持ちが悪いんだ。
「そんな大雑把なくくりがありますが。
病名は何です」
「そうは言ってものう、
これはまだはっきり原因も分かっとらんやつで、
ワシに出来ることももうないわい」
「貴方それでも後宮の管理人ですか」
いらついた李順の声が頭に響く。
「なんじゃい若造が。管理人もなにもあるかい。
本当にもうないんだからしょうがないじゃろーが。
とにかく薬を飲んで、寝てるしかないわい」
夕鈴の視界に、卓子の上に置かれた陶器の器と硝子の杯、そして水差しが見えた。
ここで、寝ているだけ。
後宮の奥で、何もしないで、寝ている。
職場に迷惑をかけてしまうという意識が夕鈴の心にぐさりと刺さった。
あまり病気をする体質ではなかったのに、
なぜこんなところで。
「…まあ、はやり病ではなかったのは幸いですね。
被害者も彼女だけですし」
「そうじゃのう。
薬がまかないきれるかが心配じゃがな」
「新しい掃除婦を手配したほうがいいですか」
「わしはいなくても構わんぞ。
もともとあの娘が来る前はだれも掃除するなんて言いださなかった場所じゃ」
その後ぼそぼそと続く会話はもう夕鈴には聞き取れなくなっていた。
最後の二人の言葉を頭の中で反芻しつつ、
静かに落ちていく意識の中で、夕鈴はひとつ決心をした。






「夕鈴、大丈夫?」
うっすらと夕鈴が目をあけたところ見て、
黎翔は握った手に力をこめた。
流行病ではないことが確認されて、
やっと李順が夕鈴に会うことを許してくれて、急いで向かってきたのだ。
自分の妃に会うのに、なぜ側近の意見を聞かなければならないのかと、
切りかかる勢いで怒鳴ったのだが、李順は無表情だった。
それが仕事です、と一言言われ、
無言のまま黎翔は会話をしていた部屋を出て行ったのだ。
待っている間はほんの数日だったが、
毎日眠ることもできず、
夕鈴のことが頭から離れなくて、
気が狂うかと思ったくらいだ。
後宮で眠る夕鈴は、汗をかいて、息苦しそうにしていた。
うなるような声の中に、
ひとつだけ聞き取れた単語があって、
それは黎翔が予想したものではなかった。
夕鈴が意識を取り戻すと、黎翔は自分でも驚くくらいに、
苦しみから解放された気分になった。
夕鈴があまりにも苦しそうで、このまま目も覚まさないのではないかと思ったのだ。
「へ、いか」
「うん。そうだよ。熱まだ下がらないんだね。水はいる?」
近くにおいてあった水差しから、冷たい水を注いだ。
夕鈴が小さくうなずいたので、
それを口元へともっていってやる。
夕鈴は目線を黎翔にむけて、
お礼を述べようとして口をあけたが声がでなかった。
仕方がないので先に水を口にふくむ。
「ありがとうございます」
「ううん。何もできなくてごめんね」
「いえ、ほんとうに、よくしてくださって。
私、仕事もできてないのに」
「いいんだよ。もっとゆっくり休んで」
本当にその通りだ。
夕鈴が健康でないというのは、
黎翔の心の健康に大きな影響を及ぼす。
それを黎翔が自覚したのはこの3日の間だが、
それが解消されるなら、どれほど時間がかかっても構わないから、
きちんと休んでほしい。
それに、夕鈴が後宮で寝ていて、
好きなときに会いに来れるのだから、
忙しくしているよりもいいところもある。
ぼんやりとした顔の夕鈴を見て、しかし黎翔は少し良心がうずいた。
先ほど夕鈴がつぶやいた単語を思い出す。
病気で心細いときに、
こんな知り合いもいない場所にいさせておいて、いいのだろうか。
もちろん最新の設備や、医師や、薬を提供することはできる。
しかし老師も医師も、薬を飲んだらあとは本人の気力しだいだと言っていた。
確実に死に到る病ではないが、必ず治る保証もないのだという。
「あの、陛下」
「何?」
「実は、お願いがあるんですけれど」
「うん、どうしたの?なんでもいって」
夕鈴から頼みごとをしてくれるなんて、願ってもないことだった。
自分にできることはなんでもしてあげたいが、
夕鈴はあまり頼ってくれることはない。
その夕鈴が、今、自分にお願いがあるといってくれた。
内容がなんであろうと、全力を出して叶えなくては。
「実家に、帰りたいんです」
夕鈴は、言い出しにくいような、悲しそうな、黎翔には読み取れない表情でつぶやいた。
対する黎翔も、どんな顔をしていいか分からなかった。
こんなときは、
まず夕鈴を安心させられるように、笑顔がいいのだろうか。
「うん」
「…いいんですか」
「いいよ。夕鈴が、そうしたいなら。
ここ知ってる人もいないし、不安だよね。
うん、そうだね。それがいいね」
夕鈴がまだ目を覚ます前、苦しそうに口からつぶやかれた単語は『おかあさん』だった。
病気のときは、だれでも不安になったり、心細くなったりする。
そのとき手を伸ばして、
夕鈴が選んでくれるのが自分ではなかったことに納得はしながらも、
心に走る痛みをごまかすために微笑むことしかできなかった。





