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LOVE★LETTER
登場人物 方淵、紅珠、水月、義広
カップリング 方淵x紅珠

・まだ知り合ってないような知り合ってるような


「私は貴女の小説は好かない」
顔を見合わせるなり挨拶もなしにそんなことを言われたのは初めてだった。
久しぶりに足を運んだ兄の屋敷で、
親族ではない人間がいたのにも驚いたが、
氾家の息女である紅珠にここまで愛想を見せない人間はとても珍しい。
確か彼は柳家の次男で、
妃である夕鈴が紅珠の家に泊まりにきたときに、
花を持ってきてくれたことがあったようななかったような、
直接きちんと話をしたことはないのだけれど。
キッ、と睨まれて、
紅珠は少し驚いてしまった。
紅珠のまわりにはあまり攻撃的な顔をする人はいない。
「それは、残念ですわ」
いったいなんと返して良いかも分からず、
紅珠はあいまいに笑いながら返事をした。
「陛下をありもしない作り話で、
好奇の目に晒すようなことをしている。
自分の品格を落とすような行為は避けることだな!」
紅珠は、
真っ直ぐ自分に視線を向ける方淵と目を合わせた。
そういえば、
彼は陛下をとても尊敬しているのだ、と兄や妃から聞いていた。
紅珠は少し微笑んだ。
彼は彼の大事な人を守るために言っているのだし、
紅珠だって、大切な人のことを思って書いているのだ。
「…確かに、女の人というのは、お話がお好きです。
殿方の貴方には、お分かりにならないかもしれませんね」
方淵は最後に紅珠をもう一度睨んだだけで、
なにも言わないですたすたと歩いて去ってしまった。
もとより用事は済んでいたのだろう、
いなくなるのは早かった。






方淵はいらいらしながら廊下を早足で進んでいた。
昨日、帰宅しようとしたら未処理の書簡が見つかって、
それだけならまだいいが、
その内容が氾水月に確認をとらなくてはいけない内容で、
氾水月がすでに帰宅をしていた時点で叫びだしたいくらい憤っていた。
その上氾水月の自宅に行ったら庭の鯉が一匹見つからないとかいう、
全く理解できない理由で待たされたあげくに、
その案件は明日でいいんじゃない?と言われ、
(ふざけるなと怒鳴ってなんとか終わらせた)、
最後に廊下で鉢合わせたのは、
あの忌々しい小説を世間にはびこらせている張本人であった。
あのお妃についてはどう描写されていようがこの際どうでもいいが、
問題は陛下だった。
なんだあの、なよなよと女々しく、決断力にかけ、
そのくせ身体能力だけは超人的で、
人間かどうかも怪しい男のモデルが陛下だなんて許せん!と、
最初にあの文章を目にしたときから文句を言わなくてはと思っていたのだった。
「あんなどこから来たかも分からない女…!」
ぴた、と足を止めた。
声を小さくしているつもりで失敗しているのか、
わざと誰かに聞いて欲しいのか分からない音量だった。
方淵はくだらん、と声の主を馬鹿にして、
そのまま堂々と部屋を横切ろうとした。
しかし、次の女の声でまた止まってしまった。
「でももしかしたら、どこかの国のお姫様かもしれないわよ」
「それって最近流行ってる小説のこと?」
「そうよ。あんたも読んでるの」
「そりゃ読んでるわよ!」
「あれって作り話じゃない」
「少しは作っていると思うけど、
どうみたってモデルは陛下とお妃様でしょ。
お妃様だってかなり度胸があるし、
亡国の姫なら嘘ではないかもしれないじゃない。
いくつもの死線を潜り抜けて、
2人の愛の絆が生まれたのよ」
「アンタはまたそうやって、
夢みたいなことばっかり言ってるんだから…」
「まあ否定はしきれないわよね」
悪口だったものはいつのまにか明るい笑い声に変わっていて、
瀕死の陛下と鉢合わせたら自分はどうするか、だの、
亡国の姫だったらどうするかだのとくだらない話題に移行していった。






方淵は、誰もいない休憩室で、
例の小説を広げていた。
別に話の流れや表現に文句をつけようというわけではない。
ただ、あまりにも登場人物のモデルが明らかすぎるのと、
それでいて現実の陛下とかけ離れている点が気に入らない。
「……」
「あっ」
短く声が聞こえて、
方淵は振り向いた。
「なぜこんなところに」
少し気まずそうな顔をした夕鈴に、
厳しい視線を向ける。
「ここは貴女が顔を見せるような場所ではない」
「ちょっと人を探していて…」
「遣いをやって探させればよろしいでしょう」
そんな方法があったの!と驚いた顔をされる。
それから夕鈴は少し視線をずらす。
綺麗に箔押しされた巻物には見覚えがあった。
「それ…」
「なにか?」
「書物の検閲、ですか」
まさかあの柳方淵が私用で恋愛小説なんて読まないだろう。
陛下とその妃がモデルだから、
中身を確認して流通を制限したりするのだろうか、
と夕鈴はあれこれ考えるが、
仕事だろうとなんだろうと、
装飾されてかわいらしい書物を方淵が持っているのはおかしかった。
「その様子では、読んだことがあるようですね」
「ええ、新作ができると紅珠が持ってきてくれるので」
少し照れるが、
楽しそうに話してくれる紅珠を見ていると、
嬉しくなることもある。
「…貴女は恥ずかしくないのか」
「え?まあ、少し…
でもこの小説のおかげて、
陛下との本当の思い出は、私が独り占めできるんです」







