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登場人物 陛下、夕鈴、(少し李順)
カップリング 陛下→←夕鈴

・だれも幸せではない
・じめじめ
・陛下目線。かっこ悪い陛下。

続きからどうぞ!
―――――――

いつものように夜夕鈴の部屋に向かった。
彼女が臨時花嫁として後宮に来てから、できる限り習慣にするようにしていた、
短い、僕と彼女の2人だけの時間。
長椅子に座った2人の距離は、少しずつ近づいていったけれど、
それがゼロになることはなかった。
少しだけ空いたその空間が、歯がゆくて、でも心地よくて、安心できたのかもしれない。

「こんばんは」
「こんばんは、陛下」

彼女が欠伸をする前にはいつも帰っていくから、
いつだってこの時間は一瞬のように感じられるけれど、今日は特別短くなるだろう。
夕鈴はすぐにお茶を淹れてくれて、僕たちはいつものように隣に座る。
手を伸ばせばすぐに相手に触れることもできる距離だけれど、
互いに触れることはほとんどない。
「陛下最近元気ないですね。疲れてるなら、ここで寝ますか?」
「そんなことないよ。考え事してたせいかもしれないね。
それに僕が寝ちゃったら、夕鈴が寝なくなるからだめだよ」
夕鈴にとっての『ここで寝る』とは、僕が寝台で寝て、夕鈴は一晩中起きているか、
長椅子で寝るかのどちらかだ。
偽者の夫婦は寝台をともにしない。
「どんな考え事ですか?」
なにを、とは聞かれなかった。
夕鈴は僕に近づきすぎないように、いつだって気をつけている。
こちらの様子を伺うように、少しだけ顔を覗かせて、
僕が少しでも壁を作ればそれを敏感に察知して、それ以上は踏み込まない。
そんな関係は寂しいはずなのに、僕はそれを居心地がいいと思ってしまう。
この距離に、いつも甘えている。
「夕鈴のことだよ」
「・・・また冗談ですか」
「ほんとほんと」
疑わしそうな視線を向ける夕鈴の手をとった。
細い指に自分の指を絡める。
水仕事のせいか、少し乾燥した手を自分の口元へと寄せて、音を立てないよう静かに口付けした。
「陛下・・・?」
夕鈴は、不安そうな顔をしている。
顔を赤くすることも、僕を跳ね除けることもせずに、視線を向けるだけ。
一緒にいる間に、夕鈴はずいぶん鋭くなった。
これは、演技じゃない。
握った指に少し力をこめる。
このまま夕鈴の体を引いて、細い腰に手を回して、彼女の無防備な唇に自分のものを重ねたかった。
君の味を、知りたかった。
僕のものにしたかった。
「この方法でしか、僕からは君に幸せをあげられない。
それを、許してほしいとは言わない」
このとき上手く微笑むことができたかは分からない。
「でもせめて、忘れて」
「なんの、話ですか・・・?」
「今日で、君に会うのは最後だ」
夕鈴が皮肉をこめて褒めてくれる演技力が、本当にあったらよかったのに。
そうしたら、無理やり作った汚い笑顔を、最後に見せることもなかっただろう。
君が少しでも僕を覚えていてくれるとしたら、どんな僕だろうか。
今日の僕ではないといい。
「え?」




