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水鏡
登場人物 夕鈴、黎翔、経倬、方淵、義広
カップリング なし

・SNSよりいどう
・エセミステリーで柳家メインです。Uさんからネタ頂きました!ありがとうございます。
つづきからどうぞ

ーーーーーーーーー

「二八三八ってなーんだ?!」
夕鈴がとっさに反応できずに目をぱちぱちさせている間に、
子どもたちは軽快に駆けていく。
砂埃がぶわりと舞って、
夕鈴は買ったばかりの野菜が汚れないように体で守らなくてはならなかった。


家に帰り、夕飯の支度をしながら、
夕鈴は先ほどの子どもたちの問いかけを思い出してみる。
答えも聞かないで走り去ってしまうのは全く失礼な話だ。
「なんのことかしら」
夕鈴は勉強は苦手だが、
言葉遊びやなぞなぞは好きだ。
大根を細かく切って、
2つ、8つ、3つ、8つと順番に並べてみる。
この次は4つ、8つなのかしら?
ううん、そんなの関係ないか。
発音の話?
何度か口に出してみるが、
語呂が合いそうな答えは出てこない。
こうなると意地である。
下町にはあと3日ほど滞在する予定だが、
その間に子どもたちに答えを伝えなければ。
「うーん」
考えながらも手を動かすが、
少し大根を煮過ぎてしまったらしい。
青慎が帰ってくる前に素早く味付けをすませて、
片付けまで終えてしまおうとしつつもやはり頭は先ほどの答えを探していた。




「陛下!クイズ出してもいいですか!」
「なに?」
いつになく楽しそうな夕鈴を見て、
黎翔は首をかしげた。
実家から戻ってきて開口早々クイズとは、
いったいどんな問題だろう。
黎翔は夕鈴の淹れてくれたお茶を手に取って、
一口飲んだ。
下町で流行っているらしい花の香りのするお茶は、
高級品ではないがほっとする味である。
「二八三八ってなんでしょうか?」
黎翔は茶を盛大に吐いた。
「陛下?!ど、どうしたんですか!」
黎翔の衣はびしょ濡れである。
「ご、ごめん。ちょっとむせちゃった」
「大丈夫ですか。拭くものお持ちしますね」
「ありがとう…ところで夕鈴、そのなぞなぞはどこで仕入れてきたの?」
幸い砂糖は入っていないので、ベタつきはない。
手で払ってしまえば中まで染みこんではいなかった。
「買い物してたら、子どもたちが教えてくれたんです」
「そうなんだ。答えはなんだろう?」
「ダメですよ!すぐには教えませんからね。
明日までに考えておいてください!」
ふふ、と夕鈴は楽しそうに笑った。
「寝れなくなっちゃうよ」
「え?それは困ります」
「夕鈴が一緒に寝てくれたら寝れるけど…」
「もう、陛下!」
「うそうそ、おやすみ」
「おやすみなさい、陛下」
「また明日」
黎翔はにっこり微笑むと、後宮を後にした。




答えは知っている。
「なんで夕鈴があの質問を知っているんだ」
下町とは、噂が広まるのが早い。
もう少し早めに知っていれば、
今回の夕鈴の帰省は見送っていただろう。
何事もなく済んでよかった。
閉門した後に、門番に賄賂を渡して出入りする人間がいると、
黎翔の耳に入ってきたのはつい最近のことだ。
そんな輩は大昔からいたので、
いちいち中央に報告なんてしないで現場で対処しろと言ったのだが、
どうにも最近は人数が多すぎて、今の人員では対処しきれないらしい。
人を増やせばなんとかなるといったら、
そう単純な話でもないらしく、
賄賂で済めばいいものの、
中には集団で小さな門を襲う場合も出てきたということだ。
捕まったのは全員男で、特に共通点はない。
出身、家柄、職業、年齢は参考になりそうもなく、
一つ確かな情報は、その噂を広めるのに子どもたちが一役買っているわりに、
実行犯に子どもはいないというところだろうか。
なぜ外に出たのかという質問に答える男はおらず、
みな気まずそうに下を向いているのだった。
未遂の上、犯行はどんどん増えてくるし、
食事の世話まで必要な人間をあまり長く留めておくことはできないとなって、
黎翔はとうとう重い腰を上げたのだった。



