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タイトル未定4
登場人物 陛下、夕鈴、経倬、青慎、李順
カップリング 陛下x夕鈴(経倬x夕鈴描写あり)

・4です。

「…あ!」
久しぶりに下町をふらふらと歩いていると、
後ろから声をかけられた。
「…?」
黎翔が振り向くと、
穏やかな顔立ちの青年が立っていた。
「青慎?」
「陛下」
背が伸びているがそれだけではない。
随分落ち着いた雰囲気になって、
声も低くまるで別人だ。
人懐っこい照れ笑いがなければ分からなかっただろう。
ああそうか。
これは夢か。
青慎の話を聞いていると、
夢の中では彼はきちんと登用試験に合格し、
今は地方の州牧補佐として働いているようだった。
実際に受かってもそうするだろうと思っていた役職だったので、
特に違和感はない。
青慎は優秀だが身分は低く、
中央にいると邪魔が入りすぎると思っていた。
せっかくなら少し中央で様子を見て、
すぐに信頼できる者のところへ勉強のために置いてくるのがいいかと考えていた。
そこで自信を付けたら使えるようになるだろう、と。
なんだ今日の夢は今後のためにも悪くない。
しっかり覚えておこう。
「下町では李翔だぞ、青慎」
「そうでしたね」
「少し話せるか」
「あ、はい」
「食堂だと人目が気になるか。
君の家は?」
青慎は黙って黎翔の目を見た。
そして少し気まずそうに視線を動かす。
「ええと、今日は実は、
義兄がきておりまして…その…」
「義兄?」
「はい」
せっかくいい夢だと思ったのに、
期待は裏切られた。
今度は誰だ。
下町だからあの几家の男だろうか。
それならわざわざ見に行きたいとは思わない。
「そうか。じゃあ仕方がない」
「青慎!」
せっかく夢だと気が付いて、
避けられるものなら避けてしまおうと黎翔は方向を変えた。
しかしもう遅かったようだ。
「あ、経倬義兄さん」
黎翔は後ろを向いていたのだが、
青慎が呼んだ人物があまりに意外すぎて振り向いてしまった。
聞き間違えたか?
「…!!」
聞き間違えなどではなく、
それは間違いなく柳経倬であった。
隣には夕鈴もいる。
「陛下?」
経倬は黎翔を見つけたとたんサッと顔色を変えた。
なぜこんな小物に夕鈴を取られなければならないのか。
夢なら殺してもいいか、と一瞬考えてしまうが、
夕鈴の腹が大きくなっているのを見て手を止めた。
本当に悪夢だ。
悪夢以外のなんでもない。
「お久しゅうございます、陛下」
経倬が深く頭を下げて礼をする。
少し白髪の混じった頭に、
服装は黎翔が覚えているときより質素になっている。
「拝謁賜りまして至極光栄でございます。
まさかこのような場ではと驚きました」
落ち着いた様子で答える経倬は、
黎翔の覚えている人物とは別の人間だった。
顔をあげて、微笑む顔は穏やかだ。
彼も一度地方に送ったのだった。
最近戻ってきたばかりだ。
黎翔の頭の中に夢の中の設定があふれる。
青慎を部下にした経倬が、
少しずつ結果を上げるようになっていった。
夕鈴と経倬が今の形の関係になったのも、
青慎がいたからだ。
使えるなら少し柳の家から離そうと思い、
新婚だった夕鈴と経倬を引き離して地方に飛ばしたのだ。
そのとき夕鈴は妊娠したばかりだった。
夕鈴は1人で出産して子どもを育てて、
今お腹にいるのは2人目だ。
「夕鈴、体調はどうだ」
「おかげさまでばっちりです」
「何がばっちりだ。
いくら体調がいいからって、
重いものは運ぶなと言ったろう」
「平気よ。
下町じゃ辺り前なんだから。
お義父さんも貴方も神経質なのよ」
もう、と文句を言う夕鈴の横顔は幸せそうだった。
「夕鈴、あまり夫を心配させるな。
経倬、これからは傍にいてやれ。
中央での働きを期待している」
「ありがとうございます」







