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楽しい
登場人物 陛下、夕鈴
カップリング 夕鈴→←陛下

久しぶりに陛下と夕鈴で短い話。

つづきからどうぞ

――――


規則正しく動く、
雑巾と、手。

「ゆーりん」
窓を拭く音が聞こえる。
曇っていた窓は次々よみがえる。
はじめはその様子がおもしろく、
また夢中になって雑巾で作業する夕鈴を見ているのもなんとなく幸せで、
黎翔は部屋の入り口に黙って立っていた。
しかしあまりにも夕鈴が気付かない。
わざと小さく音を立てたり、咳払いしてみたりするけれど、
きゅっきゅっという高い音に阻まれて、
夕鈴の耳には届いていないみたいだった。
我慢できずに名前を呼んでみる。
「え?」
ああ、気付いてくれた。
もし名前を呼んでも気付いてくれなかったらどうしよう、
と馬鹿みたいに不安になりながら出した声はなんだか情けなかった。
「ええ?!陛下!どうしてこんな埃っぽいところにいるんですか!」
黎翔の顔を見たとたん夕鈴の顔は青白くなった。
用事があるなら呼び出してくれればいいのだ。
もし黎翔をこんな汚いところに連れていたのを上司の李順に知られたら、
何を言われるものか分からない。
「いやあ、がんばってるなと思って」
「こんなところにいたら着物汚れちゃいますよ!」
「大丈夫だよー」
雑巾を放り投げ、夕鈴は黎翔を部屋から追い出そうとした。
しかしその体を押そうと思って思いとどまる。
つい先ほどまで雑巾を触っていた手で、
果たして着物に手をつけてよいものか。
夕鈴の動きがとまったのを好機に、
黎翔は帰る気のなさそうに話をはじめる。
「夕鈴は掃除が好きなんだね」
「そうですね。楽しいです」
「そっかあ」
「あ、でも一番は掃除じゃないですよ」
「え?」
夕鈴の何気ない言葉に黎翔は一瞬どきりとした。
「一番は、何?」
夕鈴の大きな瞳を見てたずねると、
夕鈴は笑顔で力強く答えてくれた。
「一番はやっぱり市場で値切ってるときですね!!」
「…へえ」




「僕は夕鈴と一緒にいるときが一番楽しいけどね」
ぼそ、と小さくつぶやいたが、
夕鈴はそれを知ってか知らずか値切りのコツを語り始めた。




しばらく他愛もない話をしたあと、
夕鈴はさすがに黎翔を仕事に戻るように言って追い出した。
いつまでも埃まみれで汚い場所にいされるわけにいかない。
ましてや仕事の休憩には些か長すぎた。
しぶしぶ帰っていく黎翔の背中を見ながら、
夕鈴は雑巾をしぼる。
黎翔はこちらを振り向かないけれど、
夕鈴は角を曲がるまで目で追うことができる。


―――こうして当たり前みたいに傍にいる時間が、
夢のように一番幸せ。





(声に出さないから、届くことはない)


10.15.2012
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