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一歩
登場人物 経倬、青慎、黎翔
カップリング なし

・捏造
・青慎が官吏になって、経倬のしたで働く話


つづきからどうぞ
「青慎、お前を今度の責任者に決めたぞ!」
「え?!」
青慎は今進んでいる案件の概要、
人員と、予算と、かかる年数と、他部署への影響を考えて、
青ざめた。
荷が重過ぎる。
「ちょっと待ってください」
「待ったも何もない!私が決めたと言ったら決めたのだ」
この人は本当にむちゃくちゃなことを言う。
庶民出身でまだ経験も浅い青慎が、
突然責任者に抜擢されたら誰が何を言うか分からないし、
不用意に邪魔をしてくるかもしれない。
ここは波風を立てない人事にしておいて、
補佐として影から支えるほうがいい。
そう何度も上司の経倬には話をしているはずなのだが。
青慎が謹んで辞退させていただく旨を伝え、
理由をいくつか説明したが、
経倬は納得していない表情のままだ。
そうして真剣な顔で青慎を見た。
「お前はそうやって、
いつまでだれかの後ろでこそこそしているつもりだ」
「こそこそなんてしているつもりはありません!
ただ、僕…私は、一番物事が円滑に行くように考えているだけで…」
「そんなことはどうでもいい!
お前、もっと欲を出せ。
出世したいと言え。金が欲しいと言え。
お前はなにかしたくてここまで来たんだろう。
欲のないやつは埋もれて死ぬぞ」
じっと目を見つめられ、
青慎は動けなくなった。
確かに、青慎は目的があって王宮に入った。
それは今の地位のままでは、叶えることができない…
「ふ、そう怖がるな。
とにかく私が推薦しておいてやる!」
経倬は青慎の頭をぐしゃ、と撫でると、
大またで部屋を出て行った。
そうだ、彼に人事の最終決定件はないのだった。
今回の案件は他の部署とも連携が大切になってくるし、
青慎のようなひよっこに任されるわけがない。
はぁ、と青慎は小さくため息をついた。
心臓を押さえるとうるさいくらいに大きく鼓動を打っている。
あの人は全く心臓に悪い。
そして言っていることはいつだって支離滅裂だ。
自信満々だから、筋が通っているように聞こえるだけで。







「この資料を作ったのはお前か?」
青慎は厠の窓枠を拭いている手をいったん止めて振り返った。
「経倬様」
青慎の前で書簡を広げているのは、
上司の柳経倬だ。
彼のいる部署に配属されてから、
直接話しかけられたのは初めての気がする。
きっと名前も覚えていないのだろう。


登用試験に合格して、
しばらく見習いとして様々な部署を回っていた青慎だが、
貴族の子息達はもとより配属先がほぼ決まっていたようで、
庶民出の知り合いのいない青慎のような合格者は、
人数の足りない部署に詰め込まれたり、
青慎のように運よくだれかに誘われるか、
もしくは実践で使えないからと地方に飛ばされてしまうものもいた。
はじめに柳経倬の下で働くと決まったとき、
姉である夕鈴はとても複雑な顔をしていたが、
任されたことは責任を持ってやるのよ、
と言った顔はいつもの姉だった。
とても正義感の強い夕鈴に似て、
青慎も真っ当な人生を歩むことを良しとしている。
だから今日もこうして、
実際は多少理不尽だとしても、
任された厠掃除を誠心誠意尽くして行っている。


青慎は広げられた書簡に目を通して、
確かに自分が主に製作した資料であることを確認して頷いた。
「はい。左様でございます」
「お前名前は?」
「汀青慎と申します」
「汀青慎、お前に任せたい仕事がある。
今すぐ来い」
「え?でも掃除は…」
経倬は青慎から雑巾を奪うと、
さっさと投げ捨ててしまった。
「馬鹿もの!そんなことは誰にでもできる。
でもこれは、お前にしかできないんだぞ!」
そういって、腕をつかんで、
ずかずか大またで廊下を歩いていった。
そうして連れて行かれた先で待っていたのは、
いきなり20人ほど人を使って地方へ調査へ行けというものだから、
本当に驚いた。
流石に経験不足であると説得し、
補佐という形で落ち着いて現地に赴くことになったが、
さすがにあの人事はなかったであろう、と青慎は思い出すと今でもひやりとする。
自分なんかを責任者にしてなにかあったら、
いったいどうするつもりだったのだろうか。












