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夕鈴が李順さんの婚約者な話 2
登場人物 李順、夕鈴
カップリング 李順x夕鈴

・前書いた二人が婚約してるよー!という話と同じ設定
・陛下以外の人間と夕鈴がいちゃいちゃなんて許せないわ!という方は続きを読まれませんようご注意ください
・『2』ではありますが、特につながっていません

続きからどうぞ

―――――――

王宮へ来て、少しは慣れてきたと思っていた。
もうすぐ結婚する予定だと思っていたのに、
夕鈴は今、顔も知らなかった王様の偽者の妻として王宮にいる。
それにも、慣れてきたはずだったのだ。
蝋燭だけでは隅の見えない広い部屋も、終わりがなさそうな廊下も、
毎日新しい顔を見ることも。
『狼陛下』の妃として振舞う仕事は想像したより大変なこともあるが、
夕鈴は自分は自分のやり方で、王宮に居場所を作り始めたところだった。
なのに、眠れない。
家の寝具とは比べ物にならない手触りの絹が、
最初は珍しくて心地よかったのに、今は冷たさに震える。
「はーあ」
体はだるい。頭もくらくらする。
寝台に横たわれば、柔らかな寝具に体は吸いこまれていくのに、
意識だけが冷たい空気に囚われたまま動かない。
たまにふと夢を見たかと思えばすぐにまた暗い天井が瞳に映る。
寝つきが悪くて、眠ってもすぐにまた目が覚めてしまう。
そんな状態が続いているから、
昨晩などは全く寝台に入らないことにしてみた。
座っていれば体が疲れて眠くなるだろうと思ったのに、
椅子の上でうつらうつらしてもやはり夢の中に留まることはできなくて、
むしろ中途半端な姿勢でいたせいで今日は腰が痛くなってしまっていた。
「羊が一匹、羊が二匹・・・」
どこかで聞いた眠れるまじないを呟いてみる。
柵を超えていく白い動物を想像していても、意味があるとは思えなかった。
また起き上がって月でも見ていようかしら。
そう思って、夕鈴は少し身を起こしかけた。
上半身だけ起こして入り口の方へ目をやると、暗くてはっきりしないが人影だ。
「・・・!」
足元しか見えないが、衣は男のものだった。
刺客であれば、入り口で突っ立っていたりはしないだろうし、
もし国王が偽夫婦の演技のために訪れたのだとしたら、蝋燭くらい持っているはずだ。
「だれ・・・?」
夕鈴が小さいが芯の通った声で尋ねると、その人物は月明かりの元に出てきた。
頭にかぶっていた布を取ると、顔がはっきりとする。
「李順さ・・・!」
夕鈴が驚いて叫びそうになると、李順は人差し指を自分の口元に当てた。
「騒がないでください」
少し眉間に皺がよる。
「だ、だだだって・・・なんで李順さんが!」
夕鈴は口を閉じられないまま、目の前に居る人物に人差し指を向けた。
「婚約者の寝室に入ってなにが悪いのですか」
李順と夕鈴は婚約している。
それを知っているのはお互いと、その家族だけだ。
狼陛下の臨時花嫁に適材がいないからという理由だけで、
結婚前に違う人の嫁をしているというのもおかしな理由だが、
実際そうなのだから仕方がない。
そして婚約していることが絶対周囲にばれないように、
と毎日厳しい視線を送ってくるのは李順のほうだ。
夕鈴が少し話をしたいと思っても、だれか他にも人がいるときに、
事務的なことか挨拶程度のことしか話題にしてくれない。
そんな人が、突然寝室に入ってくるなんて、異常だ。
異常。
「いやでも、おかしいじゃないですか!何しに来たんですか」
「夜這いです」
李順が来たことでうろたえる夕鈴を尻目に、李順はしれっとしている。
表情も変えずに信じられない言葉が耳に飛び込んできた。
夕鈴はざっとベッドの端まで引き下がる。
寝具を引いてそれで体を覆った。
「それくらい元気なら大丈夫そうですね。
不眠が続いていると聞きましたが本当ですか。政務室でもぼんやりとしていましたね」
言われてはっとした。
李順が、本当に用事もないのに自分に話をしにくるはずなんてない。
夕鈴がきちんと寝れていれていなくて、
それが妃として問題だからここにいるだけなんだ。
