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君がいてもいなくても何も変わらない話 2
登場人物 みんな
カップリング 多分陛下x夕鈴


※夕鈴が死んでます
・楽しい話ではない。ちょっと血が流れたりしてる。
・まだ続きそうです

続きからどうぞ!


――――――――――――

「納得できない」
方淵は近くにあった椅子を蹴飛ばした。硬い音が天井の低い部屋に響いた。
「行儀が悪いよ、柳方淵」
「行儀が悪いとなにか問題があるか」
水月は少し目を細めて、いつものように落ち着いた声で答える。
「別に。君らしくないと思っただけで。それにお妃様も、そんな態度は望まない」
「その名を出すな!」
いらだった声が部屋に響く。水月は短いため息をついた。壁に寄りかかる。
「八つ当たりは見苦しいよ」
「黙れ」
低い声で呟いて、方淵は自ら椅子を直してそこに腰掛けた。
「陛下は以前と変わらず政務にあたっておられるし、忘れたならそのままでいいんじゃないかな」
「なんだと」
「君はそう思わないの?お妃様がいらっしゃる前の陛下の方が、好きだったんじゃないの」
確かに今の王は、妃が来る前に戻ったようだ。
臣下に見せる表情は常に厳しく、声は冷たい。ただ1人の孤高の王。
前を向いたまま、後ろは振り返らない。
その背中を見ているのが好きだった。
「・・・分からない」
「ああそう」
妃が来てから、王はどのように変わっただろうか。
表情が柔らかくなったか。声が優しくなった?
それは違う気がした。
妃に見せる表情が、今まで王宮で見せたことのない顔であったことは確かだが、
臣下に向ける姿勢も、仕事への態度も変わったとは思わない。
ただ、容赦のない刃の前に、我々をかばって立つものが現れただけだ。
それが、きっと変化だった。
「貴様はどうなのだ」
質問を返されると思っていなかったのか、水月は少し意外そうな顔をしてから口を開いた。
「私?どちらでもいいかな」
水月は薄っすらと笑う。
「人に質問をして自分はその答えか」
「不満かい?じゃあ付け足そうかな。お妃様が来る前と、いた頃だったらどちらでもいい。
でもね、もしこれからあの方が、お妃様を思い出して変わっていってしまったら、
手に負えないかもしれないけれど」









「陛下」
李順は、国王の自室に入った。
「なんだ」
「いえ、傷の具合はいかがかと思いまして」
「もう治った」
黎翔は椅子の上で軽く首を動かした。ずっと机に向かっていて肩がこる。
「まさか」
「嘘をついてどうする。深い傷はなかったからな。跡は残るが」
着物を捲し上げると、腕に無数の傷がついていた。
しかしもう包帯は巻いておらず、傷も瘡蓋になっているか、すでに肌になじんでいた。
「驚きましたね」
「こんなものすぐに消える。私はまだ若いからな」
冗談を言うように、黎翔がのどの奥から声を出して笑う。
機嫌がよさそうに見えた。
表情は明るいのに、視線だけが冷たくて気味が悪いとさえ思ってしまう。
あの日から、あちらの陛下はいなくなった。
まるで彼女の後を追いかけていってしまったかのようだ。
この人の足はまだこの地についている。
体は自分達とともにあるはずなのに、
その瞳に映るものが、自分達の瞳に映るものと同じとは到底思えないのだ。
一番長く、そして近くにいたはずなのに、この遠さはなんだろう。
「陛下、あの椅子は後宮に片付けました」
「そうか」
興味はなさそうだった。わざわざ報告などいらない、とでも言うように。
本当に、この人は彼女のことを忘れてしまったのだろうか。
尋ねてしまって、思い出させてしまったりしたら、それは罪になるだろうか。
彼女を気にかけすぎていた黎翔のことを、都合が悪いと頭を悩ませていたはずなのに、
いざ彼女のことを、初めから存在しなかったかのように振舞う王に苛立ちを覚える。
なんと自分勝手なことか、と李順は自分自身を笑う。
「なにを笑っている。おかしなことでもあるか」
「いえ、なにもありません」
「おかしなやつだ」
おかしいのは、貴方でしょう。
どうして、彼女の名前を呼ばないのですか。
いつもつけていた簪と一緒に、町の墓所に眠る彼女に、会いに行こうと言い出さないのですか。
貴方をかばって矢を受けた彼女のことを、目の前で倒れた人を、貴方の前に広がった赤い色を、
本当に忘れてしまったのですか。
「顔色が悪いぞ、李順」
「そうですか、もともとですよ」
「そういわれれば、そうか。お前は昔から血色がいいとは言えないな」
「少しはよくなったのですよ。おやすみなさい、陛下。失礼致します」
「ああ」
どうでもいいことを、この方は覚えている。
昔の、ただ隠れるように暮らしていた暗い日々は覚えているのに、
彼女のいた温かい記憶だけが消えてしまった。