「ありえない…」
仕事の途中で眠ってしまったようだった。
机の上には書簡や資料の本、墨や筆やなにやらが散らばっている。
どう考えてもありえない。
黎翔は夢の中の夕鈴を思い出していた。
1人っきりで子どもを育てていたからか、
肌や髪は少し荒れていたが、
その瞳は強く光っていた。
柳家の連中は援助してやらなかったのだろうか。
夕鈴の身分が低いから勘当されていたのか、
それか夕鈴が断ったからか。
多分後者だ。
夕鈴は柳大臣のことを神経質なお義父さんと呼んでいた。
絶対にないのに、
ありそうだと思わせてしまうところが夢の恐ろしいところだ。
何が『中央での働きを期待している』だ。
夢の自分を殴りたくなる。
夢だとわかっても、
夢の中にいる自分は本当の自分とは別の人間だ。
別の考えと、経験と、感情を持っている。
いつか夕鈴が経倬の隣にいるのを見て、
なんとも思わずに仕事のことを考えているような日が来るのか。
「…陛下?」
「ん?」
声の聞こえたほうを見る。
夕鈴だった。
「どうしたの」
「…?
陛下に呼ばれているとお聞きしたのですが」
「…あ!」
黎翔は別の机に置かれた菓子のことを思い出した。
「ごめん、忘れてた。
おいしいお菓子をもらったから、
一緒に食べようと思ってたんだ。
見て、かわいいよ」
動物の形をした砂糖菓子だ。
夕鈴が好きそうだと思ったからもらってきた。
「わ、すごいですね!
おいしそう!
お茶いれてきますね」
「ありがとう」
夕鈴は嬉々とした様子でお茶を用意する。
掃除や料理や、
こうして何か家事をしているときの夕鈴は生き生きとしている。
一番見ていて飽きないのも、
こんなふうにきびきびと動く姿だ。
「……」
「陛下?」
「ん?あ、ありがとう」
「甘いですね」
「そうだね。
夕鈴が淹れてくれたお茶もおいしい」
「よかったです。
このお茶、柳家の経倬殿が贈ってくれたんですよ」
ここでお茶を吹かなかったのを褒めてほしかった。
「げほっ…柳経倬?なんで?」
「陛下?大丈夫ですか!」
「う、うん。
なんで柳経倬が…」
夕鈴は思い出すように茶器を手でいじりながら答えた。
「あー…最初は柳方淵殿と話してたんですね。
まあ話してたというよりは、
私がくしゃみをしたことにたいして文句言ってきたんです。
それで経倬殿がいらっしゃって、
最近寒いですねって、
陛下が風邪を引かないか心配ですねって話をしたんです。
そしたら柳家の贔屓にしてるお茶屋さんの生姜入りのお茶がいいって教えてくれて、
今度のお茶は生姜入りにしてみようかなって言ったら、
方淵殿が陛下に飲ませるなら最高級じゃないと許さないって言うんですけど、
経倬殿が自分の名前で贈るからお前はしゃしゃりでるなとかなんとか…ふふ、おかしいですよね」
「柳経倬とはよく話すの?」
「…?
いえ、あんまり接点のある方じゃないので…
政務室にも来ないですよね」
「そう」

接点がなかったら今、話に名前を出すか?
この私がいる前で?

