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しらないことも
登場人物 水月、方淵、夕鈴
カップリング なし

・水月さんと方淵メインで、日常?の話
・思ったより長かったです



――――


「何をしているの」
廊下に膝をついている人物をみかけ、その後姿に見覚えがあるから声をかける。
しばらく無視をされて、そのまま動かないで結われた黒髪が揺れるのを見ていたら顔を見せてくれた。
一瞬だけ、しかもたいそう不機嫌そうだ。
「貴様には関係ない」
柳方淵の足元には書簡や紙が散らばっていて、
ついでに彼の右人差し指からは赤いものが滴っている。
よく見れば足元には、小ぶりな刃物が光って見えた。
「指、大丈夫?」
水月が声をかけてから、指を隠すように握られていた拳はなんだか滑稽で、
その上怪我を隠すという目的も全く果たされていなかった。
「関係ないと言っただろう。氾家は余計なことに首をつっこむのが趣味なのか」
「まさか」
「なら声をかけるな」
フン、と短く鼻を鳴らすと、
方淵は早足で廊下を歩いて消えてしまった。
物陰から数人が様子を伺うようにしているところが見えた。
水月は一瞬だけそちらのほうに目を向けて、
顔を確認する。
彼らもすぐにいなくなった。





くだらないことをする連中は、どこにでもいる。
水月自身が書類を間違えて渡されたり、
嘘の報告をされたりすることもあるし、
突然夜間に襲われることもあれば、
重要な報告があるにも関わらず無視されることもある。
仕事に関する資料は必ずすべて自分で裏をとり、
報告も信用のあるものから別に伝えてもらっているので、
正直王宮にいる官吏のした失態で、水月にとばっちりが来ることはほとんどない。
しかし水月のように、
『慣れていない』だろうし、うまく立ち回りもできなさそうな彼は、
いったいどうするのだろう。
「まあいいか。私には関係ないし」
仕事をする気分でもなくなって、
水月は使う人間の少ない書庫へ入ることにした。
今日中に終わらせなければならないことはすべて午前にすませてある。
水月が手が空いていると知ると、
さらに無駄な作業を追加してくる人間もいるものだから、
できるかぎり逃げたい。
本当は今もこんな埃くさい場所にいないで、
自宅で庭でも眺めていたいのだが、
最近は水月の動向に目を光らせる人間も少なくなく、
さぼると後でさらに面倒になることもあるので、
どちらがより面倒かを天秤にかけて行動しなくてはならない。
面倒というわけではないけれど、
例えば狼陛下の妃が、
とてもとても善良な顔をして、
真剣に水月に労働の大切さを語ってきたりしてくる。
自分のような人間にそんなことをしているより、
きっと部屋で昼寝でもしているほうがまだ有意義だと思うのだけれど、
どうしてもそれはいえない。
あの、人を疑ったことのなさそうな妃なら、
水月の頭を使えばいつでも簡単にあしらうことができるのに、
そうさせないような何かがあるあの人はとても不思議だと思っている。

書庫へ足を踏み入れると、
本を日光から守るために薄暗くなっていて、急な明るさの変化にめまいがした。
あまり刺激は好きではない。
「良いご身分だよなあ」
小さい声とは言えない音量で、
書庫に音が響いた。
数人の話し声だ。
水月がいることに彼らは気づいていない。
だからこそ、その本人の話をしているのだろう。
「この前までひきこもってたくせに、
いきなり補佐官だなんて。
陛下も何考えてんだか」
「氾水月を推したのは陛下じゃないって聞いたぞ」
「は?」
「お妃様だって」
「なんだそれ」
「宴のときに柳方淵と氾水月、やけにお妃様と仲良くしてただろ。それで二人が…」
どこで話題を切ろうかと考えながらも、
こんなところで妃の陰口をたたく頭の足りない人間には何を言っても無駄だろうなと思う。
仕方がないから適当なところで介入することにした。
「後半は聞き間違いとしてあげたほうがいいのかな」
王宮で、狼陛下の唯一の妃の醜聞をでっち上げたりしたら、
何が起こるか、わからないわけではあるまいに。
軽蔑の視線は隠さずに、水月はつまらなそうに手に書籍を取った。
古いもので、埃が立った。
意味もなくそれを元に戻す。
カタン、と軽い音がする。
青ざめた顔の官吏二人が、水月を見つめている。
まだ若く、位もない。
こんな必要ともされない場所は知っていて、そこで彼らにとって有害でしかない雑談をしている。
「暇なら、私の仕事を手伝ってくれても良いよ」
補佐官なんて対した仕事でもないだろうと思っていたのに、
以外と面倒だった。
もちろんできないわけではない。
どこで手を抜くかも分かっているし、どこで抜いてはいけないかも分かっている。
どんなに能力の低い人間でも、どこかで使うことはできる。
「ね」
「……」
若い官吏は水月が口角をあげた瞬間、
ねずみが逃げるように走り出した。
「返事くらいしてほしいね」







