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おもう2
登場人物 水月、夕鈴、青慎、紅珠、黎翔、など
カップリング 水月x夕鈴(黎翔x夕鈴描写あり)

・つづきです。
※この話はシリアスではありません。

・今回も1話目と同じくらい捏造にあふれかえっています


つづきからどうぞ


水月は夕鈴がたびたびどこかへ出かけているという話を青慎に聞いて、
気になっても女性の予定はあまり詮索しないほうが良いと助言しておいた。
念のため夕鈴を追跡するべきかとも思ったが、
国王のプライベートな時間に踏み入るべきではないと考え、
なにがあったとしても対処ができるように、
あらゆる状態を想定して準備をするほうに力をいれることにした。
夕鈴のことも注意深く観察しているのだが、
彼女はあまり変化が見られない。
「水月さん、なんでこっち見てるんですか?」
「え?」
「なにかありました」
「いえ、すみません…考え事を」
黎翔と逢瀬を重ねていれば少し雰囲気が変わるものだと予想していたのだが、
夕鈴は一向に変化がなかった。
多少化粧をするようになったのと、
髪のツヤが増した気はするのだが、
黎翔がそういったことを重視しないから変わらないのだろうか。
夕鈴自体もほとんど容姿に対する執着がなく、
少し裕福になったからといって装飾品に手を出す気配は全くないようだった。
国王に会うのにいつまでも麻や、
少し奮発したとしてもくず繭でつくった生地は考えものなので、
水月が勝手に食事のお礼だとか何かと理由をつけ、
さらに紅珠を間に挟むことで夕鈴に警戒されないよう装飾品や衣装を贈ってみるのだが、
身につけているところはほとんど見ない。
絹は着ないと虫に食われてしまうらしいと伝えると、
虫干しするから大丈夫だと見当違いな返事をもらってしまった。
王宮にいたときからそうなのだが、
この女性は水月の知っている常識とはかけ離れた価値観を持っており、
普通なら間違いのない手段を選んでも、
予想したとおりには受け取ってくれないのだ。
仕事よりも大変だが、
黎翔のためと、
後は自分の心の健康を考えると仕方のない労働であった。

天気がよかったので、池の近くを散歩して、
東屋でお茶を飲むことにした。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
池が増水しているため、石を渡すのに手を差し出す。
夕鈴はエスコートされるのに慣れていないのか、
少し戸惑っている様子だった。
あれだけ王と一緒に過ごしていたのに、
夕鈴は水月が距離をつめると少し身体を強張らせる。
黎翔は夕鈴のことをいつまでも初々しいと評価していたが、
水月にとっては、
何をしても警戒されているような気がして、
いまいち距離の取り方が分からなくて困る。
かと思えば、水月のほうがびっくりするほど近くにいるときもあるし、
長椅子に座っているときに肩に重みを感じて隣を見てみると、
すーすーと寝息を立てていて驚かされることもある。
黎翔のよく言っていた見ていて飽きないという表現よりも、
はらはらしてしまって落ち着かないといったほうが正しい気がした。
次に何をしだすか分からないので常にどこにいるか見ていなければならないし、
発言が予想できないから望んだ会話の誘導もできない。
水月にとっては手ごわい相手だ。
椅子に案内し、お茶を淹れる。
そろそろお茶の種類にも限界が見えてきたが、
たまに同じものを出しても夕鈴は全く気にしないようだった。
せっかく空気が澄んでいるので、
一曲笛を手にして演奏することにした。



池の水面に葉が落ちて、
波紋の広がっていく様子を見ながら演奏をしていた。
夕鈴は音楽に詳しいわけではないが、
水月が楽器を演奏していても退屈そうにはせず、
終わると喜んでくれるのだが、
今日は様子が違うようだった。
水月が顔をあげると、夕鈴は柵によりかかってすやすや寝息を立てている。
「……」
目の下にうっすらと隈が出来ている。
日頃は普通に生活して、
夜に黎翔と会っているとしたら疲れてしまっても仕方がないか。
せっかく用事がないときに呼び出してしまったのは悪かったかもしれない。
水月は笛をしまって、
夕鈴を抱き上げて室内に運ぶことにした。
軽々とは言えないが、
なんとか部屋の中には戻れそうだ。
足元が悪いため慎重に、
一歩ずつ石の上を進む。
夕鈴を抱きかかえていると前が見えないのは怖いところだ。
「う、うーん」
「…起きました?」
「え…?え?!ちょ、えっ、やっ、きゃー!」
「夕鈴、落ち着いて…」
もぞもぞ動いたところで引き返すべきだったのか、
そもそも1人で運ばないと人を呼べばよかったのか、
後悔しても遅く、水月と夕鈴は一緒に池に落っこちた。




