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恋とはどんなものかしら1
■登場人物 方淵、紅珠、水月
■カップリング 方淵×紅珠の予定

方淵が惚れ薬を飲んで紅珠に惚れる話です。
くだらない話にしようと思ってたら意外と真面目な雰囲気になりました。
つづくはず!

つづきからどうぞ。

ーーーーーーーーーーーー
「水月貴様、今日という今日は許さん!」
池の水が日中の柔らかな日差しを浴びて光を反射して輝き、春の穏やかな風が流れている。白陽国のどこよりもゆったりと時間が流れているのではないかと錯覚を起こさせるような氾家の邸宅に、その空気に似つかわしくない怒号が響いた。
名前を呼ばれた氾水月は、わざわざ休日の昼下がりに訪れてきた同僚を見て数回瞬きをした。
「やあ」
「挨拶などいい。貴様、今回ばかりは許さん」
「ああ、うん。今日はとってもいい天気だから外で話すのはどうかな」
にこりと微笑んで道筋を示す水月の手を、方淵はぴしゃりと叩き落とす。
「長居するつもりはないからここで話す。いいか、今回の会合は今後の白陽国の外交戦略の布石として欠かせないものだったんだぞ」
「うん。それで結局形だけの出資で納得してもらうことになっていたんだろう?」
「馬鹿か。そんな甘い話で終わらせたわけないだろう。定期的にこちらから留学生を派遣することにした。あちらの中央に切り込むつもりだ」
「そうなんだ?なら結果的に私が出るより良かったじゃない」
「なんだと?」
「だって私が出たところで出資額を最小限にするくらいしかできなかったと思うよ。元々そういう話に持っていくということになっていたわけだしね。私はあの人は苦手だし、あの人は君みたいな頭の固…堅実な雰囲気の官吏が好きだから、気に入ってもらえたんじゃないかな」
水月が悪びれずに言葉を続けると、方淵は眉間に皺を寄せて水月を睨んだ。
「貴様最初からそのつもりだったな」
「まさか。思いついたのは途中からだよ」
方淵は思わず一歩踏み込んで、水月の気の抜けた顔を殴ろうとした。
しかしすんでのところでここで手を出したら負けたことになると思い自分を制する。
今回ばかりは水月も、方淵が本気で怒っているのが伝わったのか(いつも本気で怒っているのだが)、少し真剣な顔つきになった。
「いや、悪かったとは思っているんだけれど、だって君のほうが得意そうなものだったから」
「そういう問題ではない!」
水月は面倒ごとを嫌うがあまりに効率を追いかけて、それがうまく当てはまればいいが、今回のように自分自身の勝手な価値観で周囲を振り回すところが大きな欠点だ。
本人相手に怒鳴り散らしたところで方淵の気が済むわけではなく、波のように引いたかと思えばとたんにさらに大きくなって帰ってくる憤怒の感情に、体を震わしている。
「うーん、どうしたものかな…あ、そうだ。お疲れだろうから氾家特製の栄養剤でも飲んでいってよ」
「そんな怪しげなもの口にするか!」
「怪しくなどないよ。れっきとした薬師が作っているもの。お妃様にも差し上げたことがあるんだよ。あちらの部屋に小さな瓶があるからどうぞ。私はお茶を入れてくるね」
「だから長居はせんと…」
「私からのお詫びだよ。それにせっかくだからそのときの話を聞いてもいいかな」
「…そういうことなら」
侘びの部分はどうでもいいが、仕事の話をするとなれば、少し座って話すのもやぶさかではない。方淵は促されるまま移動して、卓の上に置いてある小さな瓶を見た。
「そこにある白い瓶だよ」
離れた場所にいる水月が声をかけてきた。
栄養剤など方淵には不要なのだが、飲んでおかないと後で怖気づいたのかとでも言われると腹が立つ。
方淵は白地にうっすらと紫色の上薬をかぶった上品な瓶を手に取った。栄養剤一つに細かな花の細工までする必要はないと思うのだが、そこは氾家のすることなので方淵の知るところではない。
蓋を開けるとほのかに甘い香りがして、少なくともすぐに分かる毒の類ではないことを確認する。さすがに屋敷の中に致死性の毒を放置することはないだろうが、癖だ。
どうせだたの砂糖水に香りをつけただけのものだと判断し、口元に近づける。
カタ、と音がした。
「方淵様?!それは…っ」
口の中にとろみのある液体が流れ込んだ瞬間、方淵の胸になにかぶつかってきた。