「ねえ知ってるかい?」
「知らん。そしてどうでもいい」
へらへらと笑いながら近づいてきた男を見て、
方淵は速攻で会話を切り上げた。
「まあ君はあまり興味がないかもしれないけど」
「私が今知りたいのは西門の腑抜けを雇ったのはどこのどいつだということだ。
情報を持っていないなら立ち去れ」
「え?担当君になったの?」
水月は方淵を無視して質問した。
夜中に門を通り抜ける市民が急増したという話は、
王宮でも噂になっていた。
夜逃げでもなんでもなく、朝には戻ってくるらしい。
王宮にいる人間にとって、
下町の人間が朝出歩こうが夜出歩こうがどちらだって構わない話だが、
問題はその目的である。
方淵には理解できない話であった。
「私ではない。父上だ。
こんな下らない噂話は速攻で解決してやる」
「はあ、ずいぶんやる気だね」
「当たり前だ。
どんな案件でも陛下が信頼して任せて下さっている限り、
期待以上の成果を出さねばなるまい」
「その割に嫌そうな顔してるけど」
最初はとにかく情報集めが肝心のため、
義広は下町の人間を使って真相を求めた。
隠す気もない噂は簡単に耳に入ってきた。
「不愉快なだけだ。
…夜中に廃家の井戸で、
見知らぬ女との情事を望むなどというおぞましい趣味は全く理解できない」
「ははは、私だってできないよ。
しかも相手は幽霊なんだってね」
「そんなものは存在しない。人間に決まってる。
夜中に出かけていく男も男だが、
女のほうも許しがたい」
方淵は吐き捨てるように言うと、
手元の資料を乱暴に閉じだ。



「今日は飲むぞ!」
経倬は、いつもより大きな声で、部屋中に聞こえるように言った。
「はあ、しかし、経倬は先日、
本日は現場に行くとおっしゃっていたような…」
「それは延期だ!
だいたい、なぜ私のような高貴で優秀な人間が出て行かなくてはならないんだ」

二八三八の答えは、『井』である。
2x8=16と3x8=24を合わせて、40。
十が4つ重なった『井』が正解だ。
月の綺麗な夜に、
家の周りをふわりふわりと漂う鬼火にしたがって、
とある井戸に向かう。
その場所は誰にも分からない。
夢の中にいるような心地で鬼火を追っていくと、
目の前に突然井戸と、襦袢を着た女に出会えるという。
女は問う。
『二八三八とは何のことかしら』
正しい答えを口にすれば、この世のものとは思えない至福のときを過ごせるというものである。
「ぎゃーーーーっ」
経倬が叫んだ。
「だれだ!怪談話をする奴はだれだ!
呪われるぞ!」
「ただの噂ではないですか」
「噂も怪談も真実も関係ない!
井戸で営みをするなんて演技が悪い話、相手は幽霊に決まっている。
しかも案内は鬼火だぞ。
この才能あふれる私が志半ばにして死んだらどうしてくれる」





義広は、早口の報告を聞きながら、顔をしかめていた。
死人が出た。
下町の下らない噂話のことだ、
流行りが過ぎ去れば何事もなかったように終わる予定だった。
黎翔本人から話を持ちかけられて、
解決する前に死人が出たとなっては黙って見ていることはできない。
「遺体は?」
「回収しております」
「どうだ」
「外傷は大きなものはございませんので、
なにか中からの作用によるとは思いますが…」
「中を切って見てみたらいいだろう」
義広の言葉に、男は顔をひきつらせた。
死体を切り刻むなんて許されたことではない。
「…方法はなんでもいいから、早くしろ」
ため息を吐きながら告げると、男は礼をして下がっていった。
雇った男は役に立たない。
義広自身は、薬の類ではないかと思っている。
朝帰ってきた男たちの証言には統一性がないため、
幻覚を見せたり、判断能力を奪うようなものなのだろう。
連続で犯行を犯す人間が少ないことから、
中毒性は強くない。
そして噂話の方向が、
色事に向くというのなら、
多分精力剤としても使われる。
あといくつか情報があれば、少なくとも薬の種類は割り出せそうだった。
薬のことなら自分のところより、
あちらに任せたほうが良かったのではないかと一瞬考えるが、
黎翔が選んだのが柳家というのなら仕方がない。
得意分野ではないが、
このまま結果を出さずに投げ出すというわけにもいかぬ。