「ほんっとうに、ごめんなさい」
「かまいませんよ。天気もいいですし」
「水月さん…」
うう、とうつむいて泣きそうになっている女性を目の前にして、
怒る気にはなれない。
水月は自分が非力すぎるのも悪いと思っていた。
武官のようにしっかり身体を作っていれば、
抱きかかえた女性一人が暴れたところで、
一緒に池に落ちるような失態は犯さないはずだ。
自分には必要ないと思い護身くらいしか真面目に訓練しなかったが、
この先夕鈴と一緒にいることを選ぶのなら少し体を丈夫にしなくてはならないと思った。
着ていた服がびしょぬれになってしまったため、
夕鈴は紅珠の衣装を身につけていた。
髪も使用人が整えて、ついでに化粧をほどこされている。
やはり、きちんと手を加えると、
もとの作りは悪くないのだろうと思う。
黎翔に会うときもこうしていればいいのに。
その手助けならいつでもしてやれるが、
彼女が自ら望まない限りは水月が手を出すのは難しい。
「あ、あの…水月、さん?」
「…ああ、すみません。
顔が見たくて」
前髪は上げたほうがいいだろうか、
と無意識に伸ばしていた手を引いた。
「今日は、色々ご迷惑をおかけしてごめんなさい。
せっかく演奏もしてくれていたのに、
私、寝てしまったみたいで…」
しかられた子どものように、夕鈴は肩を落としている。
「そんなに気にされなくていいのに。
疲れていたのでしょう。
眠りを誘うのは良い音楽と良いますから、嬉しいですよ。
今日は、早く寝られるように、
もうお帰りになったほうがよろしいでしょう。
またいつでもいらっしゃってください。
笛でも琵琶でも、夕鈴が好きなものを演奏いたしますよ」







「はああああ」
夕鈴は盛大にため息をついた。
水月が親切にしてくれるのは大変有難いのだが、
あまりに優しすぎて、勘違いしそうになる。
水月のことだから、
親切にするのも、夕鈴の髪や手に触れたりするのも、
たいした意味はないのだろう。
青慎の姉だからとか、紅珠と仲が良いとか、
そんな理由が大きい気がする。
水月はだれかに特別な対応を取ることはない。
自分だけが、
その言葉や態度にいちいち驚いてしまう。
相手が何も考えていないのに、
自分が過剰に反応しても仕方がない。
ただ、親切にはきちんと恩返しができるように、
誠実に接していようとは思う。
もし夕鈴が不自然な態度を取ったら、
一緒に働いている青慎にも迷惑がかかるだろうし、
紅珠にも会いにくくなる。
水月は絶対に何も考えていないのだから、
夕鈴が意識しても仕方がない。
そう自分に言い聞かせて、
余計なことは考えないことにした。







青慎は、最近の夕鈴の変化に少し危機感を抱いていた。
時折ぼんやり遠くを見つめていたかと思うと、
ぶんぶんと首を思いっきり横に振ったり、
盛大なため息をついたりする。
青慎にはなんでもないの一点張りであり。
水月の名前が話題に出ると顔が強張るので、
最近少しだけ頻度の上がった氾家でのお茶会に原因があるのではないかと思ってるのだが、
水月を見ていてもなにも変わったところはないため、
答えは分からなかった。
「青慎」
古い書庫はあまり出入りがないため、
青慎は名前を呼ばれて驚いた。
きょろきょろと辺りを見回しても誰もいない。
「……?」
「こっちだ」
「わっ」
後ろのすぐ近くから声がして、驚いて跳ね上がった。
「へ、陛下っ」
「随分な反応だな」
「こんなところで、いかがされましたか」
青慎が王宮に入ってから、
黎翔と2人っきりで会話をするのは初めてだった。
いつもは政務室や会議室で顔を合わせるため、
下町にいたときのようにフランクな表情を見たのは本当に久しぶりだ。
「仕事は順調か?」
「今のところ全て順調に進んでおります。
遠方の州の灌漑工事も全て着工して、
天気が良いので計画が前倒しになっているくらいです」
「なるほど」
黎翔の顔をこれほど近くで見ることは少ないので、
赤い瞳にじっと見つめられると緊張する。
何も悪いことはしていないのだが、
何か懺悔をしなくてはならないような気分だ。
「青慎」
「なんでしょうか」
「これをやる」
なにも説明のないまま、
青慎の手には砂糖菓子が置かれていた。
「…」
黎翔は、黙って微笑むと、書庫を後にした。
この菓子にどんな意味が込められているのか青慎には分からなかった。
あのとき、
夕鈴が青慎に抱きついて大泣きした日に、
黎翔と夕鈴との関係は完全に終わったものだと思っていた。
そうではなかったのだろうか。
これは、青慎に渡されたのか、夕鈴に渡されたのか。
家に帰り、
夕飯の後に砂糖菓子を渡すと、
夕鈴は普通に喜んですぐに食べてしまった。
その上青慎に半分くれようとしたので、
もう王宮で食べてきたからいらないと言って断った。
「姉さん」
「何?」
「今度、お祭りがあるんだけど、
一緒に行かない?」
「え、いいの?仕事でしょう?」
「1日だけ休みをもらったから、
姉さんと一緒に回りたいんだ」
「青慎…!」
なんていい子なのっ!と、夕鈴は青慎に抱きついた。





