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これだから君は
登場人物 陛下 夕鈴
カップリング 陛下x夕鈴

※注意!※
・捏造未来
・夕鈴は正妃で2人が本物の夫婦
・初夜ネタ
・なのに年齢制限は、R12くらい?

・陛下目線。区切りの後は夕鈴目線で同じ話
・砂糖を入れすぎました

続きからどうぞ!
――――――――

君は本当に、僕の予想の上をいくよ。

もちろん僕も全くそのことを考えていなかったわけではないし、
夕鈴がよければとは思っていたけど。

彼女のような人が隣にいるのは初めてで、僕は夕鈴との関係の作り方が分からなくて、
慎重に慎重に、君が怯えて逃げていかないように、
少しずつ距離を縮めようとして、距離をおきすぎたり、
失敗して近づきすぎたり、逃げられたり、誤解されたり・・・
君が好きだと気づいてから、僕はずっとこの日を待っていて、
今日夕鈴が正式に僕の『お嫁さん』になってくれたことに浮かれていたから、
まさか君がその先のことを考えてたなんて知らなかったな。




夕鈴の部屋へと続く廊下は少し肌寒かった。
着物のすれる音がはっきり聞こえるほど静まり返っている。
頭の中で何度シュミレーションしても、
僕の頭の中では夕鈴は息もできないくらいに緊張していた。
何も喋らないで固まっているか、話題を次々と変えてとにかく喋りまくるか、
お茶を入れ続けるか、部屋をうろうろするか。
なんだろうな。
僕が部屋に入った瞬間に飛び上がるのは目に見えているのだろうけど、
僕だって夕鈴のことを取って食べようとしているわけじゃないのだから、
そんなに怖がる必要はないと思うんだよね。
近づいたらじりじり逃げられそうだな、と考えて思わずため息がでる。

今日は朝まで。

夕鈴もそれは知っていたみたいだし、僕の口からも伝えたけれど、
その意味するところは一つじゃない。
だからね、そのあとから一言も口を聞かないっていうのはひどいよね。
僕のことなんだと思ってるのかな。
「ゆーりん、こんばんはー」
心の中で練習して、僕が出せる中で一番無害そうな声を選んだ。
夕鈴の言う『小犬』バージョンでできるだけ接していかないと、
半径1メートル以内に近寄ってくれないかもしれないし。
それでも一緒にいるうちに、小犬も効かなくなってきた気がする。
僕がわざわざそういう態度を取っていると感づくようで、
胡散臭そうな目でこっちを見ていることもある。
前は僕は『狼陛下』の演技をしているものだと思い込んで
本音もそうじゃないのも全く見分けてくれなかったのに、
こっちはすぐ気づくなんて少し不公平じゃないかな。

