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できることがそれしかないから
登場人物 陛下、夕鈴
カップリング 陛下x夕鈴

リクエスト内容の『未来のシリアスな話』を書こうとしたら予想以上に夕鈴がかわいそうになった。
新年からすいません。
明るい話もそのうち!

・夕鈴が正妃
・陛下がまた怪我してる
・30話を読んで、陛下と夕鈴について考えて書いた結果がこれだ


つづきからどうぞ

―――――――――――

貴方に、笑ってほしいと思っていた。
喜んでほしかった。
なんでもよかった。
なんでもいいから笑っていてほしい。

そうしていつか、
貴方の名前が歴史の中で不動の位置をしめたとき、
背筋を伸ばして人々の前にたつ姿を想像する。
自分の幸せの作り方を知らない貴方が、
そのとき少しでも笑っていてくれたらいいと思った。

どれだけくだらないといわれようと、
これは私の夢だった。
抽象的すぎると、詰られたって仕方がない。
自分でもうまく説明なんかできない。

幸せの定義は人それぞれだけど、
笑顔はその目印のひとつになるというのは完全に間違っているとはいえないはずだ。
貴方がため息ばかりついているのなら、
私がそれを消したいと願うのは、ごくごく自然なこと。

私は、
私の視線に気づいた貴方が、
無理やり作る笑顔が大嫌いだった。
そんな顔をさせるくらいなら、
隣にいないほうがいいと思った。
もし貴方が幸せになる条件に、
私が貴方に二度と会わないというものがあるのなら、
足音もさせずに消えてみせる。
それだって、愛だと思う。
傍にいるだけが、選択肢ではない。

しかしそれでも貴方が私の腕を引くなら、
私はそれを振り払えない。

私は、貴方のことがすごく好きだった。

でも、もう、私はなにも選べない。
貴方に幸せになってほしいという、
そんな思いも霞んで、だれにも見えなくなった。








夕鈴は、目の前の壁に突き刺さった矢が、
勢いを消しきれずに震える様子をじっと見つめていた。
まるで夢を見ているようだった。
体中の感覚は失われて、気づかないうちに床に座り込んでいた。
矢が飛んできたということは、
だれか、夕鈴を好ましく思っていないものが近くにいるということなのだ。
動かなくてはいけない。
動かないと、なにがなんでもここから動かないと。
そう思うのに、やはり体のどこにも力は入らなかった。
「夕鈴!」
名前を呼ばれて、夕鈴の体はやっと頭とつながった。
そうして震えが止まらなくなる。
小刻みに震える手のひらを握り締めて、
なんとか体を少し傾ける。
そして、愛おしい人の姿が目に入った。
「陛下・・・」
黎翔は、夕鈴が無傷でいるのを確認して微笑んだ。
「よかった」
「陛下!」
夕鈴の瞳から大粒の涙がこぼれだす。
勢いに任せて黎翔に飛びつき、力強く抱きしめる。
背中に回した手に生ぬるい感触を感じて、
夕鈴は黎翔から驚きで離れた。
背中に回していたその手には、どろりとした赤黒い液体がついていた、







夕鈴が、臨時の花嫁から、本物の花嫁になったとき、
その背中を押してくれた人は数少なく、例えば氾家の子女である紅珠くらいだった。
彼女が臨時の妃という称号を隠して、
狼陛下の唯一の妃として王宮にいたとき、
そのひたむきでいつでも黎翔を思い、気さくな態度で臣下にも優しい夕鈴は、
着実に居場所を築いていったことは事実ではあったが、
それは、彼女の立場を固めるものでは決してなかった。
夕鈴に後ろ盾がないことと、妃として生まれたものではなく、
知識も教養もないという事実だけが残る。
そしてその事実は、正妃となった夕鈴にとって、
がんばればなんとかなるような、甘い障害ではなくなっていた。
歴史、商業、法律などは、死ぬ気で勉強すれば知識はついた。
それでも夕鈴にいつまでも足りなかったのは、
彼女が生まれ持った長所からくるものであったのかもしれない。
彼女はいつまでも臣下にとってどこか身近に感じられる存在であったし、
それゆえ正妃として品格を疑われることもあった。
国の重鎮や、隣国の皇族との関係を保つのも、
夕鈴には歩くときのはじめの一歩から、名乗るだけでも胃がきりきりと痛むほどだった。
どこから出てきたのかも分からない妃とは、
顔も会わせてくれない皇族もいた。
夕鈴は駆け引きも下手だった。
飛び交う会話の中から、全ての人間の真意を汲み取り、
お互いに不利にならないよう絶妙な選択肢を選んで、
慎重に話を進めなくてはならない。
夕鈴が思いつきで口走ったことが、
何千、何万もの人間を動かすこともあった。