祭りというのは正妃の生誕祭で、
正妃の出身国でめでたい色とされる黄色を、
体の一箇所に身につけることになっていた。
町の中に溢れる装飾も黄色い。
夕鈴は頭を黄色い紐で結って、
上げ饅頭を食べながら外を歩いていた。
夕鈴の今の家は下町から少し王宮側になったため、
騒がしい商店街で人ごみに押されながら歩くのは久々だ。
2人とも大人だが、
青慎は恥ずかしがらずに手をつないで歩いてくれる。
はぐれないようにというのが理由だろうが、
夕鈴の手をひいて前を歩いてくれることが嬉しかった。
青慎は、仕事を始めてからより落ち着いた雰囲気になった。
もともと大人しく、
心優しい少年であったのが、
自信をつけ、りりしい顔つきをするようになると、
身内贔屓と言われるかもしれないが、
中々の男前だ。
通りを歩いていると、ちらちらと青慎を見ている少女もいるし、
元々の愛想のよさもあって、
年配の層にも好かれていた。
水月の評価がどこまで客観的か夕鈴には分からないが、
仕事もできると聞いていたし、
そのうちどこかの貴族のお嬢様か、
はたまた下町の古くからの知り合いか、
だれかと一緒になると言われても自然の成り行きだろう。
その日までは青慎の一番隣にいるのが自分であるといいなあと、
前を歩く背中を見ていると目頭が熱くなってきた。
「姉さん、あの辺りで座って食べようか」
歩きながら食べ物を買ってきて、
もう手がいっぱいだ。
「そうね」
混雑はしているがギリギリ2人分のスペースが残る場所へと腰を下ろした。
「はあ、あっつい」
「そうだね。
はい、どうぞ」
「ありがとう青慎」
肉まんをほおばりながら人ごみを見つめる。
「少し歩こうよ」
「いいかも。お腹一杯だし」
お茶を一口飲んでから、
大通りとはずれた道を選んだ。
もう手をつなぐ必要はないが、
夕鈴と青慎は手をつないだまま並んで歩いていた。




「姉さん」
誰もいなくなったところで、
青慎は立ち止まった。
もう身長も抜かしたし、
夕鈴の手は青慎の手ですっぽり包めてしまうくらいに小さくなった。
なあに、と首をかしげる姉はもう少女ではなく、
1人の女性だ。
「前にも言ったと思うけれど、
姉さんの人生は姉さんのものだから、
自分の幸せのことを考えてほしい。
僕は、姉さんが王宮で何をしていたかも知らないけれど、
もし姉さんがもう一度…」
「青慎」
夕鈴は青慎の言葉をさえぎり、
手をほどかせて、上から握りなおした。
「そんなことはしちゃダメよ」
「でも、」
黎翔が夕鈴の気持ちに答えなかったくせに、
今も夕鈴の心の中に居座るのは不公平だと思っていた。
黎翔は、その気になればいつだって夕鈴に会いにこれる。
居場所だってすぐに分かるだろう。
大きな影響力を持っている。
青慎に何も言わずに菓子を渡すだけで、
他人の心の中を期待や不安でいっぱいにする。
「王宮で何か聞いたのかしら?
私は何も望んでいないわ。
今、とても幸せなの」
「…本当に?」
「うん。
意地をはっているわけじゃないのよ。
本当に…もう会う必要もないわ。
あの方がまだ1人で寂しかったら、
友人の1人にでもなれたら素敵だけれど、
その必要もないと思うの。
だって、青慎や、水月さんが傍にいるし、
他の官吏の皆さんも、
正妃様だっていらっしゃるわ。
私があの方の傍にいなくても、
遠くからあの方の幸せを願うことはできるし、
それに…お伝えしたの。
どこにいてもずっと味方でいるし、
青慎と一緒に、応援してますって」
夕鈴の表情はとても穏やかだった。
夕鈴が、黎翔のことをまだ引きずっているというのは、
青慎の勘違いだったのかもしれない。
むしろ、
過去を忘れられないのは黎翔のほうなのだろうか。





