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否定
登場人物 方淵、夕鈴、黎翔、李順、水月
カップリング 方淵→夕鈴?


とっっっっても遅くなってしまって申し訳ありません。
去年のクリスマスごろにリクエストをいただいていたもの。

リクエスト内容
「方淵の気持ちに陛下や水月さんたちは気づいているのに、当事者の方淵と夕鈴の2人だけ全く気付かなくて、でもなんだかモヤモヤしてる方淵」



――――――――――――――――――



「…顔が近い」
低いつぶやきが漏れた。
国王の独り言を聞いたのは、すぐ隣にいた李順だけであったが、空気が変わったのは他の官吏たちにも伝わったらしい。
何人かが悪寒を感じて体を震わせた。
もちろん黎翔の殺気は、いつもどおり仕事をしている家臣たちに向けられたわけではないから、
彼らには気の毒だが、ただのとばっちりだ。
「陛下、お気持ちは分かりますが、無意味に官吏たちを怖がらせるのはやめていただけますか」
「お前に私の気持ちが分かるのか?」
「ええ、理解はできませんが」
あっさりそう言ったが、李順は、政務室の片隅に目を向けた。
そこには臨時妃の夕鈴と、その夕鈴と怒鳴りあう柳方淵の姿がある。
そして、その二人が至近距離にいるのだ。
「夕鈴殿も、あそこまで距離をつめるのは些か問題がありますね・・・陛下、立ち上がらないでくださいね」
我慢の限界なのか、黎翔の体が少し浮いた。
それに気づいて李順が止める。
せっかく椅子に腰掛けてくれているというのに、あの臨時妃が原因で妨害されたくはない。
「だが・・・」
黎翔は不服そうな顔をした。
ただ二人が意見の相違や相手に不満があって怒鳴りあっているだけだというのなら、少しくらいは見過ごしてやってもいい。
あまりに近い距離はやはり気に入らないのだが、黎翔の神経に障るのは、
それ以上のことがあるからだ。
柳方淵がときたま意味もなく夕鈴を見つめていることがあって、
そういう行動に出るような邪念を抱いているくせに、
本人が気づいていない。
無意識に夕鈴に視線を送って、ぼんやりと見ているくせに、
下心なんて全くありませんといった態度で、夕鈴の隣にいる。しかも距離が近い。それが気に入らない。
敵意をこめて送る視線の中に、まれに混じる『違うもの』がある。
「本人は本気でそう思っているんですから、仕方がないでしょう」
「あの態度で白だとは思えない」
「夕鈴殿を回収されてもかまいませんが、これを片付けてからにしてくださいね」
臨時の妃とそれを取り巻く人間関係に、李順はまったく興味がない。
仕事に差し障りがなければどちらでも。
李順は涼しい顔をして、どさどさと重なる紙の束を黎翔の机に置いた。






休憩になり、方淵は長椅子に腰を下ろした。
小さなため息をつく。
机においてある茶を一気に飲み干して、陶器の器は乱暴に置いた。
「乱暴だね」
「なんだ、氾水月」
不機嫌そうな柳家の次男がいるせいか、休憩室には方淵と水月しかいなかった。
「別に?」
「気味の悪い笑みを浮かべてこちらを見るな」
「見てないけど」
「見ているだろう」
水月は少し考えるような素振りをする。
「んー・・・私のことを言う前に、自分の視線に気をつけたほうがよさそうだけど」
「は?」
わけがわからず、方淵は目の前の男を不愉快そうな顔つきで見た。
この空間にこの男と一緒にいるだけで不愉快だか、とぼけたような、つかみどころのない物言いが、特に関わりにくいと思う。
「今日の陛下は一段と恐ろしかったね」
「貴様、陛下を恐ろしいなどと言って・・・」
「君のせいで」
「なぜ私のせいになる。何事も滞りなく進んでいる」
「・・・気づいてないのならいいのだけど、
正直私は迷惑を被っているから、いつかなんらかの形で詫びてもらわないと割に合わないな」
「意味が分からん。もっと明確に言え」
はっきりとしない水月の発言に、方淵はいらつきを隠さない。
このような婉曲的言い回しは好かない。
妙な駆け引きやら腹の探りあいは貴族の生活とは切り離せないものではあるが、
方淵は、言いたいことは言うべきときに、はっきりと口にするほうだ。
「毎日毎日飽きずに見てるからね」
「…だからなんの話だ!」
「はあ、これでふざけてるわけではないんだよね」
真顔の水月と目が合った。
普段ぼんやりとしているくせに、変なときだけ迫力がある。
睨んだときの威圧感なら、方淵はもちろん負けていないが、
心の中を見透かされているような気がして落ち着かない。
飽きずに見ているといわれたら、もちろん方淵は黎翔の動きを見ている。
次に何が必要となるかを迅速に判断するためには、観察は欠かせない。
今日も資料を完璧にそろえたし、関連しそうな書物も調べてある。
そういえば、朝政務室の机の上には、まだ手がつけられていない書類があったか…
政務室を思い浮かべ、それと同時に無意識に心に浮かんだ人物が、方淵の想像の中で視線を向けてきた。
「なっ…」
脳裏に現れた人物が思いもよらず方淵は思わず声を出してしまう。
だれが、あんな品もない妃なんか視界に入れるか。
「方淵?」
「な、なんだ!」
「何を動揺しているの」
「動揺などはしていない」
水月はまたしばらく黙って方淵を見る。
居心地が悪くて仕方ないが、ここで目をそらしたり、
話題を変えたりしたら逃げていると思われそうでそれはできなかった。
「もしかして自覚があったの?」
「貴様の発言の意図が分からん」
「まあどちらでもいいか」
話題に飽きたようで、水月は方淵とは違う方向に顔を向ける。
「なにがだ」
「いや、なんでもないよ」
「つまり何が言いたいのだ!私が懸念するとしたら陛下の御身のことだけだ!」
「はいはい、そんなに大きな声を出さなくても、
君が陛下のことが大好きなのは、だれでも知っているよ」
建物が揺れるのではないかというくらいの怒鳴り声で、
水月は頭痛を感じた。
方淵は仕事に熱中しすぎているのだか、生真面目な性格のせいなのか、
人や自分の感情には疎くて、それが水月をいらだたせることがある。
つつけば反応があると分かったから、これ以上は黙っていようと思った。
また怒鳴られたら、一日頭痛がとまらない気がしたからだ。