水月はもう書庫にはいたくなくなって、
廊下に出た。
今度はまぶしくて、気分が悪くなる。
もう帰宅してしまおうか。
「おい!」
そうだ、帰ろう。と決意を決めたところで声をかけられる。
このように嫌なときに声をかけてくるのはたいてい人が決まっていて、
水月の予想通りに後ろに立っていたのは難しい顔をした柳方淵だった。
「なぜこんなところにいる」
「心配しなくてもすぐに戻るよ」
「追加の書簡だ。陛下からだぞ」
「そう」
水月は短く返事をして書簡を受け取る。
仕事をする気分でもないが、楽しいことをする気分でもない。
家に帰ろうという気持ちも邪魔が入ったせいでなくなってしまった。
仕方がないからこれだけ片付けておこう。
「…何か問題でもあるか」
「ないよ」
「言いたいことがあるなら手短にはっきり言え」
水月は、
先ほど書簡で水月と一緒に悪く言われていて男を見た。
彼も自分も、そして妃も、王宮では異質のように見られている。
だからといって、異質なも同士だからといって、仲良くしているわけでもないのだ。
その彼とひとくくりにされたことなのか、
今朝の反応なのか、
人から悪事を働かれてもまっすぐにしか取り扱えない彼ら二人になのか、
水月の腹のなかにすっきりしないもやの塊のようなものを残している。
こんなくだらないことばかりの世界にいないで、
静かな場所で音楽のことだけを考えて生きていけたら良いのに。
そうさせてくれない王宮にも、王にも、この目の前の男にも、妃にも、
言い用のない怒りを感じることがある。
「だから…、柳家の人間には、ないよ」
今朝の方淵の言い分を思い出して、水月はわざと家名を付け足した。
「フン、ずいぶん珍しいもの言いをするな」
愉快そうな顔が目に入った。
珍しいといったら、その表情のほうが珍しいではないか。