命を狙われても、
だれに陰口を言われても、
真正面から罵られても、
なにかに失敗しても、
それでも夕鈴はめげない。
一日の大半は勉強をしてすごし、
歩き方、離し方、茶の入れ方、音楽、詩、文学など、
必要と思われそうなものはなんでもやった。
自分が苦労するのはかまわない。
それでも夕鈴が耐えられなくなるのは、
ふとした瞬間に自分の欠点を責められて、
それを時の国王、珀黎翔と結び付けられることだった。
こんな女を正妃に選んだ、
黎翔の力量を誰かが疑う。
そこからどうでもいい小さなことにかこつけて、
黎翔を引きずり落とそうとする。

初めのころ、それに泣いたら、
黎翔は、自分がそんなことを言わせないくらい強い王になればいい、と言って笑った。
それから夕鈴は、黎翔にその話はしなくなった。

ただこの人が好きだと気づき、
傍にいたいから傍にいた。
何度間違いだと思っても、
だれかを傷つけても、
がんばったらなんとかなる。
誠実に暮らしていれば、正しく暮らしていれば、きっといつかうまくいく。
そういう信念を強く持って、
そこに縋り付くように、毎日毎日唱えていたのに、
その言葉は、もう夕鈴を救わない。
愛する人の命を奪う自分は、
本当に呪いのようだと思う。







寝台に横たわる黎翔を見つめながら、夕鈴は涙を流した。
ほとんど表情も変わらず、
声ももらさないで、ただ涙だけが夕鈴の衣を濡らした。
黎翔は後ろから短剣で一突きされていた。
刺客が狙っていたのは、夕鈴だった。
夕鈴が初めに王宮に来たとき、
夕鈴の失脚を狙って刺客を向けてくる人間は何人もいたが、
そのときとは話が違う。
今は、もう下町には帰れない。
例えば自分が今刺されたとして、そのまま死ぬとしても、
ここで妃として眠るほかはない。
そして、それは、同時に黎翔が夕鈴から解放される術もないことも示していた。
こうして、黎翔が夕鈴の変わりに刺されても、
夕鈴は王宮に居続ける。
勝手に家出をしようなどという考えは抱きもしなかった。
もし夕鈴が、何も考えずにどこかに逃げたり、
夕鈴が自責の念で自害などをしてみれば、
それは瞬く間に黎翔の失態として広がる危険性があった。
こんな女を隣において、かわいそうな人だと思う。
「陛下」
眠ったままの黎翔の頬に触れた。
冷たかった。
また、夕鈴の瞳から涙が流れる。
もうどうしたらいいか分からない。
夕鈴はどこにも居場所がない。
下町には帰れない。もう夕鈴の家はここなのだ。
夕鈴が王宮にいる理由になったはずの人物は、
今自分のせいで刺されて昏睡状態にある。
なにがあっても、もう黎翔に頼ることはなくなっていた。
一言相談のつもりで持ちかければ、
黎翔の仕事に支障をきたしたり、だれかが死んだり、
国の兵が動いたり、はたまた法律が変わる可能性も秘めている自分の発言が、怖くてしょうがない。
最近ではもう夕鈴は、必要がなければ口をきかないように自分を押さえ込むしかなかった。