あっさりと承諾された実家への帰宅に、
夕鈴は自分で言い出したことであったし、
予想はしていたのだが、
自分でも驚くほど傷ついた。
老師と李順の会話で、
病気で寝ているようなバイト妃は後宮に必要ないのだろうなと感じたし、
なにもできないのに高価な薬を出してもらうのも後ろめたくて、
逃げてしまった。
がんばってきたというのは、自己満足な評価なのだろうか。
王宮にとって自分がどれだけ無価値で、いつでも入れ替えができる存在なのか、
何日も寝ている間にひしひしと感じてきた。
人々の噂話で、ゆっくり休めという声で。
だれにも早く戻って来い、とは言われない。
追い出されるまで、側にいようと思ったのに。
実際に、自分が邪魔かもしれないと感じてしまった瞬間、
もうそれに耐えられないのだ。
いつか、いらないと言われる瞬間が、
病に伏せて本当に迷惑をかけるだけの身分になったとき、
目の前の現実に、明日にでも起こりうることだと実感してしまった。
そういわれるくらいなら、自分から消えたい。
夕鈴は、着替えをさせてくれている侍女に向かって微笑んだ。
彼女たちの世話になるのも最後だ。
きっと、自分はこの熱病で死んだことになるのだろう。
「いつもありがとう」





「李順、医師の手配はすんでいるのか」
黎翔は、夕鈴のもとから戻ってくると、すぐに李順に声をかけた。
あまりに長引いているので、思われている病気と違うのではないかと疑っている。
「ええ、大丈夫ですよ。熱病の専門家を呼びました。もう着いていますよ。
陛下と入れ違いになったようです。
すぐに看てくれるそうです。薬も足りるでしょう。
夕鈴殿一人だけでしたら、
医師もかかりきりで全力で治療にあたれます」
「そうじゃな。
後宮なら清潔で風通しもよいし、
食事も不自由ない。
このまま安静にしている他ないからのう」
ひょっこりとでてきた老師も会話に加わる。
「そのことなんだが…」
「なんです」
気まずそうな黎翔の様子を見て、
李順が発言を促した。
「夕鈴を、実家に帰してあげたい」
「はあ?
何をおっしゃってるんですか。話をお聞きでしたか。
清潔な場所で安静にするのが一番なんですよ。
失礼ですが、夕鈴殿の実家は普通の民家でしょう。
ここより環境が整っているとは思えませんね」
「だが、夕鈴は帰りたいと言っている。
患者の気力しだいだというのなら、
希望どおりにするのがいいのではないか」
「それは一理あるかもしれませんのう。
こんないつ暗殺されるか分からない環境では、
体はよくても心は休まらんわ」
「老師、貴方さっき後宮で休ませると言っていませんでしたか」
「わしゃあ、陛下のおっしゃることも一理あると申したまでよ。
今いる医師に判断を委ねましょうぞ。
素人が決めることじゃないわい」
老師の意見にその場の二人はひとまず賛成し、
夕鈴のもとにいるだろう医師に判断を仰ぐことにした。






「心配だ」
「心配なら手元においておけばいいでしょう」
「…お前からそんな意見が出るとは意外だな。
彼女が望むことをするのが私の望みだ」
李順の瞳が、驚いたように見開かれた。
それを見た黎翔の顔は怪訝そうになる。
なにかおかしなことを言ったか。
「薬は十分手配しましたし、
その他の注意事項はすべて弟の青慎君に伝達してあります。
思ったより環境は悪くありませんでしたから、あとは夕鈴どのの体力しだいですね」
「李順…」
黎翔のその後に続く言葉を予測して、
李順は毎日でなければいいにしよう、と思っていた。
しかし、黎翔の言いたかったことでは李順の考えたそれではなかった。
「医者を増やすぞ」
黎翔は短く言い切った。
「はい?」
「わが国の医療は、10年前と比べて何か変わったか」
「…」
「20年前は?50年前は?
そこまで画期的な進歩は何もない。
今回も、最後は患者の気力に任せるなどという無責任な方法をとっている」
「どうなさるおつもりですか」
「研究所を作る。そこに人を集めて、把握できる情報をすべて整理させよう。
一人ひとりの医師が知識と経験に頼っているだけでは、医者の技術も数も不安定なままだ。
一月後の会議で話に出す。それまでに外部の協力者と連絡をとっておけ。
人選はお前に任せる」