黎翔は後宮の机に肘をついて、
兎の形をした砂糖菓子を見つめていた。
たまたま献上された品だが、
どうして青慎に渡したくなったのか自分でも分からない。
随分複雑な顔をしていたから、いらぬ誤解を招いた可能性もある。
夕鈴から何度も何度も青慎の話は聞いていたし、
下町でも顔を合わせたことはあるが、
黎翔の記憶にあるよりも青慎はずっと成長していた。
身長や見た目のこともあるが、
それより、
青慎が王宮に戻ってくるまでに身につけた知識や経験を思うと、
王都に残さずに遠方の州長官に任せてよかったと思う。
自信がなさそうに微妙な微笑みを浮かべていた少年が、
黎翔を前にして物怖じしないのは下町にいたときと同じだが、
さらに強い意志と、自信を身につけた。
今、青慎を自分の補佐官として水月に指導させているところだが、
もう少し青慎が立場を強くしたら弟の瑛風につけようと考えている。
黎翔は通常より早めに王位を譲るつもりであったが、
妃が思ったよりも政治に興味を持っており、
内政についても黎翔には思いつかないような話を出して、
そのうえ頼めば方々に根回しもしておいてくれるため、
引退は延期してもいいと思うようになっていた。
ゆっくりと瑛風のために豊かな国を用意してあげられる。
そうすると彼の教育にも、もう少し時間が使えるので、
青慎と一緒にあの州長官のところに勉強に行かせるのも良いだろう。
まずは青慎が黎翔個人に抱いている警戒を解くことが望ましいのだが、
個人的に話しかけると夕鈴絡みのことだと思われるため、
仕事の面から入って外堀を埋めるのが早いか。
しかし夕鈴に負けず劣らず、
青慎も随分姉に入れ込んでいるようで、
軋轢を生まずに遠い土地に引き離すのは難しそうなため、
また夕鈴に引っ越してもらうことになるかもしれない。





「水月」
「はい陛下」
「これを青慎に頼む」
水月は手渡された資料に目を通し、
黎翔の顔を見た。
表情は読めなかった。
「かしこまりました」
黎翔の表情から意図を読み取るのは不可能なので、
無駄なことをしてしまった。
王弟の瑛風は現在壬州と王都を行き来しており、
水月もしばしば顔を合わせる。
今回は瑛風を隣国との会合に参加させるようだが、
その付き添いに青慎が入っていた。
外交の中心役である父の史晴は同行するだろうし、
その下にいるのも史晴の部下ということになるが、
黎翔の側から派遣するのが瑛風と青慎だけというのは何を考えてのことだろうか。
「なにか意見があるのか?」
「もし、可能であれば私も同行してもよろしいですか」
「補佐官なしで私に過労死してほしいのか?却下だ」
「…承知いたしました」
毎度のことだが、王の考えていることは分からない。
史晴の動向を見るつもりなのか、
隣国の考えを読みたいのか、
はたまた他の全く関係のない目的があるのか。
ひとまず自分の部下が粗相を犯しては困るので、
一通り振る舞いを教え込んでおく必要がある。
はた、と水月は足を止めた。
もし黎翔が瑛風と青慎の距離を縮めようとしており、
青慎を将来的に瑛風の補佐に回そうと考えているのだとすると、
瑛風が壬州に戻ったら青慎も壬州に同行することになり、
王都には国王の補佐はまた水月1人となる。
せっかく後任ができたというのに最初からやり直しだ。
もし王がこのような考えを持っていて、
青慎をいずれ自身のもとからはずすのならば、
いつまでも水月を補佐官として隣に置いておくことになる。
それも不思議なことであって、
水月は自分の能力が特別補佐として有難いかといったらそれは疑問だった。
方淵か水月かどちらか1人となったときも、
他部署に黎翔の意思を反映させやすくするために、
国王派の方淵を送り込んだのかと思えばそういう様子でもなく、
水月のことが信頼できなくて近くで見張っているのかと思えば、
それもまたはずれな気がして、
果たして玉座を譲るとして、
役職への執着のない水月を選んでおけば面倒が少なくなるとでも考えられているのだろうか。
それまでの時間は王宮に拘束されるはめになるのかと思うと甚だ迷惑な話だ。