部屋に入ると、てっきりお茶でも淹れているのかと思ったのに夕鈴の姿がない。
「夕鈴ー。どこだろ・・・もしかして緊張しすぎて吐いてるのかな」
そう呟いた瞬間に、ガンッと鈍い音がした。
「わ、何?」
「陛下~」
「夕鈴、そっちにいたんだ」
夕鈴はもう寝台のほうにいたようで、そこから情けなく自分を呼ぶ声がした。
「なんてムードのないこと言うんですか。吐くわけないじゃないですか!」
ムード?って、夕鈴もそういうこと気にするんだね。
先ほどの音は、寝台の下に落ちた香台が説明してくれた。
寝台に座る夕鈴は、いつもより薄地の寝衣を身に着けていて、衿も深かった。
僕が立っているから、中のほうまで見えそうで少し目のやり場に困る。
これはきっと張元の入れ知恵だろうな。余計なところでばかり仕事して。
「ごめんごめん」
とりあえず逃げられることはなさそうだったから隣に座った。
寝台のきしむ音がする。
「待たせちゃった?」
「いえ、大丈夫です。私もさっき準備ができたところなので」
「へーなんの準備してたの?」
心なしか不機嫌そうな顔に見える。
緊張のせいで無表情なのとはまた違って、これは怒っているような。
「なにかあった?」
「どうして聞くんですか」
「機嫌がよくなさそうだね」
隣に座る夕鈴を持ち上げて、自分のひざの上に置く。
こういうときに夕鈴が軽すぎて、
どこかへ飛んでいってしまいそうな気がするときもある。
「どうした?」
このときの声が低くなったのは無意識だ。
夕鈴が幸せそうな顔をしていないから、心配で。
僕は夕鈴と夫婦になれて嬉しいのに、君は違うのかって。
返事がないから、夕鈴の腰に手をまわして、ぐっと自分のほうへと近づけた。
「私に言えないことなのか」
夕鈴は答えない。
口を開かずに、僕の頬に両手を当てて、顔を近づけてきた。
夕鈴の唇と、僕の唇が重なる。
「え?」
驚いてまぬけな声が出る。
僕が口をぽかんと開けている間に夕鈴に体重をかけられ、
どこでコツを教わったのか、僕はそのまま重力に負けて寝台に押し倒された。
まさか、花嫁に押し倒される日が来ようとは。
「こういう準備です」
夕鈴の影が僕の上に落ちる。
長い髪がさらりとゆれて、静かな音を立てた。
「夕鈴?」
いつもと違う様子に戸惑い、うまく対応ができない。
彼女は今、何と言った?
起き上がろうとすると肩を抑えられ、
無理やり起きようとすればできるけれど抵抗するのはやめた。
僕はされるがままに横たわって、夕鈴のくすぐったい口付けを額と、鼻や頬に順番に受ける。
小鳥につつかれているみたいでおもしろかったけれど、
くすぐったい感触は首に来たところで止まった。
「夕鈴、」
名前を呼んで、夕鈴の頬に手をあてる。
表情が読めない。
「陛下・・・」
僕の頬に水が落ちてくる。
今度は僕が起きようとしても夕鈴は止めなかった。
体を起こして夕鈴の髪を撫で、頬に残っている涙に口付けた。
「しょっぱいね」
「ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
「私、陛下を喜ばせたいと思って・・・それが妻のつとめだって、
あ、老師じゃないんですよ」
僕が入れ知恵の犯人を予想して、よくないことを考えたのを察したのか、
夕鈴は慌てて張元をかばった。
「あの・・・昔、下町のバイト先で話をしたんです。初めての夜の、こととか・・・」
夕鈴の声が少しずつ小さくなって最後はほとんど聞こえなかった。
どうやら今回の犯人は、あのじいさんではなくて町の娘たちのようだ。
「でもよく分からなくて、怖くなってきちゃって」
夕鈴は下を向いて震えている。
きっとすごく恥ずかしかっただろうに、
どれだけ1人で葛藤していたかを考えると、
いじらしくて、おかしくて、愛しくて、思わず抱きしめたくなる。
本当にいつも、1人で考えすぎなんだよね、夕鈴は。
「いつも一生懸命なのはいいけど、そういうのは2人で考えたらいいんじゃない?
僕を喜ばせるなら、こうして手をつないで」
「きゃっ」
僕は夕鈴の手をとって、そのまま寝台に倒れた。
下のほうにかたまっている寝具を引っ張る。
寝具は大きく広がって、僕たち2人の上を覆った。
引っ張りすぎたようで、頭まで隠れてしまった。
その中で、僕は夕鈴の手を強く握る。
「一緒に寝て、朝起きて、そのとき夕鈴の顔を見れたら、なにより嬉しいよ」
夕鈴の目にまた涙がたまる。
泣かせたいわけじゃないのに、僕の言葉はよく夕鈴を泣かせてしまう。
その涙をぬぐって、額に唇を落とした。
「僕たちはこれからずっと一緒だから、なにに焦る必要もない」
まだ泣き続けている妻の頬に手を添える。
この滑らかさが好きだ。
指が頬を滑るその感覚が心地良い。
今日から全部僕のものだ。
僕だけが知っている君が、もっと増えていってくれたらいい。
「君の隣で夢を見れることと、明日もそうだと思えることが、今日の僕の幸せだよ」
夕鈴の涙はもう止まった。
彼女は僕の手をとって、額に当てた。