黎翔は一人自室に入ると、
椅子に腰をかけて筆をとった。
卓子の上には簪が置いてある。
夕鈴がいつもつけていたもので、
後宮を出るときに預かった。
しかしそうなると、
今夕鈴の手元に王宮を思い起こさせるものは何もない。
それは後悔していた。
一番に頼ってくれる存在ではないにしても、
忘れられたくはない。
少し離れたくらいで記憶から消えることはいとしたって、
一日思い出してもらえない日があると思うだけで、
心臓が石のように重たくなった気分になるのだ。
自分は何をしていたって、夕鈴の面影を探してしまうというのに。
夕鈴は、ここにいると安心できない。
自分が安心できないのだから、
他人が安心できなくても当たり前だ。
しかし、夕鈴が王宮にいるのを当然のように感じる瞬間がある中で、
夕鈴にとってやはり帰る場所はいつまでも下町なのだと思い知ることは、
耐え難い事実だった。
信頼関係を築いてきたと思っていたが、
夕鈴にとっては王宮は永久にいたい場所ではないのだ。
自分の考えにジクジクと心を傷つけられて、
黎翔は思わず胸に手をあてた。
こんな感覚は今まで味わったこともなく、処理の仕方が分からない。
寂しい、一言ですますことはできない。
夕鈴がいなくなる恐怖とは何度か戦ってきたが、
その根底にある、夕鈴のゆるぎない王宮への拒否と、下町への愛着を感じた気がした。
「戻ってこないなんて、言わないでね」
独り言をつぶやく。
大事な人だから、守らなくてはいけない。
一人の人間として夕鈴に必要とされなくても、
黎翔には他にもできることがある。
王として、一人の国民である夕鈴に、できることもある。









ぼんやりと目をあけた夕鈴は、
久しぶりの光にめまいを感じた。
「姉さん!」
蒼白な顔をした弟が目に入る。
「せ、しん?」
見慣れた天井と、古ぼけた壁。
我が家だ。
「ずっと寝ているから、もう僕、どうしたらいいか分からなくて…本当に、心配して」
きちんとしゃべろうとして、抑えられていた涙が一気にあふれ出した。
夕鈴はゆっくり手を伸ばして、
青慎の腕に触れる。
「ごめんね」
「よかった」
優しい弟は微笑みを見せてくれた。
それがあまりにも優しくて、夕鈴も泣き出した。



「おなか空いてない?熱はもうないのかな」
青慎が夕鈴の額に手を当てて、熱をはかる。
微熱程度で気になるほどではなかった。
「おなか空いたわ」
「卵粥作ったから、持ってくるね」
「ありがとう」
夕鈴は青慎の背中を見送って、
寝台から起き上がることにした。
体にあまり力が入らない。
熱を出して最初に倒れてから、いったいどれほど時間が経ったのか検討もつかなかった。
どれくらい、あの人に会っていないかも分からない。
夢の中では、何度も抱きしめてくれた。
それに安心して、はっきりしない意識も中でも、
大丈夫だと思えた。
会いたい。
けれど会いに行くこともできない。
もうクビにされたのだろうか。
もしそうだとしたら、これから借金はどうしたらいいのか。
次の仕事を明日にでも見つけなければ、
薬代などもかかっているだろうことを考えると不安でならない。
戻って来いとも言われずに、
夕鈴は下町に送られてきた。
ただただ優しく、ゆっくり休んで、と最後に言ってくれたあの人は、
今何をしているだろう。
ふと、夕鈴は寝台の横に置いてある木箱に目をやった。
前は、こんなものは置いてなかったはずだ。
食べ物だろうか。
だれか見舞いに来てくれたのかもしれない。
手を伸ばして蓋をとると、
そこに入っていたのは小さな紙切ればかりだった。
しかも、裏紙だ。


『おやすみ』
『よく寝てるみたいだね。熱は下がった?』
『おはよう』
『今どんな夢見てる?』
『早く会いたいな』

小さな紙切れの文字は、もし見間違いでなければ…
「それ、李翔さんからだよ。遣いの人が何度も来てくれて、
熱のことも、いろいろ教えてくれたんだ」
台所から戻ってきた青慎が、
顔を覗かせた。
「裏にいろいろ書いてあるの、おかしいよね。
紙をあまり使うと姉さんが怒るからって、」
「そう、なの」
「薬も、すごく援助してもらったんだよ。姉さんは起きないから、水に溶かせて飲ませる方法も見せてくれたし。
僕の出世払いでいいって、いってね」
「『待ってるよ』」
最後の一切れを、口に出して読んだ。
「うん。待ってるって、言ってたよ。早く帰ってきてほしいんだって。
姉さんがいないと、御遣いの人、眼鏡の人なんかね、王宮の仕事が滞るって怒ってたよ。
姉さんいったいどんな仕事しているの」
黎翔を机に座らせるのに苦労している様子を想像して、夕鈴は少し笑ってしまった。
「ただの下働きよ」










「ではみな、よろしく頼む。ここにいる者の名前は歴史に残るだろう」
黎翔は手元の書簡の束を見、回りを囲む宰相や大臣たちを見回した。
そして微笑む。
「李順、行ってくる」
すぐに隣に立つ側近に向かってそう告げると、
持ち物は愛用の剣以外すべて投げ出して、身一つになって会議室を飛び出した。
後から追いかけた李順の声が廊下に響いた。

「陛下!どこへですか」

「決まっているだろう。迎えに行くんだ」


黎翔の手には、
一切れの紙がおさまっている。
最後にやった手紙の返事だ。


『今、帰ります』

スポンサーサイト
 
コメントの投稿
secret


トラックバック URL
http://osakanaya3.blog.fc2.com/tb.php/73-d5ed0b0b

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。