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タイトルが思いつかない方淵と夕鈴の話 1
登場人物 夕鈴、方淵
カップリング 方淵x夕鈴

・一応続くはず

――――――――


妃が一人で庭を歩いている。
こと狼陛下の唯一の妃についてはそれほど珍しいことではないが、
やはり多少の違和感がある。
夕鈴は書庫から借りてきた古い資料を手にしながら、
耳にした『春の宴』の企画を思い浮かべていた。
もちろん夕鈴に決定権はないが、何が進行しているかは把握しておきたいし、
宴がどうなるのか想像するくらいは、罪ではないはずなのだ。
書物が古いせいでところどころ分かりにくいところがあり、夕鈴は頭を悩ませていた。
通りかかった池のところで、橋の手すりに肘をついて考え事である。
「ここなんて書いてあるのかしら」
滲んでいるのか言葉が古いのか、気になるのによく分からない箇所がある。
太陽に透かしてみても、よく分からないものはよく分からないのだった。
「うーん・・・?きゃっ!」
後ろから強い風に押されて、体が池に前のめりになる。
体は辛うじて腕で支えたが、問題は手にしていた書物が、手を離れてしまったことだ。
「ぎゃー!」
夕鈴の頭に借金、金、一生返れない、と次々に不吉な言葉が浮かんできて、
気が付いたときには書物を追いかけて自分でも池に飛び込んでいた。
ぎりぎりでつかんだその資料を、死に物狂いで陸のある方向へと投げた。
どうか無事に陸についてくれますように。
濡れませんように。
借金がかさ増しされませんように。
どうか弟に借金が受け継がれませんように。
どうか陛下が、一緒に心から笑えるお嫁さんを見つけてくれますように。
水に体が沈んでいく中で、さまざまな願いが頭をよぎる。
春の宴は、ちゃんと成功するのだろうか。
自分の任命した二人はうまくやっていけるのだろうか。
水月は仕事に来るのだろうか。
方淵とはせっかく少し分かり合えた気がするのに、ここで全部終わってしまうんだ。
認めてもらえた気がしたのに。
少しだけ、視線が変わったと、思っていた。





目を覚ますと、青い空が見えた。
「ん・・・?」
体を起こそうとするがすごく重い。
着物はただでさえ重いのに、
水を含んでいつもよりさらに重力に引かれてしまっているようだ。
だれかに助けてもらったんだ。
また陛下?また、怒られるんだろう。
そう思いながらゆっくりと体を起こすと、横に肩膝を立てて座っていたのは、
この国の王ではなく、その臨時補佐官だった。
「方淵殿・・・」
厳しい顔をした方淵が、黙って夕鈴を見ている。
ほとんど殺気にも近いような空気を纏って見つめられると、
水に濡れているのとは別のところで寒気を感じてしまう。
怒っている。
今まで見たことがないくらいに、方淵は怒っていた。
原因は多分、一人で庭にいたことと、書物を持ち出して危ない目にあわせたことと、
陛下の庭で身投げのようなことをしてしまったことと、方淵の着物を濡らすはめになったことと・・・
原因が多すぎて全ては考え付かない。
夕鈴は辺りを見渡して、
乾いた書物が草の上に落ちているのを見つけて安堵のため息をもらした。
「ごめんなさい。あの、でも書物はちゃんと無事で・・・」
とりあえず怒られる原因第一ははずしておこうと、弁解を口にする。
しかし、それは途中でさえぎられてしまった。
強い力で体を引かれ、次の瞬間方淵の腕の中にいた。
「そんなものどうでもいい」
方淵、らしくない言葉だ。
「貴女が無事でよかった」
方淵の腕に力がこもる。
背中が痛くなるくらいだ。
水に濡れた冷たい体が、お互いに触れたところからだけ微かに熱を感じる。
宮中の庭の池は綺麗な水とは言えなくて、鼻をつくにおいがする。
何が起きているのかよく分からない。
夕鈴の頭の中は混乱状態だ。
「あ、あの・・・方淵殿、痛い」
抱きしめられるというよりは締め付けられるように苦しくて、
ついに夕鈴は悲鳴を上げた。
そのとたんに、体は一瞬で解放される。
目の前の方淵を見ると、ちょうど気まずそうにして目をそらしたところだった。
「・・・助けてくれて、ありがとうございます」
様子を伺いながらお礼を告げる。
短く突き放すような声で返事が返ってくる。
「その言葉は必要ない」
これ以上夕鈴の顔を見なくてすむように、方淵は夕鈴に背を向けた。
「早く戻って着替えたほうがいいでしょう」
「はい」
目は合わせないように小さく会釈をし、方淵はその場から足早に去る。
方淵を見送って、夕鈴も立ち上がることにした。
水に濡れて冷たいはずなのに、体が熱い気がするのは、思い過ごしだ。



――――――――――

(11.13.2011)
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