「あの、陛下」
「ん?」
「好きです」
「・・・夕鈴、そういう顔するのやめて」
「?」
「じゃないと、我慢するのやめるよ?」





―――――――






今日は朝まで。

その言葉を言われた瞬間に、バイト中の会話が頭の中に溢れた。
王宮でのバイトではなくて、下町の。
結婚している人も、子どもがいる人も、未婚の人も、私みたいな子どもも、
女の人が集まっておしゃべりするのは当たり前で、
休憩中はいろいろな話題で盛り上がる。
時には私にはあまりに遠すぎて、大人すぎて、全然理解できないこともあったけれど、
これだけは必要だからと無理やり引っ張られて聞かされたのだった。
『初夜』のこと。
彼氏もいないし、できる予定もないし、ましてや結婚した後のことなんて!
それでも刺激が強くて、記憶のどこかに残ってしまった情報が頭の中を支配する。
あまりにも自分に関係のなかったことだから、なにをしていいかわからない。
でも私は今日、本当に『妻』になったのだから、
まずはじめに初夜の仕事をしなくてはならない。
本物の夫婦なのだから、それが当たり前なんだ。
それが仕事。
臨時のバイトから、本物になったら仕事も変わる。
はじめの一歩から失敗するわけにはいかない。
今まで私にはスキンシップしかしてこなかった陛下だから、
もしかしたらないのかもしれないと思ったけれど、
『朝まで』と言われたからにはその気もあるんだと思う。
そう、陛下だって男の人だし、いい歳だし、全くないなんて考えちゃだめなのよ。
子どもでいちゃだめ。臨時じゃだめ。
ああ、もっと真剣にメモを取って置けばよかった。

過去の記憶をめぐってめぐって、要点をとにかく書き出すことにした。
「な、なんだっけ?まずは薄着?」
確か肌が少し透けるほうがよくて、胸のところは大きく空けなくてはならない。
「薄いのなんてあったかしら。夏のやつでいいか・・・胸」
胸はないほうではないけれど、今まで強調したことなんて一度もなくて、
どうしたらいいのかまったく分からない。
「こう?これは?だらしないわね・・・ここか!うわ、苦しい。これじゃ寝れない」
でも寝る前にほどくのよね。
ああ、もうそれを考えると体中がかっと熱くなる。
自分と、陛下なんて想像できないし。
ひとまず満足できる出来になって、服はこれでいいとすることにした。
「あと、香り?」
これは一番大事だと言ってもいいらしい。
甘めの香りで、いい雰囲気を作らなくてはならない。
「うーんと、たしか紅珠がくれたのが残っていたような気がするわ。
あれなら陛下もいいにおいって言ってたから大丈夫よね!」
しばらく前に、城下町に新しい香りが流行っているといって持ってきてくれたものだった。
自分のために香を焚くことはほとんどないからやり方はよく分からないけど、
香珠に習ったとおりにやってみるとうまくいった。
「よし、次に・・・積極性」
初めての夜は旦那も緊張しているから、まな板の魚みたいに転がっているだけじゃだめ!
らしいので。
陛下が緊張なんて想像もできないけれど、とにかく言われたことは実践してみるしかない。
あのときみんなで、男の人を押し倒す練習もしたんだった。
これは少しはしたないけど、喜ぶからって。
寝台のほうまで行って、陛下のことを想像しながら動きを練習してみる。
これは、すごく恥ずかしいけど、耐えられるかしら?
しかも陛下は体を鍛えているから、私なんかの力では倒せないかもしれない。
ただしうまく重心を崩せば、重たい人でも動くらしい。
「こう、かな?」
とにかくこれはぶっつけ本番でやってみるしかない。
ちゃんとできるか分からないけど、臨時を卒業したからにはそれなりの仕事もできなきゃいけない。
「あと、セクシーな動きね。ってなに?」
首をかしげるとか?ばかみたい?
足を片足だけあげて上下に動かす・・・泳ぎたいのって聞かれそう。
腰を陛下に向けて、ってこれは絶対無理だわ。恥ずかしすぎる。
もう、どうしてあのときの私は真面目に練習しなかったの!
今さらやってみても、変な踊りを踊っているようにしか見えない気がする。
「もともと色気なんてないのにどうしたらいいのよー!」
陛下が私のことを可愛いって言ってくれるときは、
私がくしゃみをしたときとか、
よだれをたらして寝ているときとか、
転んだときとか、怒っているときとかだし、
今まで本当に可愛いと思ってくれたことなんてあるんだろうか。
おもしろいから興味があるだけとか?
でもそれで奥さんにするのはおかしいわよね?
私は陛下がなにを考えているか分からない。
どこを好きになってくれたかも分からないし、なにをしたいのかも分からない。
だから今日は失敗したくない。
ちゃんと、夫婦として始まりたい。



