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陛下x夕鈴でタイトル未定1
登場人物 おもに陛下
カップリング おもに陛下x夕鈴(水月x夕鈴、方淵x夕鈴、李順x夕鈴、浩大x夕鈴、几鍔x夕鈴、克右x夕鈴、経倬x夕鈴も出る予定)

・陛下x夕鈴メインの話です。
もうほとんどの官吏が帰宅をしているが、
中には数名熱心にもまだ働いているものもいる。
その中にとても珍しい1人を見つけて、
黎翔は声をかけた。
「氾水月。
今日はどうした」
「陛下」
水月は帰宅の準備をしていた手をとめて礼をする。
黎翔は水月の手にしていた書簡が急を要するものではないと見て首をかしげた。
なぜ、こんなに遅くまで残っているのか。
今日の仕事ぶりからすると、必要な仕事は全て済んでいるはずだ。
明日以降の準備か、もしくは何か不備があって調整でもあったのだろうか。
最後の最後まで彼が残っているとはとても珍しいことだった。
「いつも誰より早く帰宅するだろう」
やることをやっている補佐官に対する言葉だ。
責めているわけではない。
水月もそれを分かっているのか、
青ざめることはなくやや苦笑い気味に答えた。
「あまり早く帰ると、妻が怖いものですから」
暗くなってから帰れと言うんです、と付け加える。
廊下に出れば外は日が落ちて、もう月も見える。
「妻?
伴侶をとっていたのか」
興味があるわけではないが、
氾家の長男が結婚したとなればさすがに黎翔の耳には届くだろう。
知らないということは、黎翔が即位する前からなのだろうか。
ずいぶん幼くして夫になったのだなあ、
それにしても今まで一度も話に聞いたことはない、
と記憶をさかのぼってみて思う。
水月はきょとんとした顔で黎翔を見ている。
言葉を探しているようだった。
「陛下、あまりいじめるものではありませんよ」
横から李順が出てきた。
「む?そんなつもりはないぞ」
「あなたから下賜された娘のことなんて、
話にくいに決まっているでしょう」
「下賜だと?」
黎翔には、たった1人しか妃はいない。
与えられる娘といったらその1人しかいないが、
まさか黎翔はそんなことはしない。
「李順、これはいったいどういう…」
「水月さん!」
「夕鈴」
声のしたほうを見ると、
それは間違いなく夕鈴だった。
しかしいつもの妃としての格好ではない。
いっそそれより派手といっていいような服装だ。
一見抑え目に見えるのは夕鈴の好みで無理やり豪華さを抑えただけで、
近寄ると施された刺繍の細かさに驚く。
生地も王宮で見るものと同等か、それ以上の価値があるようなものだった。
「こんなところまできてどうしたの。
まさか私の迎えで来てはくれないものね」
「当たり前じゃないですか。
老師に後宮の備品のことで呼び出されてたんですよ」
夕鈴はごく自然に水月のもとに近寄る。
言葉は怒っているがその表情は柔らかく、愛情に満ちている。
「陛下、お久しぶりでございます」
黎翔に向かって微笑む姿はまさに貴婦人だ。
夕鈴は黎翔の体調を慮る言葉と、
少しばかり自分の近況を述べた。
「…」
いったいなんの冗談だ、と黎翔は李順を見るが、
側近は無表情だ。
「では、私達は失礼致します」
水月の横に夕鈴が並ぶ。
夕鈴が隣の水月に笑いかける姿は、
後ろから見ていても長く連れ添った夫婦そのものだった。
「よかったですね。
彼は、夕鈴殿みたいなしっかりした奥方に
手綱を握ってもらうのがいいんですよ。
おかげで無断欠勤も早退もなくなりましたし」
「李順、これは何かの冗談なのか」
「なにがですか?
ぼんやりしていないで、陛下も部屋に戻ってください。
貴方はまだやることが残っているんですから」