手にしていた小瓶がはじかれ、床に転がってカラカラと音を立てた。
「…っう」
方淵は体当たりされた衝動で床に倒れこみ、その上から人がかぶさってくる。
「何をする?!」
衝撃の軽さから相手は刺客などではないと分かっていたが、理由もなく体当たりをされては驚きと怒りで方淵の声は鋭かった。
「…方淵様こそ、なぜその薬を!」
「氾紅珠」
真っ青な顔をして、氾紅珠が方淵の目を覗き込んでいる。
紅珠の丸い瞳は動揺を伝えるように震えている。
「貴女の兄が、白い瓶に入った栄養剤を飲めとうるさかったからだ」
「白い瓶の栄養剤…?それは先ほど片付けてしまいましたわ」
「何?ならばこの甘い液体はなんだ。砂糖水としか思えんが」
紅珠の唇が震えている。
ただ甘かっただけで、方淵の体にはなんの変化もない。
まさか毒ではないだろうと思いつつも、紅珠の尋常ならざる様子に方淵も少し緊張した。
「…それは、惚れ薬ですわ」
「ほれぐすり、だと?」
「ええ」
神妙な顔をして紅珠が頷いた。
方淵はどう反応するか迷ったが、小さなため息をついて立ち上がる。
小さく震えながら床に座り込んだままの紅珠に手を差し伸べると、紅珠は遠慮がちにだがその手をとって立ち上がった。
「薬を飲んで一目見た人に惚れてしまうお薬ですわ。私が友人に頼まれて用意していたんです。まさか方淵様が口にされてしまうなんて…」
紅珠は今にも泣き出しそうな顔をして下を向いている。
方淵は自分の飲んだものが毒にも薬にもならない砂糖水であろうことが分かって、紅珠の様子を見て顔をしかめた。なにを泣く必要があるのか理解できない。古来よりこのような薬は砂糖水に香りをつけて、少し値の張るものでも漢方が微量に含まれているくらいだ。
「フン、さしずめ麻黄か附子でも入っていて動悸でも誘発する薬か。ずいぶんうまく味をごまかしたものだな。くだらん。こんなものに頼るやつの気が知れない」
方淵は先ほどの小瓶を拾って卓の上に戻した。
「…方淵様、薬の効果を信じるか信じないかは方淵様しだいですけれど、その薬を使おうとした私の友人を貶めるような発言、見過ごせませんわ。くだらなくなんてありません」
ずい、と目の前に迫ってきた紅珠に、方淵は目を見開いた。
以前妃がいなくなったときに取り乱した姿を見たことはあったが、方淵が紅珠と意見をぶつける機会などほとんどなかったのだ。一時期は水月と3人で座って会話したことや、楽器を弾く姿を見たことはあっても、最近はほとんど姿を見なくなっていたし、見たとしても声をかける機会がなかった。
方淵を睨みつけるように見上げる視線は今までに見たことがないものだった。
「彼女は本気ですわ」
「貴女の友人を個人的に貶めたつもりはない。ただそんなもので人の心を手に入れたところで一時のまやかしのようなもので、薬を飲ませたやつの自己満足でしかないという意味だ」
方淵が先ほど、くだらないと発言したとき、ここまで考えていたわけではなかった。
しかし相手に反論されるとつい、それに反撃するように言葉を紡いでしまうのだ。本気で議論するような内容ではないはずで、言い過ぎたと思ったのももう遅い。紅珠は搾り出すような声で返してきた。
「もちろん、彼女だって薬で手に入れた心が本物ではないことくらい分かっていますわ」
「ならばそんなものに頼ること自体が時間の無駄だとは思わないのか。
相手に本心から向き合おうともせずに、軽薄で怠惰な選択だ。その程度の気持ちで本気だなどと…」
「方淵様!」
「なんだ」
「方淵様のおっしゃっていること、私は間違いとは申しませんけれども、彼女の気持ちが本気かどうかはそれこそ、この薬の件だけで判断するのは軽率ではありませんこと。方淵様のご判断にはがっかりしましたわ」
「なんだと?」
「方淵様は、先入観やご自身の価値観だけにとらわれないで、事実を客観的に検証される方だと思っていましたもの。ご自身の考えに沿わないときだって、相手が正しいと思ったら謝罪もできる心の広い方だって、お妃様にお伺いしてましたのよ。惚れ薬を使おうとしたことなんて、彼女の行動のほんの一部ではないですか。そんな風に、気持ちを否定しないでくださいませ!好きでいるのは自由ではないですか」
そう言われてしまうと、方淵は反論できなかった。
確かに誰にどう思いを寄せていようと自由だ。
