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知っている人
登場人物 李順 (陛下と夕鈴ひょこっ)
カップリング 陛下→←夕鈴前提で、特になし

・『』を李順さんの視点で見た話。李順さんからは矢印でてません

続きからどうぞ!
―――――――――

「それでは、お気をつけて」
自分の言葉は見つからなかった。
陛下から頂いた『安全に返してくれ』という言葉を言い訳に使って、
形式ばった挨拶だけ口にする。
彼女は何事もないかのように、あたかも一週間でもしたら戻ってくるかのような顔をしている。
「はい。李順さんも、お元気で」
夕鈴殿にバイト妃の身をわきまえるようにと何度も釘を刺してきたのは自分だが、
そうして素直にうなずく彼女の優しさを利用したのも自分だった。
後宮を離れてもらうことを直前まで告げなかったのは、
陛下の御意思をくんだというよりは、言い出せなかっただけだった。
白陽国はもう、荒れ果てた国ではない。
この国が落ち着きを取り戻してきたことを誰もが感じ取っている。
陛下にすぐ正妃が必要になることも分かっていたことであったし、
そうしたら彼女が去ることになるのも知っていた。
全て当然のことなのだ。
そういうつもりで『臨時』で雇った花嫁だったのだから。




陛下は隣国の姫との縁談話を承諾された。
それは国王として選ぶには当然の選択で、驚くようなこともない。
承知しました、と答えた声は自分でも驚くほどに無機質だった。
分かっていた答えだから、機械のように返事をするのが普通だろうに、
自分の声の冷たさと内心の動揺との差があまりにも大きく滑稽に思われた。
早く、下がらなくてはいけない。
内面の揺れが外へ出れば、この方はすぐにそれを見抜くだろう。
足を返し、逃げるように廊下へ向かう。
しかし振り返ったところで彼女の名前に引き止められた。
「夕鈴には」
陛下の表情を伺うことはできなかった。
「・・・言わなくていい」
「彼女のことはどうなさいますか」
元々いなくなると決まっていた臨時の花嫁は、
ただここを去って、彼女のいるべき場所へ戻ればいい。
そのあと私達が関わることはいっさいないのだろう。
しかしそれでも咄嗟に尋ねてしまったのは、
もっと早くに彼女を引き離すことができなかったのは、
この場所にあまりにもふさわしくない彼女が、
知らず知らずのうちに私達の世界に混ざりこんで、
『帰る』という言葉が似つかわしくないほどにさえなってしまったからだろうか。
どこかで彼女の重大さを認めながら、
それを無視していつでもすぐに『切れる』とたかをくくっていた代償ということだろう。
こうして判断を迫られて初めて、私も陛下も戸惑ってしまっている。




陛下と彼女の関係にいつから変化が生じたものか、私には明確な期間をあげることはできない。
それでも一度だけ、
夕鈴殿が椅子にかけられた陛下の上衣を胸に抱き、
涙を流しながらその衣に向かって彼女の心情を呟いたとき、
私はもうすべてが遅かったと知った。
彼女はすでに陛下に心を寄せていたし、
陛下の彼女への感情はただの興味を越えていた。
それでも2人はそのことを絶対に口にはしない。
私はそれについて一切心配することはない。
心配することなどなにもない。
ただ見なかったことにすればいい。そうすればなにも変わらない。
全てはすべてが計画されたとおりに、予定されたとおりのところに落ち着くのだろう。
2人の気持ち以外の全てが。
それも、私は知っていました。





「夕鈴殿」
馬車に乗りかけた彼女は律儀に動きを止めて振り向いた。
謝罪の言葉が口をついて出そうになるがそれはふさわしくない。
謝罪をしたら、彼女が許してしまうのを知っている。
自分の心の重荷を取るための言葉になってしまう。
「ありがとうございました」
代わりに選んだ言葉もまるで用意されたように乾いていて、
いっそ皮肉に聞こえてしまったかもしれない。
「・・・お元気で」
薄い微笑みを返された。
横を向いた瞬間の彼女の口元が少しきつくしまっていたことだけが、
少なからず気休めになった。
心の痛みを人に悟られないように、
隠し事ばかりの彼女の少しの苦しみを、
最後に見ることができたような気がする。
それさえも自分勝手な解釈だろうが、それでも。

ごめんなさい。

音には出さずに唇だけ動かす。
私にはたくさん謝罪をすることがあるけれど、
どれも彼女は受け取らないのだろう。

せめて貴女が自ら隣に選ぶ人は、
貴女が必死に隠す弱さから、目を背けない人であればと願います。
なんと都合の良い願いだろうとは思います。
ですが、貴女が幸せになるようにと願う言葉には、偽りも皮肉もないのですよ。
さようなら。



――――――――

(06.12.2011)



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