瑛風は気弱そうに見えて仕事を任せれば頼ることができた。
本来なら経験の豊富な人間を1人横につけたいのだが、
今回は外交は氾史晴に任せておくとして、
青慎との相性を見られたら十分だと思っていた。
ついでに隣国の対応を見られれば幸運であり、
そういう意味では今回の会合は収穫が多かった。
はじめ、使節団の人員を選考したときは、
氾水月が不満を持っていたようであったが、
すぐに提案を取り消した。
水月には、父である史晴とその部下にかこまれた瑛風と青慎を想像すると、
とてもではないが役割を果たせないと映ったのだろう。
しかし、元々黎翔は史晴たちだけを行かせるつもりであって、
瑛風と青慎に外交させようとは最初から考えていなかった。
気がつけば帰宅している水月が、
自ら面倒な外国での会合への出席を立候補してくるとは驚きだ。
2人が失態を犯せば自分の仕事が後々増えると考えてそう動いたのか、
まさか部下の青慎を心配して行動するような男ではないだろう。
氾水月を補佐官として登用したことに深い意味はなかったが、
彼が同じ結果を得るために最低限のことしかしようとしないところは、
とにかく量をよこそうとする周宰相や李順と組み合わせると、
黎翔にとってはちょうどよかった。
水月は本当に最小限の労力しか使おうとしないため、
上には仕事が回らないようにうまく調節し、
必然的に黎翔のところへ回すものも厳選した状態である。
間違いは犯さないが、
不必要な確認は一切しない。
時間は短縮。会議もほとんどなし。
資料は上から下まで一度読めば黎翔と同じ速さで判断をするし、
その場で条件が変わればすぐに対応もする。
残業をしないため夜に仕事も持ってこないし、
水月を補佐官においておくと随分楽だった。
いつ出仕拒否をするか分からないため、
補佐官を水月1人にするのは避けるつもりだったのだが、
よくよく見ていると、
いつのまにか早く帰るだけで長期欠勤、遅刻は少なくなっており、
今後出仕拒否はないと見ている。
いったいどんな心境の変化があったか知らないが、
黎翔にとっては都合の良いことだった。





黎翔が、
青慎を瑛風の傍につけようとしているのは明らかになってきた。
ここ最近は壬州への一緒に戻っているようで、
補佐官としての仕事は水月1人に回ってくる。
青慎がいると随分楽だったので、
1人となるとなかなか面倒なのだが、
どれだけ仕事が増えてもその日のうちに片付けて、
日が落ちる前には王宮を出るのが水月である。
家に帰ると明るい話し声が聞こえて来たので、
これは久々に妹と夕鈴が来ているのだろうと予測した。
「水月兄様」
「やあ紅珠。久しぶりだね」
「本当ですわね。
兄様、実は今日は私が料理をしましたの」
「え?本当に?」
紅珠が料理をするなんて、よく許されたものだ。
しかし説明を聞いてみたら果物を切っただけのようだった。
刃物を扱っただけでも褒めるべきだろうか。
「水月さんこんにちは」
隣の部屋から料理を持った夕鈴が出てきた。
そういえば、
先日青慎が隣国からレシピを持って帰ってきて、
珍しいから作って欲しいと、夕鈴に対して紅珠がねだっていたのを思い出した。
見たことのない餃子みたいな形のものが、
スープに浮かんでいる。
「見たことがない料理ですね」
「青慎にレシピをもらったんです。
味見をしましたけど、おいしかったですよ」
鍋の中身が半分くらいになっているので、
味見がメインになってしまったのではないかと思うのだが、
水月はどちらにしろたいして食べないので量が少ないのは助かる。
料理を分けてくれている夕鈴を見ながら、水月は考えていた。
今のところ瑛風は王都に長くいるが、
もし壬州に戻るとなったときに、
青慎がついていくとして、夕鈴はどうするのだろう。
黎翔はそのことも考えの中に含めているのだろうか。
青慎と黎翔のつながりが不明なのだが、
夕鈴と会話をしていれば青慎との仲の良さはすぐ分かる。
瑛風と黎翔がそろって王都から消えてしまっては困るし、
青慎と夕鈴は離れない。
となると黎翔は夕鈴を王都からまた出そうとしているのだろうか。
実はすでに夕鈴は黎翔の御子を宿していて、
その子を育てるために壬州へ向かうという可能性は、
ない。
夕鈴の表情を見ているとそれはない。
今だ夕鈴は定期的に青慎の知らないところへ出かけているため、
それが黎翔との逢瀬ではないかと考えているのだが、
もとより確認していないため水月は少々混乱していた。
しかし、
夕鈴が妊娠したら、
子どもを守るために水月は自分の傍に置いておくほうがよいと思ったのだが、
遠方に逃げるという手も有用な気がした。
ただ、黎翔の母親は、
幼い黎翔とともに辺境の地へ飛ばされたという話であるし、
全く同じ道を選んだりするだろうか。
やはり、近くに置きたいのではないか。
現状を明確に把握できれば一番良いのだが、
人に聞いて分かることでもなければ、
外の状況だけで判断できるわけもなく、
水月はじっと皿を見つめているのだった。