一ヶ月以上も前に、本当は言い出すつもりだった。
それなのに、君が後宮を去る前日まで何も言えなかったのは、
もう逃げられなくなる直前までは、夢を見ていたかったからだと思う。
君に会えないことを想像するよりも、毎日を今までと同じようにすごしていたかった。
ここを去ることに悲しんでほしくない。喜んでもほしくない。
夕鈴の反応が怖かった。
隣国の姫との縁談は、これまでも何度かあがっていた。
そのたびにあちらの都合やこちらの都合でうやむやなままになっていたのを、
白陽国が落ち着きを取り戻しそうなところを察してか、
今度は具体的だった。
「陛下、今回ばかりは先伸ばす理由が見つかりませんよ」
李順に言われなくても分かっている。
いつかこうなると知っていたのに、それを見ないふりをしていたのは、
どこかで期待をしていたからだ。
君と一緒にすごす自分の一生を、どこかで期待していた。
「そうだな」
「その返事はどう受け取ったらよろしいのですか」
李順の声は淡々としている。
しかしその表情には、まだ言い足りない言葉が隠れていることを汲み取れた。
「受ける」
「・・・承知致しました。すぐに使者を出しましょう」
「夕鈴には」
後ろを向いて過ぎ去ろうとした李順に付け足した。
李順の足が止まる。
「言わなくていい」
「彼女のことは、どうなさいますか」
李順は振り向かなかったので、どんな顔をしているか分からなかった。
好都合だ。
僕も今は、だれにも顔を見られたくなかった。
「安全に・・・帰してあげてくれ」
手元に残す方法がなかったわけじゃない。
ただ怖かった。
僕の隣で、君の笑顔が消えることがあったらそれにはきっと耐えられない。
君を不幸にするよりは、なにもなかったことにしたい。
思い出の中で、君が僕だけの妃であったことを覚えていたい。
なにを選んでも、僕に君を幸せにすることはできないけれど、
せめてどこかで笑ってくれていたらと願おう。
お互いに交わす視線の意味も、
抱きしめれば、僕の背中に回ってくるようになった手も、
眠りから覚める遠い意識の傍らで、額に感じた柔らかい感触も、
夢だったと思おう。




正妃を迎えた祝祭が行われたのは、夕鈴が王宮を去ってから半年も経ったころだった。
城下町を、行列が歩く。
僕は、まだ名前も呼んだことのない女と2人並んで座り、群がる人間を眺めている。
騒音と色とりどりの飾りが全て遠くのように感じる。
ぼんやりとした町並みを眺めていても、なにも目に入ってこない。
夕鈴、君以外はなにもかもが同じに見える。
僕が聞きたいのは、彼女の声だけだ。
『陛下』
彼女の舌の上では、重い称号も悪くない響きをする。
だがもう呼ばれることは二度とない。
記憶の中で響く明るい音さえ、そのうちどこかへ消えてしまうのかもしれない。
ふと、覚えのある香りがした。
花の香りだ。
夕鈴が、一度部屋をいっぱいにしていた薄い桃色の―――
「・・・夕鈴」
彼女は1人だった。
群集の中に1人、僕をまっすぐ見ている。
泣くか、怒るかしてほしかった。
説明もせずに君を追い出したことを責めてほしかった。
君が泣いていたなら、
僕も涙を流そうと思っていた。
2人で悲しんで、時間とともに思い出になって、
君が僕を忘れてくれたらいいと思った。
怒っていたら、その怒りとともにすべて外で投げてしまえばいい。
僕たちの会話も、時々触れた手の体温も、消し去ってくれたらいい。
なのに君は、
いつだって僕の思ったようにはしてくれない。
夕鈴は笑っていた。
僕に向けられていたのは、僕の見たことのない夕鈴の微笑みだった。
目から溢れそうになっているのは涙なのに、彼女の唇は固く結ばれているのに、
それは微笑みだった。
夕鈴は、他人の心配ばかりする。
君はこんなときにも、
僕に痛みも悲しみも分けてくれようとせずに、
1人でしまいこんでいる。
夢のように幸せな温かさだけを残して、全て忘れてくれたらいいと、そう思っていた。
夕鈴の目から、大粒に水がこぼれそうになる。
しかし彼女は顔をそらして、それは見ることができなかった。
僕に罪悪感だけを残して、彼女は大群の中に消えてしまった。
綺麗なままで、いつか消えていくはずだった彼女との思い出が、
重たい石のように心臓に落ちてくる。
君の気持ちを知っていながら、
愛してるとも口にできなかった僕になど、優しさはいらないのに。
君から逃れようとしたことへの答えは、この痛みか。



――――――――
(11.11.2011)

陛下は臆病で自分勝手な人だろうと思ったので。

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