寝起きは最悪だった。
鈍く痛む頭をかかえて黎翔はゆっくりと起き上がる。
細かい会話は覚えておらず、
少し頭が冴えてくればあれは夢だったのだと分かる。
それにしたって不愉快だ。
不愉快にもほどがある。
だれが夕鈴を下賜などするものか。絶対に許さん。
黎翔は寝台を叩くようにして立ち上がって、
さっと一枚長着を羽織ると部屋を出た。
「李順!李順!」
「なんです、陛下」
声だけでも不機嫌だと分かるため、李順は渋い顔で出てきた。
原因が思いつかないので、
多分あの臨時妃の娘のことだろうと推測する。
「氾水月は既婚者か?」
「は?」
朝一番の質問としてはあまりに不可解で、
李順はすぐには答えられなかった。
ようやく質問が頭まで到達して、それから口を開いた。
「いえ、彼にはまだ婚約者もいなかったと思いますが」
「ならばよい」
「いったいどうされたんですか」
「夕鈴は?」
李順の質問は無視された。
「夕鈴殿でしたら今日は掃除をすると聞いております」
「分かった。
中央殿には後で行くから調整しておけ」
「陛下、今日は朝から大切な会議が…」
無駄だろうとは分かっているが、言わずにはいられない。
いったい何があったのかと考えるが分かるものか。
李順は短くため息をつくと、
今後の予定を頭の中で素早く入れ替えた。
なんとか押さずに進められそうだ。自分がいつもの3倍くらい速く働けば。






黎翔は夕鈴がいつも通りなのを確認して、
仕事に戻った。
まずは宰相と打ち合わせをし、朝ではなく昼に移動した会議をこなし、
政務室でそのほか雑多なものを片付ける。
その間目の端に氾水月がうつる度に落ち着かず、
ついつい睨んでしまっては李順が咳払いをするのだった。
しかしなぜ氾水月なんだ。
黎翔は手を動かしながらも考えた。
宴の件では少し接点があったかもしれないが、
それ以外で水月と夕鈴が近づくような機会はあまりない。
顔を合わせるとすれば、
この政務室か、もしくは妹の氾紅珠絡みだろうか。
その可能性はある。
可能性はつぶさなくては…と物騒なことを考え始めるとそれが表情に出ているのか、
李順が咳払いをした。
黎翔はまた水月を見る。
端麗な顔立ちと姿勢の良い立ち姿は女人が憧れるものなのだろうか。
夕鈴は楽器が弾けないから、
演奏を聴いたらそれに感動してそこからなのかもしれない。
そんなことで惚れてくれるなら、
黎翔だって楽器くらい弾いてやる。
なんだって一通りできる。
外見だったら男前さで言えば自分だって負けていないはずだ。多分。
国王という身分がなくても、
例えば下町でだって、歩いていればある程度騒がれるものは持っている。
そんな外見的魅力や、身分などに惹かれるならば、
夕鈴はとっくに自分に惚れていておかしくないはずだ。
黎翔は今度は部屋のすみに座っている夕鈴に視線を移した。
その瞬間夕鈴も黎翔を見ていたようで、
2人は見つめあうようになってしまった。
夕鈴の顔がとたんに赤くなり、夕鈴は下を向く。
そうだ。
夕鈴が結婚なんてするわけない。
男と目を合わせただけで赤面する彼女が、
黎翔の知らないところでだれかと愛を育んで、
結婚するなんてあるわけない。
一通り考えて安心するが、
やはりどこかで気にはなる。
なぜ自分ではなくて、氾水月なんだ。