私もいつまでも未練がましくしていないで、忘れるべきなのでしょう。
元々、消えるはずだったあの子が消えたことなど。










後宮の立ち入り禁止地区は、その掃除をする人物がいなくなっても綺麗に保たれていた。
「暇だねー、じーちゃん」
浩大は磨いたばかりの机に腰掛けて、饅頭をほおばっている。
それを注意する人物はいないから、床にカスが落ちる。
「・・・そうじゃのう」
力のない返事が返ってきた。
張元は小さな布で窓枠の埃を拭った。
「ここ、もう使わねェのかな」
「元々使ってなかったじゃろう」
「そっか」
浩大は2つめの饅頭を口に入れる。
饅頭で手のひらにできた影が赤く見えて、気味が悪くて一気に口に突っ込んだ。
血なんて見慣れているはずなのだ。
見知れた人間が命を落とすところだって、何度も見ているはずだ。
それなのに、この血はいくら洗っても落ちないような気がする。
最後に妃の口から出た言葉を耳に入れたのは浩大だった。
顔は青白くて、唇は震えていた。
もう赤くなくなった唇が、人の名前を呼ぶところを、浩大はじっと見ていた。
そしてまもなく閉じられて開かなくなった瞳の、
端に浮かんだ涙を拭ってやった。
指についた血がまぶたについた。
妃の胸に刺さる矢が、元々狙っていたのは彼女ではなく王だった。
それを自ら受けたのは彼女自身だった。
他に手段がなかったのだ。
王は後ろを向いていたし、浩大がいた場所は遠すぎた。
あの場で彼女が飛び出さなかったら、王の心臓には今頃小さな穴ができていたかもしれない。
その矢についた毒は即効性があり、彼女はすぐに動けなくなった。解毒剤は結局作れなかった。
しかし浩大は一瞬思ってしまった。
もしあのまま王に矢が刺さっていたとして、
彼は彼女のように命を落としただろうか。
毒に耐性があり、戦場で何度も傷を作った彼は、死んだだろうか。
そんなことを考えることが、相応しくないとは分かっていたのに、
思ってしまうのだ。
彼女が死んだことに、意味はあったのだろうか。
桃色だった頬が白くなって、だんだんと冷たくなっていったあの瞬間は、
なんのためだったのだろうか。
その答えは見つかるのか。王の後ろにいれば見つかるのだろうか。
自分に質問してみても、答えが返ってくるわけもなく、
そもそも疑問に思うことさえ許されないと気づいて浩大は思考を止めた。
また甘い味を口に入れる。
彼女の手が地面に落ちる前に、
黎翔は浩大の目の前からいなくなっていた。
長刀を軽い木の棒でもあるかのように振り回して、
王に飛び掛っていく黒い影を殴り、蹴落としながら走る背中がやっと見つかったところだった。
駆け寄ってきた李順に彼女を任せて、
浩大は王を追いかけた。
もうすでに命が尽きた黒い塊に、王が何度も刀を突き刺して、蹴飛ばし、踏みつける姿は、
とてもじゃないが彼女には見られなくてよかったと思った。
きっと自分のために血が流れたと知ったら、
彼女は泣くだろうから。











