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だからできない
登場人物 夕鈴、几鍔
カップリング 几鍔→夕鈴→陛下?かな

・夕鈴は後宮を去った後

続きからどうぞ!
夕鈴が下町に戻って、一週間は経つ。
帰ってきたその当日から、夕鈴はバイトを見つけて働き始め、
青慎の話によれば、家事も同じようにこなし、
むしろ以前よりも掃除の手際がよく速くなったらしい、


「おい」
庭に周る夕鈴を見つけて、その後姿を追いかけた。
しばらく見ないうちに髪が伸びた。
たいした手入れもせずにボサボサだった長い髪が、今は風に揺れてふわりと舞う。
その光景が気に入らないから、角に消えようとしたところを捕まえた。
「いたっ!」
夕鈴の足が止まり、振り返って俺の手を跳ね除ける。
「なによ」
「別に」
「なんでうちの家にいるのよ」
「庭だ」
「庭も家です」
それ以上話を続ける気はない、とでも言うように夕鈴は足を進める。
小さな庭を抜けて、また細い道を通れば、共通の井戸へとたどり着く。
「おい」
早足の夕鈴を追いかける。
無視か。
「おい、夕鈴」
「うるさい」
「おい不細工、こっち向け」
がん、と鋭い音と共に足に激痛が走った。
こいつ、人間の弱点を容赦なく桶で狙ってきやがった。
「いってええな!」
「アンタがしつこいのが悪いんでしょ!なんなのよ。用件ならさっさと言いなさいよ!」
用件なんてない、
とは言わない。
ただ顔を見に来ただけだ。
心配だからだ。
少しは挨拶でもしに来い。
目を腫らしたまま、町を歩くなよ。
お前を泣かしているのは、あの胡散臭い貴族の男なのか。
言いたいことも聞きたいことも山ほどあるが、
喧嘩ばかりの幼馴染という面倒な関係のせいで、素直に口にすることもできない。
少しは察しろ、このバカ女。
心配だって、言ってんだろうが。
・・・言ってねーけど。
そのあたりに座れる場所を探して、腰かける。
さっき攻撃を受けた足がまだ痛い。
どんだけ馬鹿力を発揮したのか。
「あー、足がいてーな。
王宮で働くっつうから少しはお上品になってくるかと思ったら、
なんも変わってねー」
「掃除で品がよくなるわけないでしょ」
井戸に桶の落ちる音がした。
遠くで反射する小さな水滴音さえ耳に残るくらいに静かだ。
いつも聞こえてくる物売りの声も、母親達の笑い声もない。
夕鈴は喋らない。
黙々と井戸から水をあげ、持ってきた桶に移した。
そのまま止まっている。
泣かされて帰ってくるだろうとは思っていたが、
泣いてほしいとは思っていなかった。
こうなる前に、もっと早く帰って来ればいいのに、どうして戻ってこなかったんだ。
答えはなんとなく分かっていたが、認めたくない。
無理やりひっぱってくればよかったのかもしれない。
一度夕鈴が戻ってきたあのときに、俺を選べと言えたら。
「おい」
また声をかける。
「・・・なによ」
少し合間を取って帰ってきた返答は、震える声だった。
「どっか行ってよ」
「やだね」
「一人にしてよ・・・」
夕鈴の手元の桶に、雫が落ちる。
肩が震えているのが分かる。
あの男だったら、傍によって肩を支えるのかもしれない。
「夕鈴」
「・・・」
「夕鈴」
「うるさいっ」
夕鈴は桶に指を食い込ませるように、強く握っている。
上から落ちてくる大粒の水が手のひらをつたっていく。
その場から動かないでいるつもりでいたにもかかわらず、
俺はほとんど無意識に立ちあがっていた。
後ろから、濡れた夕鈴の手に自分の手を重ねた。
夕鈴の肩がこわばった。
水仕事で乾燥していたはずの手が、思ったよりも滑らかだった。
初めて触れた手を強く握る。
「一人では、泣くな」
夕鈴の目にたまった涙がぼろぼろと落ちていく。
止まらないまま、次の粒が溢れていく。
「・・・っ、う・・・」
夕鈴は声を出さずに泣くのが上手い。
きっとそれは弟に心配をかけさせないためだろう。
俺の前では我慢しなくていいんだ。
そう言ってやることもできたのに、その言葉が夕鈴を困らせるだけだと分かるから口にできない。
それ以上肩が震えないように抱きしめて、
必死で抑えている声が漏れないように、自分の胸に押し付けてしまえばいい。
涙も拭ってやりたかった。
でも俺がそんなことをしたとしても、
そうして今俺が自分の気持ちを示したところで、
この女は傷つくだろうと分かっているから、代わりに重ねた手に力をこめた。


――――――――

(11.12.2011)

後ろから抱きしめてほしかったのに、なぜか手だけで終わりました。
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