例の案件の責任者は、
まだ正式に決定していないようだが、
どうやら最近権力を伸ばしてきた家の、
次男が担当するようだった。
やはり自分ではないか、と安心しつつも、
あの男よりは自分のほうが、と納得できない部分もあった。
それを口にすることはできない。
「なんだとー?!」
経倬の声はよく響く。
なにか気に入らないことがあったようだ。机を叩く音もした。
「なぜ青慎じゃないんだ!」
「それは、青慎がまだ経験も浅くしかも庶民の出なので…」
「そんな当たり前の理由は聞きたくない!
しかも私が推薦した人間を使わないとは、
なんたる侮辱!許さん!」
一通り怒鳴ると、
経倬は青慎を見つけて、勢いよく指差してきた。
「青慎!」
「は、はい!」
「見てろ、私がお前を責任者にしてやる」
「え?!あの、経倬様、それは難しいのでは…」
「なぜそう思う!」
「だって僕は身分が…」
「そんなことは関係ないっ!
お前のほうが優秀だ!」
経倬は椅子から立ち上がった。
「しかも、私が推しているのだから、
絶対にお前のほうが相応しい。
そうでないと許さん!」
経倬は引き止める部下の話を聞かずに、
廊下に飛び出してきた。
抗議してやる!と威勢の良い声が部屋まで響いた。
「ちょっと待ってください!」
これは追いかけなくては。
追いかけたところで自分が経倬をなだめられるか自信がないが、
青慎も後を追った。









急いで後を追ったのだが、
見失ってしまった。
誰に話をつけにいくかは大体検討が付くから探すのはそう難しくはないが、
問題は経倬が話をつける前に見つけなくてはいけない点だ。
なんとかやめさせなくては。
「青慎」
呼ばれて、青慎は振り返った。
ふに、と頬に何かが刺さる。
視界に入ったのは義理の兄だ。
「李翔さ…いえ、陛下!」
にこにこされると、つい覚えていた名のほうで呼んでしまう。
青慎と夕鈴が姉弟であることは王宮の誰にも伝えていないし、
今のところ噂話が燻っては消える程度だ。
しかも夕鈴も本物の妃ではないとなると、
青慎と黎翔の関係は偽の義理兄弟というところか、
なんとも微妙だった。
「いいよ、かしこまらなくて。誰もいない」
「…どうされたんですか」
下げていた頭を戻して、青慎は尋ねた。
黎翔から王宮内で青慎に接してくることはほとんどない。
下町に戻ったときには、普通に会話をしてくれるが、
そのときだって青慎は仕事の話をしないようにしている。
「いや、ずいぶんあの男に気に入られてるね」
「あの男…?経倬様のことですか」
「そうそう。
僕、そろそろ君のこと移動させようと思ってたんだけど、
随分信頼されてるみたいだから、
君のほうがどう思っているか聞いてからにしようと思ってね。
もっとおもしろいことしたくない?」
青慎は黎翔の瞳をじっと見た。
なにかを企んでいるようにも見えるし、
楽しんでいるようにも、威嚇しているようにも見える。
全く何を考えているかが分からない。
「今、の仕事はつまらなくないです」
「そう?」
「はい」
「…」
「ええと、あの、
あの人は、確かに時々言っていることが無茶苦茶ですが、
でも…僕は、」
うまく説明できずに、青慎は口ごもった。
国王になんと言ったらいいか分からなかった。
命令とあらば、どこにだって行く。
でももし意見を言えるなら、言わなくては。
もう少し、ここにいさせてほしいと言わなくてはいけない。
「んーと、
君が権力とか富に引き寄せられる人間ではないと知っているけど、
一応聞くね。
あの男に何か言われた?」
今度こそ何を考えているか分からない、
ガラス球のような瞳だ。
ずっと見ていると体が動かなくなる。
だんだん息が苦しくなってきて、ひとつひとつ単語を出すのもやっとだった。
「ゆ、優秀、だと」
乾いた声が出た。
「優秀?君が優秀なのは僕が知っているよ」
そんな言葉で引きとめられる人間ではないことだって知っている。
褒めてほしいだけなら、いくらでも他に居場所はある。
「陛下、経倬様は、僕が優秀だと言ってくれました。
僕は自分に自信がないところがありますし、
ここでは身分のことで引いてしまいます。
それを言ったら、経倬様は、
自分の名前を使って良いから、
思いっきりやれと言ってくれました。
家の名前が壁になることは、
なんとかしてやる、って。
僕は経倬様が影でなんて言われているか知っていますし、
なんとかしてやるって言ったって、
正直、きっとそこまで考えてないというか、
いざとなったらどうしたらいいか分からない人だとは思います。
でもそんなの、関係ないんです」
そうだ、関係ない。
青慎は深く息を吸った。
話していればもう大丈夫だった。
話しながら考えがまとまってくると、しだいに体の緊張もとれていった。
「経倬様は、背中を押してくれます。
なにかに引け目があって、
一歩前に出れない人は僕以外にもたくさんいるけれど、、
そういうときに、行ってこいって言ってくれるんです。
行ってこいって言って、
だからって最後経倬様が責任を取ってくれるなんて誰も思ってない。
でも、そういう一言が必要な人はたくさんいます。
それで、なんていうかうまく言えませんが、
そういうことをしてくれる人を、
ちゃんと支えてあげなくちゃって思うんです。
経倬様は僕にないものをたくさん持っていて、
学ぶことはたくさんあります。
頂いたものもたくさんあります。
まだ、何も返せていません。
だから、僕はまだ…」
青慎は喋りすぎたと思って、だんだんと声を小さくしていった。
いくらなんでも国王陛下に対して、
こうして気軽に意見を言ってはいけなかった。
「申し訳ございません。
私は、陛下のご意向とあらばどのような処遇も喜んでお受けいたします。
必ず任を果たします
先ほどの発言は、聞かなかったことに…」
「ありがとう」
黎翔は青慎の頭に手をのせた。
「移動はなしにしておくね。
でも君にやって欲しいことがあったら、呼ぶから。
そのときはよろしく」
黎翔は微笑んだ。
「はい」
「じゃあね。急いでたんでしょ」
「あ、はい!失礼します」
ついつい話し込んでしまったが、
急いで追いかけなくてはならないのだ。
青慎は一礼をして廊下を走り出した。