ちら、と窓際に視線を向け、方淵はすぐに顔を背けた。
窓のところに立っているのは狼陛下の妃である。
午後は政務室に来る予定はなかったのに、
あろうことか間違った報告書を間違った部署に回してしまったものだから、
急いで責任者をつかまえなくてはならなかった。
このような失態は、3日徹夜しようとしたこともなかったのに、信じられないことだ。
方淵は、これもそれもお前のせいだ、と言わんばかりの形相で夕鈴を睨んだ。
勝手に人の頭の中に浮かんでくるなんて、だれの許可をとって現れたのか。
不愉快極まりない。
夕鈴は袖で少し顔を隠しながら黎翔の方を見ていた。
そして遠慮がちに黎翔の袖を引くと、黎翔がかがんで二人の距離が近くなる。
陛下の仕事の邪魔をするな、と怒鳴りたくなった。
黎翔が夕鈴の耳元で何かを言って離れた、夕鈴はやがてふと立ち位置をずらして、正面を見る。
その様子をしっかり睨んでいた方淵と、夕鈴の視線が合った。
そして、なぜか夕鈴が、ずんずんとこちらに向かって歩いてくる。
「方淵殿」
「何か?」
夕鈴のつめる距離が近すぎる気がして、方淵は一歩後ろに引いた。
しかしそれでは負けたようになってしまうから、下げた足をまた元に戻す。
「なんだかぼんやりしていますけど、疲れているのではないですか」
「いいえ。それに貴女に言われることではありません。温泉で失神する貴女と違い、体調や環境は管理しております」
はじめは遠慮がちに心配そうな面持ちでいた夕鈴だが、
方淵が低い声で返答すると、すぐに修行で鍛えた笑顔を見せた。
「あら、そんな昔のことまで覚えているなんて、さすが陛下の優秀な補佐官殿ですこと」
「貴女は自分の立場さえ記憶できないようですね。政務室内を勝手に歩き回って」
何度も何度も繰り返している主張を述べると、心の中の霞が取れたようだった。
やはり、自分が気に入らないのは、政に関係のない人間が官吏と同じ場所にいることであって、
それを注意する人物が他にいないから、仕方なく妃を見なくてはならないし、
忠告もしなくてはならないのだ。それは陛下のためだ。
おかしくない。何もおかしいことはない。
監視すべき行動をしている人間に視線を向けても、なにも不自然なことでないから、
水月の発言は言いがかりか、人を困らせたくて意味深長な言い方をしているだけだ。
そう結論づけた。
「後宮に戻られてはいかがですか」
「ええ、そうしますわ。というのもそろそろ午後の政務が終わりそうだから、
先に後宮に戻って陛下のためにお茶を用意しようと思っていたところですのよ。
方淵殿って千里眼でもお持ちなのかしら!」
入り口のところで立ち尽くす二人の、声がだんだん大きくなる。
それに伴い二人の間に流れる不穏な空気が政務室に広がって、
周りにいた官吏がちらちらと視線を向け始めた。
「ですから陛下、立ち上がらないでくださいってば。まだまだご署名していただきたいものがたくさんありますよ」
声の大きさに比例するように近くなる距離に、思わず席を立とうとした黎翔を、李順がピシャリと諫めた。
「……」






一通り怒鳴りあったあと、夕鈴は顔に張り付いて引きつった笑顔の顔のまま政務室を後にした。
「失礼いたしますわっ!」
方淵に向かって、噛み付くように威嚇の表情をした。
「なっ…女人のする顔ではないぞ、あれは…」
あまりに驚いて、心臓がどくどくいっている。
ああそうだ、驚いたからだ。


――――――――――――――――――――――――――――

(2012.06.12)



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