方淵は、下町の宿にいた。
死者が出たため解決を急いだ。
今のところ連続ではないが、時間の問題だろう。
しかしぼんやり歩いていれば噂の鬼火に出会えるわけでもないし、
どう行動するかは悩みどころである。
一先ず料理屋に入って自分の耳で情報を集めるが、
あまり新しい話は入ってこないため、
宿に戻って真夜中になるまで窓から外へ睨みを利かせていたところだった。
「なんだ?」
月の光に薄っすらと反射されて見えるのは人影だった。
方淵本人には逮捕をする権利がないため、
捕らえても面倒である上、
噂につられた1人1人の馬鹿を捕まえてもしょうもないのだが、
放置するのも癪に障るため方淵は下に降りることにした。
「おい」
持ってきた剣を抜いて声をかける。
人影は迷っているかのように鈍い動きしかしておらず、
方淵が声をかけた時の反応も可哀想なくらいに怯えていた。
「…女?」
井戸の女につられて出てきた男かと思いきや、
そこにいたのは女だった。
年は若くて20代だと思われる。
噂に聞いていた幽霊とは容貌が全く違うので、
この女は実行犯ではないだろう。
「何をしている。とっくに閉門しているぞ。
さっさと帰れ」
「…申し訳ありません」
女は謝りながら、めそめそと泣き始めた。
「…っおい」
「子どもが欲しくて」
「は?」
「井戸を覗いたら、子どもができると聞いたんです。
井戸のむこうは女国につながっていて、
中を覗くだけで孕むことができるって」
どうやら噂は尾ひれ背ひれがついて広がっているらしく、
今や巻き込まれるのは男だけではないようだった。
「それはデタラメだ。
くだらん噂を信じて法律を破るんじゃない」
「でも、隣の奥さんのところは、
旦那が井戸に言って子どもができたんです…」
う、う、と泣き続ける女にかまっていてもしょうがないので、
適当なところで腕を引き、人に預けた。




「はーっはっはっ!
先に井戸を見つけるのはこの私だ!
方淵め、後で悔しがるがいい。そしてこの兄を好きなだけ敬うといい!」
経倬は、部下を引き連れ下町を闊歩していた。
門の通行証もあるので、好きなところへ行き放題だ。
しかし経倬は暗いところへは行きたくないので、
大通りを行ったり来たりするだけで、
後は部下に任せていた。
「む?なんだあれば」
遠くの方に、もやもやと揺れるものが見えた。
「……」
何度か瞬きするが、やはり、揺れている。
「お、おい、誰かあれを見てこい」
近くの部下に声をかける。
「どれですか?」
「いや、だからあれ…ぎゃーーー!」
部下の後ろにさらにたくさんの鬼火が見えた。
経倬は反対方向に向かって走りだす。
茂みの中に入ってしまったがそんなことは関係ない。
「ぎゃああああ」
目の前にも1つ鬼火が見えた。
「うおおおおおおお」
いったいどちらに行けばいいのだ…
その後の経倬の記憶はない。