「水月さん、」
軽い足音がして、水月は振り向いた。
黎翔からだという書簡は簡単な内容のもので、
これなら政務室でいいだろうと判断し資料を加えて提出し終えた。
「方淵殿と喧嘩したんですか!」
水月は文章が理解できなくて、
はて、と首をかしげた。
そして単語の意味を分析して、ようやく言葉自体は理解できたが、
言おうとしていることは理解できない。
喧嘩とはどういう状態だろうか。
不仲のことを言うのなら、彼と自分はいつだって喧嘩中だったように思える。
特に敵意があるわけではないが、
友好関係を築きたいと思っていたわけでもない。
そもそも関係と呼べる関係もないのに、喧嘩なんてできるものなのか。
「どういうことでしょう」
「だって、今日一言も会話してないじゃないですか。
いつもだったら怒鳴りあ…怒鳴ってるのは一人ですけど、
一緒にいるのに」
「そうですか」
「そうですよ」
いつも方淵と会話をしている記憶はなかったが、
妃の目にそう映っているなら肯定しておいたほうがいいだろうか。
「特に変わったこともありませんが。
彼のほうが朝からあまり機嫌がよくありませんね」
「八つ当たりされたんですか」
妃の顔は同情するようだった。
水月にとってはだれかに八つ当たりされようと怒鳴られようとたいして興味はないので、
どうでもいいと思っているのだが、
一応そういうことにしておくことにした。
「そうですね。朝彼が指に怪我をしていて、
しかも資料や持ち物をばらまいていたので、
声をかけたら怒られました」
「ああー、素直じゃなさそうですもんね。
きっと恥ずかしかったんですよ。
それで喧嘩してるんですか」
「いえ、喧嘩ではないのですが…」
そもそも彼のほうに恥ずかしいなどという感情があるのか不明だ。
「水月さんも、せっかく声をかけたのに冷たいことしか言われなかったら傷つきますよね」
「傷つく?」
傷つくとは、どういう心理状態をいうのだろうか。
水月は目の前で展開される会話がよく理解できなくて、
思わず会話している相手を見つめてしまった。
「でも大丈夫ですよ。
そういう喧嘩はすぐ仲直りできますから。
友達ってそういうものです」
「はい?」
いよいよ自分には関係ないと思われる単語が出てきた。
「ええ」
「私と彼は、友人ではありませんよ」
「え?」
「友人ではありません」
きっぱりと二回言うと、今度は妃のほうが不思議そうな顔をした。
適当に会話を終わらせようと思っていたのに、
野放しにしておけない言葉が次々出てくるので、終わらせることができない。
友人なわけがない。
知り合い未満というわけではないだろうが、それ以上関係が進む予定は全くなかった。
「水月さんは、方淵殿が指に怪我をしていて、
書簡を散らばせてしまって大変そうだったから、
心配で声をかけたんですよね」
「…ええ」
心配という部分を否定するべきかと考えたらが、
会話が余計面倒な方向に進みそうだったのでやめておいた。
「そして、せっかく声をかけたのに、
ありがとうもなくて、怒られたんですよね」
「はい」
「それで傷ついたんでしょう?
せっかく心配してるのに、なんなんだ!って思ったんですよね」
「……」
どうも解釈が違うようだが、
水月はどう否定していいか思いつかなかった。
水月にとって、どう会話をつなげていいか分からないなんてことはかなり珍しい。
それほどまでに、
この妃のいうことは理解できなかった。
「それはつまり、友達ですよね?」
「いえ、友人ではないと思います」
とりあえずここはどうしても同意できないので、
つまらない繰り返しの返事をしてしまった。
目の前の彼女は、
しばらく水月を見つめた後、
微笑んだ。
「そうですか。大丈夫ですよ」
何が大丈夫なのか、説明もせずに彼女は行ってしまった。





「ニャー」
足元にすりよってくる暖かい感触で、
水月は下に目を向ける。
橙色と茶色のまだらの猫だ。
「迷子かい?」
しゃがんで抱き上げると、
猫はくすぐったそうに身をよじらせて、
すぐに腕から逃げてしまった。
そのときに、軽く手に熱く痛みが走った。
「つれないなあ」
手を押さえながら猫の消えていったほうを見る。
「おい!」
「あ、また君かい」
廊下を駆けてきたのは、
できれば今一番会いたくない柳方淵だった。
「またとはなんだ。あれは凶暴だぞ」
「え?」
「勝手に王宮に入ってくるから、何度も捕まえようとしているのだが、
人をかんで逃げる」
猫のいるだろうほうに目をむけ、方淵は舌打ちをした。
「君、今朝は何をしていたの」
「今朝?」
「廊下にいたときだよ」
「またその話か?今と同じことだ。あの猫を捕まえようとしていた。
危険だからせめて爪を切ろうとしたのだが、うまくいかなかった。貴様も被害にあっただろう」
「それで書簡を落としたんだ」
「…汚してはいないぞ」
「そう」
水月は方淵の手元を見る。
傷はたくさんあって、
引っかき傷や噛まれた後がかさぶたになっていた。
水月の手にも、同じような細い傷が小さくついていた。
「…騙されたな」




―――――


2012.11.6.

まだまだあるでしょう。

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