黎翔は青慎が角を曲がるまで見送って、ため息をついた。
「ふーっ」
青慎は夕鈴に似て義理堅い。
まだ何も返せていないと言っていたが、
青慎が部下になってから経倬のところから上がってくる報告書に不備がなくなったし、
提出も早くなっている。
このところ王宮内の経倬の評価は少し上がってきているのだ。
少し自信をつけるくらいだったら、
もう十分に恩返ししただろうに。
「予想外だなあ」
まさか、あの男に人を惹きつけるような何かがあるとは思っていなかった。
もうしばらく様子を見るか、と黎翔はとりあえず考えるのをやめて部屋に戻っていった。







青慎は見当をつけていた部屋をいくつか回って、
ようやく経倬の声を聞いた。
今回の案件について、人事の責任者と話をしている。
笑い声が響くから、少し酒も入っているのだろうか。
青慎は外で耳をすませ、
2人の会話をしばらく聞いた。
話題が本題にうつり、
キリの良いところで部屋に足を踏み入れた。
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いつも視点が面白いです
初めまして。
いつも楽しく読ませていただいております。
さかなや様のお話はいつも視点が視点が興味深いです。
経倬さん 我儘、気儘、無能でもって思いっきり陽性!
良いですね。
とはいえ一か所だけ気になる点が。
まだ臨時妃やっているのでしょうか?
夕鈴さん?
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
もんちゃりさんへ
はじめまして。
ありがとうございます!

経倬さんは、
陛下と弟には小物とかバカとか言われておりますが、
素晴らしい作戦を考えてくれる部下がたくさんいて、
バカとは思われつつも家の名前だけでなく愛されている人だと思います。

夕鈴を臨時にするか正妃にするかはすごく迷ったのですが、
最初本物の妃として書いていたらどうにも違和感があって、臨時のままとなりました。
まず、夕鈴が正妃という政治的な立ち居地になったら、
その家族の青慎は面倒ごとを避けるために中央には置かないだろうなあというのが一点と、
青慎には夕鈴が妃のバイトをしているのに気付かないままで試験を受けて受かってほしかったのと、
青慎が働き始めてから、『妃の弟』という政治的アドバンテージなしで頑張っているほうが自然、
などなど他にもいろいろありますが、
そんな理由です。
私の中で正妃になった夕鈴と陛下のラブラブな姿はまあなんとか思い描くことが可能なのですが、
そのほか周りの人間の反応とか
政治的な話になると夕鈴の立ち居地がよく分からなくてとたんに色々破綻するので、
サブメインの話のため臨時のままです!
いつまでやってんだよ~ってなりますよね(笑)
おりざさんへ
こんにちは。
ありがとうございます。

狼陛下の花嫁はサブキャラもそれぞれ素敵な性格で、
この人いつも何を考えているんだろう、
何に喜んで何に悲しむんだろうとか考えたくなってしまいます。
なんでもない人のなんでもない日を想像するのはとても楽しいです。
そういう日の組み合わせて印象深いイベントも起きるのでしょうし、
大切にしていたいと思っています。

楽しんでいただけてよかったです!
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secret


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