夕鈴は紅珠と顔を見合わせた。
最近水月が忙しいとは聞いていたが、
今日はいつもより一段とぼんやりしており、様子が変だ。
料理を皿に移して、
食べ始めるといつもの様子に戻ったが、
会話は続かない。
今日はやめておいたほうがいいだろうか。
夕鈴は部屋のすみに置いた琵琶を見つめた。
何度も紅珠や水月と時間をともにするたびに、
自分も一緒に演奏に混ざりたいと思うようになり、
こっそり定期的に紅珠に会い、教えてもらっていた。
紅珠も琵琶は得意なわけではないと言っていたが、
夕鈴からすれば立派な先生だ。
ある程度の曲なら弾けるようになったし、
せっかくだから水月にも聞いて欲しいと思っていたのだが、
この様子だとそんな雰囲気でもない。
少しがっかりしたが、
食事が終わってからすぐに家に戻った。


青慎は近頃あまり家に戻らない。
詳細は聞けないが、
どうやら瑛風とともに壬州に赴いているようである。
黎翔に少しだけ似た少年のことを思い浮かべると、
心が温かくなった。
2人とも心優しく、可愛らしい。
きっと仲良くなれるだろう。
もし青慎が瑛風と友達だったら、
一緒に遊ぶこともできただろうが、
青慎が官吏になった以上はそんな関係は望めないので、
夕鈴は心の中で瑛風を思い浮かべた。
もし、
このまま青慎が戻らずに、
ずっと壬州にいることになったら、
夕鈴はこの家に父の岩圭と2人になる。
父もあまり家にいるほうではないので、
ほとんど1人でいるようなものだ。
そのことに少し不安に感じてしまうことがおかしくて、
いい加減弟離れしなくてはと反省した。






青慎のことを考えると、
頭が働きすぎてしまいあまりよく眠れない。
夕鈴は不眠が続いて気分の悪いままだったが、
紅珠に呼ばれて氾家に来ていた。
廊下を歩いていると、
前から来た人にぶつかってしまった。
「す、すいませ…」
頭が真っ白になった。
目の前にいたのは氾家当主、氾史晴である。
建物が分かれているとはいえ、
夕鈴が出入りしているのは氾家の邸宅だ。
会わないという保証はどこにもなかったのに、
のんきに上がりこんでいた自分に飽きれてしまう。
夕鈴は、余計なことはなにも言うまい、と黙って頭を下げる。
道を譲るように横に避けたが、
史晴は動かない。
しばらく黙っていると、笑い声が聞こえてきた。
「……?」
夕鈴が顔を上げると、
肩を震わせながら笑っている史晴と目があった。
「あの、なにか可笑しいでしょうか」
「いえ、
水月がなにやら頻繁に友人を招いているとは耳にしておりましたが、
まさか貴女だったとは…
どおりで紅珠も一緒に出かけるはずです」
「ご存知なかったのですか」
「聞いておりませんでしたね」
「そう、ですか…、
2人を待たせているので、失礼致します」
夕鈴は一礼して、史晴の横を通り過ぎた。
「お妃様」
夕鈴の足が止まる。
「その呼び名が相応しい者は、
ここにはおりません」
「…そうでしたね。
汀夕鈴殿、またお会いできて良かった。
貴女のことは、とても心配していたのですよ」
「ありがとうございます」