単純だった、貴方が好きだという気持ちはどこへ行ったんだろう。

今でも夕鈴が黎翔を好きだと感じる気持ちに嘘はないが、
その気持ちが隠れてしまうほど、夕鈴は王宮の渦に飲み込まれそうになっていた。
好きだ、と実感する時間も、好きだ、と相手に伝える時間も、
もう夕鈴にはない。
ただ日々をどろどろとした流れに奪われて、
死なないように呼吸をしているだけだった。
「夕鈴殿、貴女も部屋に戻って休まれてはいかがですか」
李順が入ってきて、椅子から動かない夕鈴に声をかける。
黎翔が倒れてここに運ばれてから、夕鈴はずっと同じ姿勢でいる。
「いえ、大丈夫です。李順さん」
夕鈴は、李順に静かに話しかけた。
夕鈴自身はなにも感じ取っていないが、
正妃という立場をこなしていくうちに、夕鈴の声音は変わっていた。
小さな声なのに、ずっしりと心に重い。
その一言一言の価値が、声の重さとなっているみたいだ。
「なんですか」
「陛下の前から消えたいんです」
ぽつり、と口に出した。
消えたい。
それが本音だった。
あれだけ傍にいたいと願った人の隣にいるのに、
今自分は消えたいと思っている。
「なんとか、なりませんか」
「夕鈴殿、それは」
「お願いします。私、死んでもいいです。この前の刺客に殺されたってことにして、
そのままどこかに捨ててもらってかまわないんです」
夕鈴の目は、どこか遠くを見ていた。
李順はなにも言えずに立っていた。
常に前を見て、なにかあっても決してつぶれずにきた夕鈴が、
李順の前で初めて口に出した、後退する言葉だった。
「夕鈴、殿・・・」
「李順さん、私、疲れました」
夕鈴の瞳から、会話の間ずっとたまりっぱなしだった涙が落ちた。
疲れた。
疲れた、本当に。
姿勢を正して歩いて、常に笑顔の仮面をつけて、
誰かの一言にどんな意味があるのか、頭は常に冴えていなければならない。
だけど、そんなこと、がんばればよかった。
でもがんばった結果はこれだ。
夕鈴は黎翔の顔に視線を向けた。
青白い顔の愛する人が、弱弱しい呼吸をしている。
「どこで、間違えたんでしょうか」
その答えは、だれもくれなかった。










黎翔が目を覚ましたとき、最初に目に入ったのが夕鈴だった。
それだけで黎翔の口元はゆるくなる。
「夕鈴」
愛しい彼女の名前を呼ぶと、
微笑んで返してくれた。
「ずっと、いてくれたの?」
起き上がろうとしたら背中に重い痛みが走ったが、無視して体を起こした。
出血が多かったせいで意識は失ったが、
元々昔ならもっと傷だらけで走り回っていた黎翔だ。この程度たいしたことないと思っていた。
自分の体よりも気になったのは、
目の前の夕鈴のよどんだ瞳だった。
最近の夕鈴は、自分には何も言ってくれなくなっていた。
黎翔の問いかけに模範解答をくれるだけで、
望めば愛の言葉はかけてくれるけれど、
空気に混じってどこかへ消えてしまうような儚い響きをする。
「夕鈴」
もう一度名前を呼んで、
手を伸ばす。
夕鈴が体を寄せてくれたので、その頬を固定して唇を重ねた。
軽く触れるだけにして、すぐに離れる。
「久しぶりな気がする」
「そうですね」
夕鈴に触れるのも、夕鈴と目を合わせることさえ久しぶりに思えた。
最近の激務と、夕鈴も忙しくなってしまって、
2人が出会うのは公式な祭典で並ぶときくらいだった。
「もう一回してもいい?」
「はい」
返事をもらうか否かのところで、もう黎翔は夕鈴の腕を引いていた。
初めに軽く口付けをして、
顎をとらえて何度も繰り返す。
「夕鈴?」
ふと、黎翔は、自分の頬に温かい水が伝わるのを感じて、
夕鈴を解放した。
目の前の夕鈴の瞳から、静かに涙が落ちていく。
「どうしたの」
「陛下、」
この人の熱を感じることができれば、
なにもかも忘れて愛しさだけがあふれ出す。
そうして何度も自分の身体にからみつくものを誤魔化して、
ここまで歩いてきた。
「陛下っ」
夕鈴は、黎翔の首に腕を回した。


選べない。
選ぶ必要もたぶん、ない。
この手を離すことはできないから。
もっと、がんばればいい。

そしたら、きっとなんとかなるの。








――――――――――

(01.02.2011)









陛下と夕鈴の最大の壁は、多分、2人とも相手のことを幸せにしよう、としか考えてないこと。
一緒に幸せになろう、とか、私もこの人と一緒にいて幸せになる、とか考えてなくて、
とにかく全力で相手を傷つけないように、嫌な思いをさせないようにって気をつけてて、
でもそれじゃあ、2人で幸せにはなれないと思うんだ。
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