王の机が空くことはない。
黎翔は睡眠と食事以外は、ほとんど椅子に座ったまますごしていた。
内乱を抑えて、氾濫分子がいたとしても地方でくすぶる程度だ。
そこに駐屯する隊で片付けることができる。
ないがしろにされていた内政も落ち着いてきたといえる。
先代の時代に放置されていた古い法も、設備も、なにもかもが新しくなっていく。
「西の運河は着工して順調に進んでいると聞いたが、その後変化はないか」
「問題ありません。予定よりも早く終わるかもしれません」
「それでは陸路の整備も遅れないようにしなくてはな。
関所の位置と間隔は概ね決まっているはずだがどうなっている」
「地方の商人からの反発で、決定が遅れている地域がございました。
先日使者が帰ってきたので現在最終調整をしているところです」
すらすらと問いに答えていた李順が、口を閉じた。
そしてまた気まずい表情をする。
最近の李順は、この顔が多い、と黎翔は思う。
「なんだ、李順。言いたいことがあるなら言え」
「いえ・・・少し、休憩をとりませんか」
「休憩?珍しいな。隙があれば仕事仕事を人の机に山積みにするお前から言い出すか」
今の黎翔に、李順から仕事、などという言葉をかける必要はない。
隙があれば座って、筆を動かしている。
見かけないと思えば、書庫で資料に目を通しているか、
どこかに赴いて現地調査に付き添っている。
優秀な王であることは、今も昔も変わらないが、
作り物のように働くこの王をどこかで恐れているのかもしれない。
それはいったいどこまで、続くのかと問うてみたい。
大掛かりが嘘をつかれているような感覚なのだ。
わき目も触れずに一日中書簡に目を通す姿が、
記憶の黎翔とあまりに違いすぎて、受け入れるのに時間がかかるだけなのかもしれない。
「ところで、1つ報告し忘れがございました」
「し忘れ?これも珍しいことだ。休憩が必要なのはお前だな」
「そうかもしれませんね」
「で、報告とはなんだ」
黎翔は筆を置いて、椅子から離れ長椅子に腰掛けた。
李順は座らない。懐から文を取り出した。
「ええ、東の国より、使者が文を持って参りました。
第三王女の生誕祭があるそうですが、ぜひ陛下にもご足労願いたいと。
まあ、はっきり言って縁談話ですね」
早口で話し終えた。
「断っておきます」
そしてすかさずそう付け足した。
忘れていたわけではない。この文はずっと懐にしまってあったのだ。
ただ取り出せなかっただけで。
黎翔の表情は読めなかった。
興味がなさそうにも見えるし、あるようにも見える。
「なぜだ」
「なぜ、とは?」
しばらくして先に言葉を発したのは黎翔だった。
李順の顔から血の気が引いた。
恐ろしかった。
恐ろしかったから、このような文などなかったことにしたかった。
この王宮に訪れる変化を、これ以上自分は受け入れられただろうか。
「東の第三王女は、見目も良いし頭も回る。教養があって慎み深い。
正妃に相応しいのではないか」
「私が申し上げたことですか・・・よく覚えていらっしゃる」
李順は黎翔の隣の空いた空間に目を向ける。
この場所に、いつかは座るはずの正妃。
それは決して、もういない彼女で想像したわけではなかったのに。
なぜ今になってこの違和感を感じるのだろう。
彼女以外の女性がこの場所へ来ることへの拒否感は、なんだ。
どこかでこの王が、彼女以外の人物を横に置くわけがないと、強く信じていたのはなぜなのだろう。
「お前が私に、どんな人物が正妃に相応しいかと何度も言うから空で言えるようになった。
彼女なら、お前も文句はないだろう。
中が落ち着いたら次は隣国との関係に重点を置きたい。そのためには正妃が必要だな。
彼女の評判は他の国でも上々らしいではないか。交友関係も悪くないと聞いた」
当たり前のことだ。
当たり前のことなのに、なぜ受け入れられないのか。
李順は自分の手が震えているのが分かった。
「彼女をこの国に迎えよう」


――――――――――

(12.24.2011)
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