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57話を陛下視点で書けるか挑戦する
登場人物 陛下、夕鈴
カップリング 陛下x夕鈴

・タイトルのとおり、57話で陛下がいったい何を考えているのか、想像しながら書きました。捏造です。
当然ながら57話のネタバレですのでご注意。
「よろしくお願いしますね」
と、いつもと変わらずにこっと笑う彼女が癇に障った。
いや、癇に障ったというか、
なんとなく、
それに対して自分も同じ笑顔で返そうという気持ちになれなかった。
だからといって
泣きわめいて欲しいわけではなくて、
というかそんなところ想像もできない。
夕鈴はよく泣くけれど、
そういうことでは泣かない。
夕鈴が泣くときは、
なんで泣いているのか分からないときだ。
もしかしたら泣くかな、と思うときには笑ってる。
もしくは、怒っている。
しかし今回は怒りもしない。
彼女は理由を聞くこともなく、
ただ事実を確認し、笑った。
それがなぜか、
とても納得いかなくて。
どうしてかは自分でも分からない。



これまで通り人前では夕鈴は練習した通りの演技をして、
ふたりきりになればいつも通りお茶を出して、
話相手をしてくれる。
まるで今までとこれからが何も変わらないかのように。

僕は夕鈴がいなくなった後のことを時々考えたり、
夢に見たりする。
王宮はなにも変わらない。
もちろん、夕鈴は政治に関わっていたわけではないから当たり前だ。
僕がいなくなったって変わらずに機能するだろうし。
そうではなくて、
僕が靄の中にいる時間が長くなる。
王宮にいると、
時々全部の感覚がとても研ぎ澄まされているような、
鈍くなっているような不思議な感覚になる。
周りで何が起きているかはなんとなく分かる。
なんとなくどころか遠くのどこかに立っている人間の、
頭の中まで見えるときもある。
体の体感はあまりないような、
それでも聴覚だけ異常に鋭くなるときがあったりする。
なにかをきっかけにしてふと現実に戻るのだけど、
そのとき僕は自分がいなくなったようで、
愉快な気分ではない。
夕鈴と出会ってから、
そういう時間は少し減っていたのだけれど、
いなくなったらまた同じになるのだろうな、と。
夕鈴の知ったことではないね。

夕鈴は後宮での仕事を終えたら、
どこへ行くんだろうか。
下町には帰るだろうけど、
きっとその日から仕事を探したり、
知人とあったり、忙しいんだろう。
なにを見て、なにを感じて、
どんなふうに笑っているんだろう。
僕には全く想像できない。
今僕に話をするように、
他の誰かにその日の報告をするんだろう。
夕鈴の他愛もない話を、今度はだれが聞くんだろう。
そのときに、僕の話は出ないだろう。
夕鈴の話に出てくるものは、
とても小さくて、とてもありふれているのに、
たくさんあって、いつも違う。
夕鈴の口から出てくるだけで、
世界でひとつの特別なものに聞こえてくる。
夕鈴はいろんなことに気が付くから、
話題は事欠かないのだろう。
そうなったら、もう二度と顔をあわせない人間のことなど、
思い出す時間もないのではないだろうか。

夕鈴には、王宮の中にもたくさん知り合いがいる。
いつ顔を合わせる機会があったのか分からないくらいたくさんの人の、
名前と顔を覚えている。
彼らの家族や、好きなことや、苦手なものを聞いてきて教えてくれる。
その大勢の中の1人に僕がいる。
夕鈴が王宮にいる時間なんてそれほど長くはないのに、
時間なんて関係ないみたいだ。
このたくさんあるものと、人の中から、
夕鈴の思い出の中に少しでも残れるようにと願ってしまうのは、
わがままだろうか。
でも夕鈴は、なにを食べても、
なにをしていても、だれと話していても、
笑っている。
だから僕には、
どうしたら特別いい思い出になれるか分からない。
「寒いねっ」
抱きしめても手を握っても、
次の日には夕鈴の体温も熱も覚えていられない。
もう一度会えばこれがそうだと分かるけど、
二度と会えない場合はどうしたらいいんだろう。



夕鈴に一番良いように、
と考えたら正解はこれしかない。
もともと僕が無理やり引き止めていたようなもので、
下町からも引き離して、
本当はもっと早くに戻してあげたほうがよかっただろうか。
僕がそうしたかったらそうできたけど、
そうしなくていいと思わせたのは夕鈴だから、
お互い様だと思っている。
嫌ならもっとしっかり拒絶しないと、
その優しさに漬け込まれるんだよって最後に教えてあげたほうがいいだろうか。
きっと聞かないだろうけど。
夕鈴はもっと上手に生きればいいのに、
自分から苦労を背負い込むようなことばかりする。
まっすぐに、誠実に、それにどれだけ価値があるだろうか。
そういうところが、僕にとっては眩しくて、
目が離せない理由だったかもしれないけれど。
だから別に、
夕鈴が借金を全部自分で返すって聞いたことだって、
そんなに驚いたわけではなくて、
ただ少し、悲しかっただけ。

なんでと聞いた僕への返事はとても淡々としていた。
「己の責任を果たすのは普通のことです」
と、まるで最初から用意していたみたいに。
夕鈴の頭の中にはいつもこの答えが用意されている。
自分の責任とか、
仕事とか、
しっかりやらなきゃと、
とても立派な言葉だ。
とても責任感の強い夕鈴は、
怖い狼陛下にも優しいし、
どんな目にあっても僕の味方だと言ってくれる。
妃は陛下の味方なのだと。
この用意された役の中で、
夕鈴は精一杯僕の味方をしてくれる。
とても仕事熱心な君は、
僕ができると思った唯一のことも、
自分の責任だからと拒絶する。

夕鈴が、
僕からなにかを受け取ってくれることはない。
身に付けるものはもったいないといって用意もさせてくれないし、
なにかを手伝うのもダメだという。
辛いとも悲しいとも言ってくれずに、
夕鈴が僕にいうのは「大丈夫」だけだ。
だとしたら、
僕は夕鈴に何をしてあげられるんだろう。
なにもいらないと言われてしまったら、
なにも残せない。
最初から、
僕が夕鈴の人生にいるのを否定するみたいに、
夕鈴はなにも必要ないのだ、と。
長くなくてもこれだけの時間そばにいて、
夕鈴の中に僕はなにも残せないのだろうか。
だれより幸せになってほしいのに、
少しの手伝いもさせてくれないなんて、
ひどいと思うよ。

あまり気の進む案ではなかったけれど、
他にもうなにも思いつかなくて、
僕は最後のひとつを口にした。
それはもう、
口にした瞬間間違いだったとすぐ分かった。
夕鈴はとてつもなく、
怒っていて、
顔を見るだけで分かった。
涙を浮かべてまくし立てる夕鈴に、
冷たいほうがマシだと言われて、
その時僕の中でなにかが音を立てた気がした。
これだけ考えて、考えて、
大事にしたくて、優しくしたいと思っていたのに、
最後はそれさえ するな、と。

だったらいいよ。
しないから。

「君に優しくしなくていいなら
私もどれほど楽だろうな?」

君が、いいと言ったというのは言い訳になるだろうか。
どうせ失うなら同じだと思ってしまえば、
先ほどまで感じていた痛みがなくなった気がした。
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