「夕鈴様?」
庭に出ると、紅珠がかけよってきた。
「どうされましたの?お顔色がよろしくありませんわ」
「なんでもないの。大丈夫よ」
「お茶を飲まれますか?」
夕鈴は水月が手渡してくれたお茶を飲む。
緊張で喉が渇いていたのか、
水分を取ると少し楽になった。
「ありがとうございます」
「本当に、あまり顔色がよくありませんね」
「少し気分が悪くて」
「こちらへ」
日陰に座らせてもらい、
風をあびる。
開放感のある庭にいると不安がふっと消えていくようだった。
こうやって、
のんびりと過ごす時間はとても幸せだ。
そのまま3人でゆっくり話をして、
今日は夕鈴の体調もあるため早めに解散となった。






先日のお詫びもこめて、
夕鈴は腕によりをかけて料理を振舞った。
青慎が壬州から戻ってきており、
王都では取れにくい香辛料も使ってみた。
そしてようやく、
夕鈴は琵琶の練習の成果を見せることができた。
夕鈴の指はたどたどしいが、
紅珠と水月が補助してくれればきちんと曲にはなるものだ。
まだ少し時間があったので、
夕鈴は水月と一緒に庭に出ていた。
道は平坦だが、
当たり前のように手を差し伸べてくれるので、
受け取ることにする。
あまり会話はないが気まずい沈黙ではないから、
夕鈴は無意識のうちに鼻歌を歌っていた。
それに気がついたのは水月がこちらを見て笑っていたからだ。
何かおかしいかと聞くと、
なにも、と答えたわりに、
先ほど夕鈴が歌っていたメロディーを口ずさむところは意地が悪い。
「夕鈴は歌が上手ですね」
「本当ですか?
あまり褒められたことはないですけど」
「貴女の声はとても綺麗だと思いますよ」
水月は無駄な話はあまりしないし、
機嫌を取るためにお世辞を言う必要もない関係なので、
夕鈴は素直にお礼を言った。
なんだって褒められるのは嬉しいことだ。
「水月さんは楽器が上手で、
お茶を淹れるのが上手で、優しいですね」
「…?」
「お返しです。
もちろん、お世辞じゃないですよ」
「…なるほど。
では、夕鈴は…」
「やめてくださいよ、恥ずかしい」
「人に恥ずかしい思いをさせておいて、
自分は逃げるんですか」
「嘘、全然照れてなかったじゃないですか!」
「夕鈴は…そうですね…」
「もうっ」
止めようとすると水月にかわされてしまった。
素早く橋のほうに逃げられたので、
夕鈴も追いかける。
「落ち着きがなくて、弟が大好きで、
食いしん坊ですね」
「それ、褒めてないじゃないですか!」
「あとは料理が上手です」
「…ありがとうございます」
水月は全く息を切らしていないのに、
夕鈴は追いかけただけで疲れてしまった。
「はあ…」
「どうしました?」
「いえ…料理が上手くたって、
嫁に行けないんじゃ意味ないですよねえ。
この前下町に行ったときなんか、
みんな私のこと嫁ぎ遅れだなんだって、もうそればっかり。
ひどいんだから!こんな年で相手がいるわけないじゃないですか。
鍋と結婚して料理人でも目指そうかしら」
その時のことを思い出すとイライラしてきてしまう。
この年になったらもう結婚の話なんて出ない。
余計なお世話だ。
「そんなこと言わないで」
「だって本当のことですもん」
「本当のこと…」
「そうですよ。悪いですか」
「私のことは?」
「え?私?」
私と私?夕鈴は一瞬自分と結婚する自分を思い浮かべた。
なんて悲しい人生なんだろう。
「はい。嫌ですか」
水月に手を重ねられて、やっと意味を理解した。
同時に笑いがこみ上げてくる。
「ふふ、何言ってるんですか、水月さん。
慰めてくれるのは嬉しいですけど、
そんな冗談言われると逆にへこんじゃないますよ」
あまりにも唐突すぎて、
冗談を理解するのに時間がかかってしまった。
「嘘でこんなことは言いませんよ。
今日伝えるつもりはありませんでしたが、
前々から考えていたことです。
夕鈴さえ構わないのなら、今すぐでも」
「もう、水月さん。
人がいいのもいい加減に…」
水月が、夕鈴の手を握る。
真剣な顔で見つめられると、
笑って返答できなくなってしまう。
そのまま無言でいたが、
沈黙に耐えられなくなった夕鈴が先に口を開いた。
「…本気で言ってます?」
「はい」
「……」
「突然こんなことを言っても信じてもらえないのは仕方ないですが…
勢いで断らないで、少し考えてはもらえませんか。
貴女が立場のことや、大切な人のことを考えて、
不安に思うこともたくさんあると思いますが、
全て私にたくしてはもらえないでしょうか。
貴女の想っているかけがえのない人は、
私にとっても大切です。
一緒に、支えることはできませんか?
家族として」
握られた手がとても熱く感じる。
夕鈴は自分の心臓がどくどくと煩すぎて、
水月に聞こえてしまうのはないかと思った。
さりげなく手をひくと、水月はすぐに離した。
少し名残しく感じてしまうのは我侭だろうか。
「少し、考えてもいいですか」
「もちろんです。
返事はいつでも構いません」
「ありがとうございます」