ばたばたしている間に陛下の足音が聞こえたから、すぐに寝台に座った。
「夕鈴ー」
香台はどこへ置いたらいいかしら。
寝台のすぐ近くだと少しにおいが強いかもしれないし。
ああ緊張する。
先ほど紙にまとめて書いたものを心の中で繰り返した。
あの紙は破って捨てたから見られることもない。
もし見つかったらいつもみたいに大笑いして、
雰囲気もへったくれもない感じになっちゃうに決まってる。
今日の私は違うんだから!
「どこだろ・・・もしかして緊張しすぎて吐いてるのかな」
なんですって?
陛下の呟きが聞こえて、思わず手にした香台を落としてしまった。
足の小指は避けたけれど、大きな音がなってしまった。
「わ、何?」
「陛下~」
「夕鈴、そっちにいたんだ」
「なんてムードのないこと言うんですか。吐くわけないじゃないですか!」
私がこれだけ気合を入れて準備していたというのに、
陛下のほうはいつもの様子でのほほんとしている。
それに吐くって!
吐くってなに!
私のことなんだと思っているんですか!
自分の考えたことが早速空回りだと分かって早くもやる気が削げそうになったけれど、
まだ2人の夜は始まったばかり。
このままいつもみたいにお茶を飲んで、少し話をして、
陛下は長椅子で休んで・・・
もしかしたら、朝までいないで帰ってしまったりするかもしれない。
それは、嫌。
それじゃあ、偽者のときと変わらない。
陛下は私になにも言ってくれなくて、私も陛下になにも聞けない偽者の夫婦。
肩書きだけ近くて、本当は遠い2人の関係が、私は嫌だった。
戻りたくない。
「ごめんごめん」
陛下が隣に座って、寝台が沈む。
2人の体重はこの寝台には重すぎるのかもしれない。
寝台にまで私の計画を否定されているみたいで気分も沈みそう。
「待たせちゃった?」
「いえ、大丈夫です。私もさっき準備ができたところなので」
「へーなんの準備してたの?」
なんの準備かなんて、口に出せるわけもなく私は黙る。
黙ったらしつこく聞いてくるのは分かっているけど、それ以外選択肢はない。
嘘なんて思いつかないし、つきたくもない。
お茶の準備だなんて言って、いつもと同じように終わりたくない。
「なにかあった?」
「どうして聞くんですか」
「機嫌がよくなさそうだね」
陛下は私のことを持ち上げて、ひざの上に置いた。
あまりに軽々とするから、自分が人形になったみたい。
「どうした?」
狼陛下の低い声が耳に低く。
体が熱くなる。
この声が、私の体を震えさせる。
思わず顔をそらしそうになるけれど、逃げたくなくて我慢した。
黙っていると、陛下の手が腰にまわって、そのまま引っ張られた。
「私に言えないことなのか」
陛下の顔がすぐ近くにある。
まっすぐな紅の瞳に捕らえられて、目をそらすことができない。
すごく綺麗で。
思わず陛下の頬に手をあてた。
もうこの人に触ってもいい。
遠慮しなくていい。