「ぎゃあああああ!鬼火があああああ!」
恐ろしい夢を見た。
経倬が叫びながら目をあけると、そこは見慣れた自宅であった。
「い、家…」
「経倬、騒がしいぞ…」
「ふぁ、ち、父うどふぁー!眩しい!眩しいぃぃ!!扉を閉めてください父上!」
「む?」
義広は後ろ手に扉を閉めて、光を遮断した。
「死ぬかと思いました」
「お前は毎朝こうなのか」
「い、いえ!違います。今日は特別眩しくてですね。
それより父上!私は昨日、鬼火を見ました!
実在したのですよ!」
「ああ、話は聞いている」
経倬が鬼火に驚いて気絶して運ばれてきたので、
一緒にいた部下に一部始終を聞いた。
気絶する直前にでもなにか情報を得てきたかとわざわざ足を運んでみたが、
案の定期待はずれだったようだ。
「早く着替えて出仕しろ」
「はい父上、あ、待ってください!開けないでください!」
「なんだ情けない」
目を抑えたままの経倬に呆れつつ、
義広は部屋を後にした。
それにしても朝の柔らかい日の光で、
あれほど眩しがる必要もあるものか。
「……確かに異様だな」





「それで、犯人は子どもだったんスか」
「ああ」
黎翔は酒瓶を浩大に向かって投げた。
今回のことは自分には関係ない、
と全く働かったくせに、
下町に夕鈴がいる間の見張り代として酒を請求してくる図々しいやつだ。
噂を流したのも、鬼火を用意したのも、井戸の女も、全部こどもだった。
噂を流したのは、女好きの父親を呼び出すためだったらしく、
男女のいとなみには禁忌の井戸で、
わざわざ法律を破って夜中に女の尻を追いかける変人は父親ぐらいだという理由から立てられた作戦だと聞いた時には耳を疑った。
蓋を開けてみればそのような変態は他にもいたらしく、
そうやって釣られてきた人間を追い返すために用意した薬のせいで、
さらに人を呼び寄せてしまったらしい。
父親は薬師で、薬師というからにはある程度教育を受けていたのかもしれないが、
その辺りの草を煎じて薬として出しても薬師は薬師であるためどちらとも取れない。
「くっらーい井戸で誘われても、
全然グッとこないけどネ」
「まあな」
「しかもなんか変なクイズ出すんでショ」
「ああ」
なぞなぞの答えを夕鈴に告げると、
少しがっかりした様子だった。
なにしろ夕鈴は答えが分からず結局弟に聞いたらしいのだ。
「んなまどろっこしいことされると萎えちゃうよネー」
「…」
相手が夕鈴だったらそんなことはない、
と口が滑りそうになって慌てて黙った。
飲み過ぎた。





鼻歌を歌いながら作業している桃香のもとへ、紅珠が入ってきた。
目の前に見たことがない植物がおいてある。
花は美しいとはいえないが、可愛らしい部類には入るだろうか。
「これ、なんですの?」
「触っちゃだめですお嬢様!」
紅珠は驚いて後ろに転んでしまった。
「そんなに大きな声を出さなくてもいいじゃないの」
「すみません。でも触ったら目が開かなくなりますよ」
「え?!」
桃香の作業台の上に置かれていたのは、
莨菪子であった。
葉が茎を抱くようについており、
うっすらと全体に毛が生えている植物だ。
どうして史晴がこんなものを持ってきたのかは知らない。
少しからかってやりたい人間でもいるのだろうか。
でも莨菪子は個体によって作用にばらつきがあるから使いにくい。
目的がはっきりしてるなら、
自分なら他の材料を使う。
「薬の材料なの?」
「ええ、まあ。煎じたり、煙を吸って使いますね。鎮痛剤です」
たくさん摂れば、夢を見させてくれて、浮いてるみたいに気持ちよくしてくれるお薬ですよ、と心の中で付け加える。
「紅珠お嬢様には必要ないものですから」
「そう」
「必要な薬は飲んで欲しいですけどね」
嫌よ、と悪びれる様子もなく紅珠は一言お断りの言葉を置いて、
すぐに飽きてしまったのか出て行った。
少量ならちょっとした媚薬のように使えるだろう。
調子にのったら大量摂取させて、胃の中身を全部吐き出させ、高熱で寝こませることも可能である。
紅珠にひどいことをする男がいたら、
いつか使うかもしれないから、
とりあえず精製して取っておくことにした。
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