油断も隙もない。
一瞬でも目を離したらあの夢が現実になる可能性がある。
夕鈴は不思議そうな顔をしている。
何がきっかけになるか分からない。
だれかと何かが起こる前に、
せめて夕鈴の気持ちが自分に向いていると思えたら。
いや、それはそれでこまる。
夕鈴が他の男を好きなのは気に入らないが、
自分のことを好きでも困る。
答えてあげられないし、
幸せにできない。
そもそも黎翔は、
自分で夕鈴をどう思っているかよく分からない。
この先どうなりたいかが想像できない。
未来なんてなくていい。
今みたいに、
明日も、明後日も、隣に座って、お茶を飲んで、
どうでもいい話をして癒されて、
それのなにが悪い。
何も悪くないのに、
わざわざ混乱させるような毎晩の夢が恨めしい。






次の日、
夕鈴は許祐と手をつないでいた。
地方の偵察に出てきた黎翔が、
ふと視線を人ごみに向けたときに見つけたのだ。
クビになった許祐は地方の親戚のところで世話になっているようで、
暮らしは豊かそうではなかった。
でも夕鈴は笑っていた。

その次の夢では、
夕鈴は氾家の第二夫人だかなんだかになっており、
20歳以上も年の離れた夫の隣で黙って座っていた。
時折大臣が夕鈴の耳元でなにかを伝えて、
2人でこそこそと笑いあう姿にそれはそれは腹が立った。

あるときはもう顔も名前もはっきり覚えていない異国の商人とともにいて、
これから彼の故郷に行くのだと手紙をくれた。
下町の飲食店の常連さんと結婚するのだと言われた。
父親が縁談を持ってきたそうだ。
瑠霞姫の夫の部下が相手のときもあった。
蒼玉国に一緒に行って、毎日瑠霞姫と語り合っていると。

「私にどうしろというのだ!」
蒼玉国の衣装に身をつつんだ夕鈴が、
紅珠に案を出して小説を書いてもらったので感想を聞かせてほしいと言ってきた。
今の夫との馴れ初めからを詳細に記述した恋愛小説らしく、
流石にキレた。
夕鈴は絶対そんなことはしない。
そんなことがあってたまるか。
何も考えたくないから夢中で仕事をして、
とにかく全部持ってこいと李順に伝えてからは仕事以外なにもしていない。
疲れすぎると夢は見ない。
まだ頭の働く隙間が残っているからあんな下らない夢を見る。
4日ほど連続で徹夜して、
次の日も朝から机に座ろうとすると李順に止められた。
精度が落ちるから休めだのなんだの。
知るか。
とにかくもう仕事をもらえなくなってしまったが、
眠りたくはない。
寝たらいいことなんてない。
無意識に歩いてたどり着いたのか後宮だった。
「陛下!いかがされましたか」
「夕鈴」
どさ、と夕鈴に覆いかぶさるように抱きついた。
温かい。
正直眠い。
夕鈴の顔を見たら安心して気がゆるんだ。
眠りたい。
でも寝たら、夕鈴は他の男と結婚している…