私は、貴方に近づきたいの。

陛下の唇に、自分の唇を重ねる。
やわらかい抵抗が薄い肌から伝わってくる。
少し顔を離して、呆然とした顔の陛下を見つめた。
「え?」
もう戻らない。
どうしたかほとんど覚えていないけれど、そのまま陛下に体重をかけた。
陛下は寝台に倒れた。まだ口をあけたまま。
なにも言わないで私を見ている。
びっくりするでしょうけど。
でも私は、ずっと貴方とこの距離になりたいと、願っていたわ。
「こういう準備です」
陛下の上にまたがるように乗った。
紅い瞳に映った自分の顔が、陛下にはどう見えているのか分からない。
でもどうか笑わないで。
いつもみたいにおもしろいと言って誤魔化さないで。
「夕鈴?」
陛下が起き上がろうとしたから肩を抑えた。
私の力なんかで抑えられるわけがないのに、陛下はそれ以上は抵抗してこなかった。
陛下の額とに軽く口付けをする。
緊張して震えてしまう。
鼻も、頬にも、唇からこの人に愛しさが伝わりますように。
ずっと一緒にいられることが、どれだけ私にとって大きなことか、
言葉じゃ言い表せないから。
私が貴方を幸せにしたいんです。
でも首筋に唇を落として、それ以上進めなくなった。
急に怖くなる。
自分がこの先どこに進もうとしているのか分からない。
どうやって進むかも分からない。
私達は本物の夫婦になったけれど、どうしたらいいか分からない。
本物って、何をしたらいいの。
私はいつだって陛下を支えたいと思っていたけど、
ずっと距離をとっていたのは陛下のほうもじゃないの?
この距離は変わるの?
私達は変われるの?
「夕鈴、」
陛下に名前を呼ばれる。大きな手に頬を包まれて、
そこだけが私を不安から救ってくれるようで、思わず涙がこぼれる。
不安なのに、陛下の手が安心させてくれる。
この人の私への影響力に怖くなる。
あまりにも大切な人すぎて、私がこの人のためにやることは全部十分じゃないみたい。
「陛下・・・」
好きです。
その単純な単語が安っぽいから口にできない。
他に方法が欲しい。
この言葉以外に、気持ちを伝える方法が欲しい。
陛下が体を起こして、私の頬に軽く口付けた。
「しょっぱいね」
「ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
「私、陛下を喜ばせたいと思って・・・それが妻のつとめだって、
あ、老師じゃないんですよ」
『妻のつとめ』と口にした瞬間に陛下の雰囲気がさっと変わって、
傍にいる人間を全員血祭りにあげそうな顔をしたので、私は咄嗟に老師をかばった。
なにを考えているかすぐに分かった。
でも、『妻のつとめ』の話をするのは老師だけじゃないんです。
だれだって考えるんです。
私だって考えるし、知りたい。
どうしたら夫を幸せにできるか、精一杯考えたい。
「あの・・・昔、下町のバイト先で話をしたんです。初めての夜の、こととか・・・」
とにかく老師じゃないんだと証拠をあげようと、バイト先のことを話そうとしたけれど恥ずかしくて声が小さくなってしまう。
口に出すと、なんてことを言っているのかと思う。
きっと陛下も呆れてしまう。
「でもよく分からなくて、怖くなってきちゃって」
最初の区切りの大事な一日。
ずっとずっと考えてきたのに。
陛下とすごしていくこれからを一日中考えて、
はじまりのこの日は特別なものにしたかった。
それなのに。
顔をあげると、優しい陛下の顔。
陛下の笑顔はいつも優しくて、安心してもっと泣きたくなる。
「いつも一生懸命なのはいいけど、そういうのは2人で考えたらいいんじゃない?
僕を喜ばせるなら、こうして手をつないで」
「きゃっ」
急に引っ張られて、私と陛下は寝台に倒れた。
そして寝具が宙を舞ったかと思うと、大きな影に覆われた。
頭まで寝具にかぶさって、陛下は私をじっと見ている。
陛下の手が私の手をとる。強く握られた。
「一緒に寝て、朝起きて、そのとき夕鈴の顔を見れたら、なにより嬉しいよ」
この人には、勝てないんだ。
私がなにを考えていても、いつもこの人の笑顔と言葉が、
私が思いもつかないようなところから抱きしめてくれる。
また涙が溢れてきた。
陛下といるようになってから、前よりずっと涙を流すことが多くなった。
弱くなったのかもしれない。
今まで知らなかった守られる感覚で、私は自分の守り方も、強くいる方法も忘れてしまったのかもしれない。
額に口付けされた。
それがあまりにも優しいから、やっぱり私は泣いてしまう。
「僕たちはこれからずっと一緒だから、なにに焦る必要もない」
陛下の冷たい手が私の頬にふれる。
これからは毎日この手を握って、愛しい人に好きだと言える。
焦らなくてもいい、そう貴方が言ってくれるなら、
私は貴方に伝わらない気持ちに泣かなくていい。
毎日毎日時間があるから、少しずつ伝えていったらいい。
少しずつ2人で幸せを作っていってもいいんだと思える。
「君の隣で夢を見れることと、明日もそうだと思えることが、今日の僕の幸せだよ」
なら、私は毎日貴方が夢を見るまで隣で見守っていたい。
この優しい人が、いつでも優しい夢を見れますように。
そう願ってその冷たい手を額に当てた。



―――――――――

(10.31.2011)

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