勝手に慌てたことが恥ずかしい。
「・・・すみません」
仕事には支障が出ないようにしていたつもりだったのに、
気づかれていたようだ。
夕鈴は下を向いて呟くように謝った。
迷惑をかけたいとは思っていないのに。
眠れない。眠れない。どうしてか分からない。
李順と婚約したのは夕鈴の意志ではないけれど、
この人の役に立ちたいと思ったのは確かな気持ちだったのだ。
呆れたようなため息は、もう見たくなかった。
夕鈴の瞳に雫が浮かんでくる。
泣いたらきっともっと呆れられてしまうと分かっているのに止まりそうにない。
こぼれそうになったから、急いで膝元に頭を埋めた。
ぎゅっと膝を抱える。
寝台が少し沈んだ。
「謝罪がほしいわけではありません。心配していただけです」
李順は端で縮こまる夕鈴に静かに近寄った。
夕鈴が顔をあげる。
まだ涙はこぼれていないうちに、その頬に手をあてる。
「貴女を責めに来たわけではないのですよ。
どうぞもう横になってください。起こしてしまっては元も子もありません」
「・・・はい」
李順に促されて夕鈴はまた肩まで寝具を引っ張った。
冷たくて滑らかな手触りに体が震えそうになる。
「え、李順さん?」
「あなたが眠りに落ちるまでここにいますから、不安そうな顔をするんじゃありません」
短いが、微笑まれたのが分かった。
李順の手が夕鈴の手を包む。
冷たい空気と寝具の中で、この人の手だけが暖かい。
「あの・・・寝たら、李順さんは帰ってしまうんですよね」
「当たり前です」
間髪も居れずに返答がきた。
夕鈴は李順をじっと見つめる。
手を握ってくれたことなんで、今まで片手で数えるほどしかない。
この貴重な瞬間を、眠ってしまって無駄にしたくない。
このまま、この体温を覚えてしまいたい。
「貴女、まさか寝ない気ですか?」
ぼんやりと手の暖かさに意識を集中していたが、
李順の厳しい一言で現実に戻った。
図星を疲れて夕鈴は中途半端に微笑んだ。
「だって、李順さんが手をつないでくれるなんてめずらしいじゃないですか。
寝ちゃったらもったいないです」
「くだらないことを言わないでください」
「くだらなくないです」
李順は夕鈴をよく観察した。頬を膨らませて反論する夕鈴はかわいいのだが、
やはり目の下のくまが気になる。
顔色もよくないように見える。
「仕方がないですね」
李順の口から呆れたようなため息がこぼれた。
仕方がないですね、ということは、なにかやってくれるということだ。
少し期待をして、夕鈴の心音が早まる。
朝まで一緒にいてくれるとか。
これから毎日来てくれるとか。
李順の性格を考えると選択肢には含めずらいものばかりだが、
それでも少しでも長く2人でいられる可能性があるのなら、それは嬉しい。
「よく眠れるように、疲労させてあげましょうか」
「へ?それは・・・」
夕鈴が言葉を終えないうちに、李順の顔が目の前にあった。
2人の額がぶつかるほどだ。
「こういう意味ですが?」
夕鈴が混乱してなにもいえないうちに、李順がいつのまにか自分の上にいた。
2人分の体重で、寝台がいつもより沈んでいるようだ。
「あの、あの・・・」
「なんですか」
手首をつかまれて、そこに唇を落とされる。
軽い音がした。
手のひらにかかる息が熱い。
「李順さんん?!」
手首から始まった口づけは、指と、手のふし、そして腕にも続いた。
軽い感触はくすぐったくて心地いい。
触れたところが温かくて、安心する。
「・・・・・・」
言葉が聞こえなくなったので、李順は自分の婚約者の顔を見た。
予想通り、といえば予想通りだが、
どこか落胆したのも否定できない。
「・・・さすがですね」
規則正しい寝息が聞こえる。
眼鏡を調えて、寝台から離れた。
寝具の端がしっかり合っていなかったので、それだけ直して出て行くことにする。
最後に夕鈴の顔にかかった前髪をどかして、額に口付けをした。

彼女の口元に笑みが浮かんでいたから、まあいいとしよう。








―――――――――

(12.12.2011)
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