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君がいてもいなくても何も変わらない話 3
登場人物 みんな
カップリング 多分陛下x夕鈴


※夕鈴が死んでます
捏造した『東の国』の人がちょこちょこ出てきます
・今回は少し短いですが切りがいいから切る


続きからどうぞ
――――――――――――


東の国の第三王女が、白陽国の国王、珀黎翔の正妃として迎えられることは、
白陽国から東の国へと正式な使者が送られる前に、すでに王宮内に知れ渡るところとなった。
「やけに静かだな」
黎翔は、隣を歩く李順に向かって呟いた。
黎翔が歩けば、官吏も女官も何かを恐れるように下を向く。
王宮から話し声が消えた。
「季節のせいでございましょう。雨が多いと、気分が沈みますから」
そういう李順も、以前よりさらに顔色が悪く見えた。
「準備は進んでいるのか」
「ええ」
2人は後宮へと続く廊下の前で止まる。
彼女ではない女が、妃という称号を持ってこの廊下を歩くことになる。
今度は、偽者でも臨時でもなく、正妃という称号を身につけて歩く。
「李順、お前は先に戻ってくれないか。私は少し後宮の様子を確認する」
「後宮を?」
「ああ」
黎翔の表情からは、李順にはその考えが汲み取れなかった。
正直、李順は後宮にはもう近づきたくないと思っていた。
思い出すのが嫌だった。
「・・・分かりました」
現在の後宮は、掃除、家具や装飾品の新調で慌しい。
白陽国から東の国へと使者が届き、遠まわしな縁談に快諾する旨が伝えられたとたん、
東の国から、王女好みの装飾品が一気に届いた。
家具はもちろんのこと、絵画、壺、身の回りにつけるもの。
そしてすでに先回りして、王女に近かった侍女が、白陽国の女官と共に調整に当たっている。
「順調か」
王が短く声をかけると、そこにいたものは即座に頭を下げた。
「そう畏まるな。邪魔をしに来たわけではない。作業を続けてくれ」
広い部屋には、白を基調として、装飾品で青を差して落ち着いた様相の家具が置かれている。
一見簡素に見える作りをしているが、近づけば細やかな装飾に目を奪われる。
ほとんど完成しているようだった。
「悪くない」
「お褒めに預かり光栄でございます」
東の国の侍女の頬が、誇らしげに赤くなる。
よっぽどその王女を大切にしているのだろうことが目に見てとれた。
黎翔は、白陽国の女官たちが気まずそうに固まっているところにも目を向けた。
彼女達は王に向かって礼をしてから、廊下に出て行ってしまう。
それを追いかけて、黎翔も廊下に出た。
庭の整備は全て白陽国の女官で終わらせてしまったようだった。
こちらも王女が好きな白がほとんどである。
黎翔も庭に出る。薄桃色の花の前で、女官たちが涙を流しているのが見えた。
「・・・陛下」
黎翔に気づいて、彼女たちは袖で涙を拭った。見苦しくないようにと姿勢を整える。
「失礼致しました」
「構わん」
「みな花の美しさに感動し、涙を流していたところでございます。
王女様をお迎えするにあたりまして、
後宮に勤めるものとして、白陽国の名に恥じぬよう、全力で準備に当たっております。
何事も滞りございません」
いつもは下を向いている女官が、黎翔から目を離さなかった。
とても奇妙なことで、まるで敵意を向けられているような気分がする。
「そうか。後宮のことは、お前たちに頼んだ」
「お任せくださいませ。・・・失礼致します」
女官たちは足早に去っていく。
黎翔は庭にもう一度目を向けた。
白い花に混じって、先ほどの薄桃色の花だけやけに浮いているように見えた。
花だというのに、あまり華やかさがない。
後宮の庭から小道を通り、一度室内に戻る。
そしてそこから見える庭にも、同じ薄桃色の花が溢れていることに気づいた。
庭に下りると、主張のない優しい甘さが香る。
「陛下!」
廊下から呼ばれて黎翔は振り向いた。花の中を柳方淵が歩いてくる。
「どうした」
「李順殿がお呼びです。それから先ほどご確認いただいた資料の中に古い物が混じっていたらしく、
その訂正に参りました」
「分かった、すぐ戻ろう」
「この、花は・・・」
方淵が初めて足元に目を向けた。薄い桃色の、派手さはないが可憐な花だ。
いつか、あまりにも王宮内でこの花が目につくから女官に尋ねたところ、
妃の贔屓する花であると、返答をもらったことがあった。
「なんだ、お前でも花に興味を持つか」
「いいえ、ただ」
「後宮にもたくさん植えられていたな。何か曰くつきなのか」
「存じません」
これから後宮にくる、新たな主への抵抗のつもりなのか。
方淵はこの花を選んだ女官に、同情とも哀れみともいえない奇妙な感情を抱く。
哀れだとは、思えなかった。
彼女がいた痕跡が、残らず消えていく王宮に戸惑っているのは、方淵だって同じなのだ。
そしてそれを止める手段は知らない。
そうしてなにが変わっていっても、国の歩みが止まることなく、
月日の流れも自然に進み、自分自身の生活になにも変化のないことが、
さらに方淵を困惑させる。
彼女が来て、なにかが変わったと思っていたのに、
いざ消えてしまったら、それ以前と同じように全てが進んでいく。
内乱は終わる。国は安定していく。正妃が迎えられ、これから外交も強化されていくのだろう。
白陽国は発展する。進歩する。その名前は遠く広がる。
しかし彼女の名前は歴史に残らない。
だれの記憶にも残らない。
いくら覚えていようと思っても、月日が流れるごとに、
会話の声も、表情も曖昧になっていくのだ。
彼女がいなくなってからも、なにも変わらず毎日を送っている自分では、
彼女を記憶に留めていることができない。
いつか、なくなる。
いつかただ、その人がいたという思い出だけが、ぼんやりと浮かぶだけになるのだろう。
そして、きっと唯一彼女を覚えていられるはずの人は、
その名前を呼ばなくなった。
方淵は室内に向かって歩きながら、黎翔に尋ねた。
「陛下、この花の名前をご存知ですか」
「いや、知らんな」
方淵が後ろを振り向いた。黎翔と目が合う。
方淵の心音が速くなる。
自分のやっていることは正しくない。それは分かる。
「夕鈴、です」
目を合わせたまま、方淵は黎翔の様子を伺う。
愚かな行動だが、確かめずにはいられなかった。
本当に、消えてしまったのか。
彼女がここに残る手段はなにもないのか、確かめたかった。
黎翔の口元が、少し弧を描く。
「美しい名だ」

その数日後、正妃として、東の王女が白陽国の土を踏んだ。



―――――――――――

(12.25.2011)
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