しかし理由なんてなかった。
それは次の日分かったことだ。
なにしろ今度の夢では、夕鈴の夫は水月ではなく柳方淵だった。





少し遠慮がちな顔の方淵は、
彼にしては珍しく緊張している様子だった。
花婿の真っ赤な衣装はあまり似合っているとは言えない。
いつもキリッと引き締まった色を選ぶ方淵が、
その存在を嫌というほど主張する派手な花婿衣装を身にまとっているのは滑稽なくらいだ。
しかし黎翔にしてみればそんなことはどうでもよく、
問題はその隣に座っている花嫁衣裳の女性が夕鈴だということだ。
式が終わった後の酒宴の席だ。
集まっているのはごく少人数だった。
柳大臣が黎翔の隣に座っており、
黎翔が出席していることに驚きと感謝の気持ちを述べている。
その間も黎翔は夕鈴に釘付けだった。
艶やかな赤は彼女によく似合う。
金糸の刺繍が光を反射して輝き、
夕鈴の肌も光ってみる。
むすっとした顔で隣に座る方淵を肘でつついて無理やり口を開かせていた。
「方淵、主催者なんだから不機嫌な顔でいるんじゃないの。
本当に無愛想なんだから」
「だれが愚図の真似などするか。
必要もないのにヘラヘラ笑うなど不愉快だ」
「だからせっかく来て下さってる人に対して、
感謝の言葉の一つも言えないのかって言ってるのよ。
なんなの、さっきからつまんなそうな顔で座っちゃって、みんなに失礼でしょ」
方淵は一瞬押し黙ったが、
夕鈴の目をじっと見て答えた。
「それはお前の役割だろう。
それにつまらないなど誰も言っていない。
嬉しいに決まっているだろう。やっと正式に婚姻の儀ができたのだから」
「な…っ」
夕鈴の顔が、花嫁衣装に負けないくらいに真っ赤になった。
とたんに黎翔は手に持っていた器を割ってしまった。
憤りすぎて、手が震えている。
立ち上がって叫んだ。
「私は絶対認めんぞ!」





ビクッ、と顔を伏せていた官吏は震えた。
「陛下、そんなに大きな声を出さなくても聞こえます」
黎翔の頭の中では、
夢の中の酒宴の席と政務室の風景が交じり合っていた。
何度か瞬きすると現実に戻ってくる。
「申し訳ございません!練り直してきます!」
急ぎ足で官吏が去っていく。
「なんだあれは」
「貴方が彼の話を中断してまで、
『絶対認めない』とおっしゃったのでしょう」
「……」
黎翔は手元にある資料に目を通した。
どちらにしろ全く話にならない内容だったのでそこはよしとしよう。
辺りを見ると、柳方淵がちょうど部屋に入ってきた。
椅子にかけている夕鈴を見ると、
お互いが一睨みし合う。
それが黎翔には愛し合うものの何かの合図に見えてしまう。
「陛下!
西区の道路の増設についてですが…」
「柳方淵」
「はっ」
さっきのは何だ、と聞きそうになって、
黎翔は頭を振った。
夢と混同してはならない。
この男は仕事の報告をしに来ている。
現実世界にこの柳方淵と夕鈴の間にはなにもない。
「いや、報告を聞かせてもらう」




「あのー、陛下?」
黎翔は隣に座る夕鈴をじっと見ていて、
その夕鈴に話しかけられていることには気付かなかった。
なぜ柳方淵なんだ。
いつも言い合いばかりしていて、
仲がよさそうなところなんて見たことない。
いや、むしろ喧嘩ができるくらいのほうがいいのか。
自分と夕鈴は喧嘩ができないから距離が遠いままなのだろうか。
なんでも言いたいことを言い合って、
本音で話して、
裏表もなく、隠し事もなく、接していたらよかったのだろうか。
そんなことできるわけがない。
黎翔には、
夕鈴から隠しておきたいことが数え切れないくらいある。
嫌われたくない。
でも、近づきたくもない。
今以上に近づいて、
全部をさらけ出すのはいやだ。
今の距離が一番いいのだ。
だから夕鈴の気持ちだって確かめたくはない。
その先の答えを出すのはとても難しいから、
未来のことなんて考えたくはない。
「陛下?」
「…!あ、ごめん。
なに?」
「なんか陛下、最近ぼーっとしてませんか」
「そうかな」
「はい。
政務室にいるときも変なところ見てるし…。
具合悪いんですか」
「そんなことないよ」
悪いといえば悪い。
連続で不愉快な夢を見て、
しかもその夢が起きた瞬間に消えてくれない。
まるで現実のように、
記憶のように残っている。
きちんとその未来が用意されているかのようだ。
黎翔が選択肢を誤れば、
待っているのはそういう未来なのか。
「夕鈴」
黎翔は夕鈴の手をとった。
「君を、失うのが怖い」
「…?
どうしたんですか。
私はどこにも行きませんよ。陛下の味方ですから」
夕鈴も黎翔の手を握り返す。
小さい手だが暖かかった。

そうだ。失うのが怖い。

失うのが怖くて、
しかし手に入れるのも怖い。

「ありがとう、夕鈴」
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