夕鈴は逃げるように家に戻ってきた。
青慎の顔を見て全て吐き出したくなったが、
まだ誰にも言えない。
水月がそんなことを考えているなんて全く知らなかった。
しかも
夕鈴が水月に少しずつ心を開いていくうちに、
身分や立場のことで、
一緒にいても釣り合わないと悩んでいたことや、
青慎の心配のことも、全て見透かされたいたなんて。
夕鈴の中で水月に抱いている気持ちがはっきり何かとは分からなかったが、
自分で思っているより分かりやすかったのだろうか。
夕鈴のことだけではなくて、
青慎のことも家族として一緒に考えてくれていたのは嬉しかった。

何度か会ううちに、
王宮にいるときには知らなかったところも見るようになった。
基本的にはいつでも穏やかに微笑んでいるけれど、
時折真剣な表情をして考え込んでいるときもあるし、
夕鈴が気付かなかったことを鋭く指摘してくれるときもある。
仕事をしたくないと言って休みたがるわりに、
青慎から話を聞くと、
驚くくらい仕事が早くて、しかも間違いがないそうだ。
官吏の名前もよく覚えているし、
周りの人間のこともよく見ている。
夕鈴も、自分のことをよく覚えてくれていて、
軽率なことは口にせず、
そっと寄り添うように会話してくれることに安心していた。
土足で人の心をかき乱すようなことはしない。
水月の言葉はいつでも、
夕鈴のことを穏やかにしてくれる。

なぜ、いつも手の届かないような人を好きになるのだろう。
水月が良いと言っても、
相手は白陽国きっての名門、氾家の長男である。
そう簡単にことは進むのだろうか。
今度、紅珠と会う約束をしている。
水月もきっといるだろう。
返事はいつでもいいと言ってくれたけれど、
顔を合わせておいて何も言わないなんて、許されるのだろうか。








夕鈴の体調が悪くなっているのを見て先を急いだところはあるが、
会話の流れで結婚の話を切り出したのはもともとの計画ではなかった。
夕鈴があまりに自暴自棄なので、それを否定したくなったのもある。
問題は、夕鈴が黎翔の子どもを妊娠している状態で、
水月に嫁ぐことを自分自身で許すかという点だ。
顔色が悪いが腹部は目立たないのでまだ妊娠したばかりであろうし、
今の状態では青慎にまかせて壬州に送り出すという計画は難しい。
もう少し準備をする時間があればそうすることもできるが、
今から10ヶ月以内に安全な場所を確保できるのか明らかではない。
出産後に子どもを育てる段階になってから、
必要であれば移動というのも考慮する必要がある。
夕鈴が王宮には戻れないが黎翔の寵愛を受けているという立場と、
子どものことを知っているということは示唆したし、
それも含めての今回の話であるとは伝えたが、
意地っ張りで頑固なところがあるので、
水月に頼ってくれるかは賭けになってしまう。
時間をかけて慎重に信頼関係を作ってきたつもりだ。
嫌われてはいないだろうが、
どこまで心を開いてくれているかは測れるものではない。
驚いた顔をしていたが、
意外なだけで拒絶をする様子ではなかった。そのことにとてもほっとした。
精神的にも負担の多い状況であろう。
できるだけ早く頼って欲しいと思うが、それは水月が決められることではない。

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水月さん…(大笑)
ありますあります、離れて冷静に見てたら勘違いする余地なんてないのに、のめり込んでると人はバカになっちゃうんですよね。水月さんも人間だったんですね。この事態をどう収拾するのか、夕鈴と水月さんがうまくいきますように!

31歳な黎翔が大人げない邪魔をしなければいいんですがw
ともこさん
水月さんはほんとうはこんなにアホじゃないとは思うのですが、
私の頭の関係でこうなりましたwもっとかっこいい水月さんをください…

方淵とは方向違いますが水月さんも陛下ににこってされて出仕しちゃうあたり大分陛下のことが好きだと思うので、そのへんを前面に推していきたいと思っています!
夕鈴がいつもがんばっているのでなんとかなる感じです!

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secret


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