しかしこれは惚れ薬を使うかどうかの話であって、惚れ薬に頼るようでは本気ではなく、人事を尽くすべきではないかというのが方淵の持論なのだ。色恋沙汰に限ったことではなくて、神頼みや他人の力に頼ったところで気休めでしかない。手に入れたいものや達成したいことがあるのなら、着実で堅実な道を選んで、具体的に行動をおこすべきではないのかと、そう思っただけだ。
相手に好かれたいのなら、こんなくだらない薬で気を引こうとしないで、もっと他に手段が―――
方淵が口を開く前に、紅珠が早口で言葉を続けた。
声量はだんだんと大きくなり、紅珠の目にたまった涙はあふれそうになる。
「方淵様は、自分の身が裂かれるような気がするほどに強い、自分ではどうしようもできないような気持ちでどなたかを愛したことはありますの?いつものように話そうとしても話せなくて、視線を合わせることさえ躊躇われて、呼吸も苦しくて、いつもその人のことが心に浮かんでしまってなにも手につかないような、そういうどうしようもない気持ちになったことです!ありますか?どんな手段を使ってでも手に入れたいというくらい、でもどうしていいか分からなくて、こうして効果がいかほどかも分からない薬に手を伸ばしてしまうんです。それはそんなに愚かなことですの。くだらないとおっしゃいますか」
紅珠はそこまで言い切って、自分の発言に驚いたかのように気まずそうに方淵から視線をずらした。
「私は…そうは思いませんわ」
いよいよ紅珠の目に浮かんだ涙がぽろりとこぼれた。
最後は消え入るような声だった。
「…だって他に、どうしていいか分からないんだもの」






紅珠が一礼して走り去った後、方淵は出て行った先を見つめることしかできなかった。
「――淵、柳方淵?」
目の前でひらひらと動く手がやっと視界に入り、方淵は飛び跳ねるように後ずさった。
「なんだ?!」
「君こそ何をぼんやりしているんだい。お茶の用意ができたけど…なにか紅珠と話していたの?」
「ああ…おい、貴様!」
「何?」
「貴様がくだらん栄養剤を強要してくるせいで面倒なことになった」
「ええ?いい薬なのに」
文句を言われることが不服というように、水月は不満げな声を出す。
「そこにあったのは栄養剤ではなかった」
「え?」
水月は方淵が指で示したほうに視線をやった。そこにおいてあるのは、水月が想像した丸みのある白い瓶ではなくて、薄い紫色の細長い小瓶である。
「ああ…これは惚れ薬だね。もしかして飲んじゃったの?」
「何を抜けぬけと…!」
「それで紅珠がなにか言っていたんだね。紅珠は恋とか愛とかのことになると譲らないからね。君とは意見が合わなくても仕方ない。君もまた真面目に答えたんだろうし」
ははは、と水月が愉快そうに笑う。
方淵にとっては愉快でもなんでもない。
薬の効果はどうあれ、他人の家で女人と口論して泣かせたというのは気分が良いものではないし、紅珠は何も悪いことをしたわけではないのだ。
方淵だって悪いわけではなかったが、怒鳴り散らしてしまったことへの罪悪感が方淵の心を鈍く攻撃してくる。そんなにムキになって口論するような話題ではなかったのに。
「まあそんなに心配しなくても大丈夫だよ。この薬はすごく効果があるんだけど、色々条件があるからさ」
「条件?」
「うん。まず、2人きりにならなくちゃいけないし、飲んですぐ最初に相手の視界に入らないといけないし、それに最大の難関は、惚れさせたい相手の身体の一部に触れながら飲ませないといけないんだって」
正直ここまでできる相手だったら最初からうまくいってるよね。だからきっと効果があるって言うわれているんだよ、などと続ける水月の発言は方淵の耳には入っていなかった。3つの全ての条件を満たしていたのだ。方淵と紅珠は、あのときすぐ近くに水月がいたとは言え2人きりであったし、方淵は飲み終わってすぐ紅珠と視線が合った。そして、方淵の喉をあの砂糖水―惚れ薬か―が通る瞬間、紅珠が方淵に体当たりしてきたため、しっかりと触れ合っていた。
そのときの紅珠の小さく軽い身体の重みと、体温がすぐ近くに戻ってきたような錯覚がして、方淵は現実に戻ろうと頭を振った。
「どうしたの」
「二度とそんなくだらないものを放置するな」
「ええ?置いたのは私じゃないよ」
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