「陛下、そろそろ起きてください」
黎翔はぼんやりと目を開けた。
「ゆ、うりん?」
「はい。
おはようございます。
あの、ちょっとお話がありまして…」
また夢か。
直接結婚の報告をしてくれるなんてやってくれるじゃないか。
そうなると相手はある程度の身分か?
そういえばまだ李順との話が出ていない。
あの眼鏡、許さない。
さんざん臨時だから手を出すなとか言っていたくせに、
自分は例外か。
もう我慢ならない。
黎翔は目の前にいるのが夕鈴だとしっかり確認すると、
素早く上体を起こした。
そして両手で夕鈴の肩をつかんだ。
夕鈴は飛び上がってしまい、
その拍子で持ってきた茶器をお盆から落としてしまった。
「きゃー!ちょ、陛下、危ないじゃないですか!」
「君の話は聞きたくない」
「え?
いや、話とかじゃなくて早く片付け…」
「だれにも渡さない」
「…!」
黎翔は肩に置いていた手を離し、
その手で夕鈴の両頬を包んだ。
見つめると、
夕鈴の丸い目の中に自分が映っているのが分かる。
――そうだ。君は、私だけ見ていれば良い。
ぐっと引き寄せる。
他のことなど何も考えられないようにしてしまいたい。
どうなってもいい。
全部後で考えればいいんだ。
「夕鈴」
「陛下…?」
ほとんど唇が触れそうなほど近づいて、
そこで突然黎翔は膝に痛みを感じて止まった。
なにかが刺さるような鋭い痛みだ。
下を見ると、寝台に赤い染みが広がっていた。
「きゃー!!陛下、大変!
すぐ消毒しないと!」
黎翔はぼんやりとじぶんの膝あたりを見ていた。
これは自分の血だ。
なぜ分かるかというと膝が痛い。
辺りに散らばっているのは茶器のかけらだった。
そういえば最初に夕鈴が茶器を落としたのだ。
そして痛い。
「夕鈴」
「大丈夫ですか陛下!
待っててください、今とりあえず水持って来るんで!」
蒼白な顔で慌てて出て行こうとする夕鈴の腕をつかんだ。
「いいよ」
「よくないですよ」
夕鈴は黎翔の意図を理解しかね、不満そうだ。
「ねえ夕鈴、
君はだれの奥さん?」
いよいよ訳が分からず、夕鈴は落ち着かない様子で答えた。
早く消毒しないと、傷口から化膿するかもしれないのに、
なにをこの人はのんびりしているのだろう。
「…?
陛下ですよ?臨時ですけど。
だからこそ心配して急いで手当てしようとしているんじゃないですか。
変なこと聞いてないでおとなしく待っててください!」
「そっか」
黎翔は満足したようにうなずいて、
夕鈴の手を離した。
夕鈴は結局何がなんだか分からないが、
今はそれを追及している場合ではない。
出血はまだ止まっていないのだ。意外と深いのかもしれない。
「李順さんと老師呼んできますから、動かないでくださいね!」
なんだこれは夢じゃない。
夢じゃないなら、
茶器に感謝しなくては。
「危なかった」
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うりうりさんへ
こんばんは~
私も出勤前SNS見てたら逆方向の電車に乗って遅刻したことあります~
うりうりさんはそこまではいかなかったですが危ないですね。

もともと許祐のところみたいに、
立て続けにいろんな嫌な夢を見て、
陛下がキーッってなる話だったんですが、
以外とキーッてならなくて…ちょっと内向的な陛下になってしまいました。
陛下はいつも病んでると思います←

陛下は王宮に好きでいるわけじゃないと思うので、
王宮にいる人はみんな不幸とか思ってるかもしれませんね。
あと自分の母親のこととかもあるので、
『王様』の傍にいる人は不幸で、
自分はその王様っていう生き方しかできなくて、
そうすると夕鈴と一緒に幸せになるっていう考えが生まれないのかなーってまあ適当なこといってますがそのうち原作で陛下の考えも明らかになりますよね?
それまで好き勝手なこと考えますよ!
らっこさんへ
らっこさんこんばんは!!
陛下ぐるぐるしてますね。
多分いつも同じことでぐるぐる悩んでるんで答えが出なくて一生ぐるぐるしてるんじゃないですかね!
最終的に『もーいいよ考えるのめんどくさいっ!こうしてこうしてやる!』
という感じで勢いで決めて周りの人巻き込まれる感じですかね。
悩んでも最後は気分で決めそうな人ですよね。
甘い夫李順さんは婚約者シリーズで書き飽きたので、
もっと現実的にありそうな話にしました!
もんちゃりさんへ
タイトル案ありがとうございます。
いつもタイトルから考えたり、
書いているうちにパッと思いついたりするのですが、
今回はピーンとくるものがなくてもやもやしております。
すみません李順さん出しちゃいましたYO!
もともとプロットくんであったので許して下さい。
まさかあの陛下の夢たちを願望と捕らえる方がいらっしゃるとは思わなくてびっくりします。

返信なんでいいですから!
お仕事がんばってください~^^
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