「氾水月」
翌日方淵は几帳面にまとめられた手紙を持ってきた。
「なんだい?」
「これを氾紅珠に渡して欲しい」
目の前に差し出すと、
水月は言葉が理解できなかったような、
不思議な顔をした。
口は開けっ放しだ。
「なんだその顔は。
警戒するような内容ではないぞ。
なんならこの場で読み上げる」
「いや、いいよ。
紅珠を傷つけるようなものではないのなら」
「そうだ。なら頼む」
さすがの水月にも中身は全く予測できなかった。
読み上げてもいいようなものなら、
渡しても困らないだろう。
中身を一応確認してからのほうがいいかと少し考えたが、
そんな野暮なことはしないでおこう。





楽器の練習を見てあげる、と声をかけると紅珠は嬉しそうだった。
最後に合奏し、お茶を飲み終えたところで水月は例の手紙を出した。
「紅珠、手紙だよ」
「どなたからですの」
特に心当たりがなく、紅珠は不思議そうな顔をする。
これは絶対正解はでないだろう。
「誰だと思う?」
「…お妃様、ではありませんよね。
思い当たりませんわ」
「柳方淵だよ」
「柳…方淵、様?
どうされたのでしょうか」
「さあ、でも紅珠を傷つけるような内容ではないと言っていたよ。
読んであげたら?」
「分かりました」
受け取ってみると、以外と重さがある。
真っ白で汚れのない紙だ。
見た目よりも広げると中々中身はみっちりと書き込まれており、
一瞬めまいがしそうになった。

『貴女が陛下に誠意をもって仕えていることは理解した。
先日の私の発言は不適切であったため謝罪したい。

私はあのお妃を支持しているわけではないが、
王宮内では不必要に悪意を持ってお妃についての噂を広める者も多い。
低俗な噂話が王宮内に飛び交うのは好ましくない。
貴女の書いたものがその抑止剤となっている現場を見て反省した。

しかしながら、
やはり陛下の描写にはいくつか改善を求めたい箇所がある。
例えば第3章2段目の陛下の台詞だが…』

紅珠は真剣な表情で全てを読み終わると、
水月に何も言わずに全力で書斎に走って行った。
そうして、
もう1日が終わりそうになったころに水月のところへ遣いをやって、
手紙を一通渡したのだった。






「はい」
方淵は、突然差し出されたものが理解できず、
水月を睨んだ。
「なんだこれは」
うっすらと桃色に全体が染められ、
角には押し花が埋め込まれているそれは明らかに、
仕事には関係がなさそうだった。
「返事じゃない?」
水月ははっきりしない表情で答える。
「紅珠からだよ」
「……」
まさか返事が来るとは思っておらず、
方淵はその手紙を受け取って良いものか迷った。
氾家と柳家の末娘と次男という立場が、
敵対する家の名を持つとはいっても家名を継ぐわけではなく微妙で、
自分から手紙を出しておいて返事はつきかえすのは難しく思えた。
「承知した」
方淵は苦い顔で手紙を受け取った。





方淵はその夜自室で手紙を広げ、
例の小説を参照しながら呼んでいた。
紅珠からの返事は丁寧で、
方淵の出した改善案を受け取り、
それを彼女らしく手を加えた表現で変更していた。
変更できない点は、
その理由を述べてある。
また、これから書いている新作の件で、
迷っている箇所があるから助言してほしいとの言葉と、
それと一緒に別の紙にその新作のあらすじが届いていた。

方淵は散文の小説などほとんど読まないし、
書いたことなどないのだが、
助言を求められたからには真剣に悩まずにはいられない。
広げた手紙を睨んでは、
書架からなにやら分厚い書物を取り出して戻したりしていた。
「方淵!」
後ろから声をかけられ、
方淵は驚いて積み上げられた書物をはじいてしまい、
桌に広げていたものが雪崩のように崩れ落ちた。
「父上、なにか」
「いや…驚かせたか。
なにやら熱心にしているが、必要なら知恵を貸す」
もともと生真面目で熱心な次男だが、
何度声をかけても全く反応がないほどというのは珍しい。
陛下から重要な案件でも任されたのかと思い少し様子を伺っていたが、
どうも違っていて、
前に置かれた色のついた紙が気になっていたところだった。
まさかこの仕事一辺倒の次男にもついに…
と柄にもなく落ち着かないのは父親として仕方のないことだろうか。
「それは、手紙か」
「…!はい」
「何度かやり取りをしているのか」
「2度目です」
「ほう…前回は何を送ったのだ」
この先も続くなら、相手を調べたほうがよかろうか。
「手紙です」
「手紙と、何を?」
お互い相手の顔色を伺うように一瞬沈黙があった。
「まさか、手紙だけで送ったのか」
「…手紙以外に何を送るのですか」
開いた口が塞がらないとはこのことであろうか。
幼い頃から厳しく文武両道にと育てさせていたのに、
このような教育が穴になっていたとは。
義広は己の教育観を少し反省して、
それを誤魔化すように咳払いした。





「氾水月、
何度も悪いがこれを氾紅珠に渡してもらえるか」
前回のときからしばらく経っていたので、
2人の手紙交換がどうなっているのか気にしていた水月は、
少しがっかりした。
そろそろ水月に見られるのが困るような内容になってきたから、
もう頼まなくなったと思っていた。
「これも一緒に頼む」
「これは?」
箱は漆塗りに控えめに箔押しされた上品な品で、
見た目の重厚さとは裏腹に持ってみると軽い。
「墨だ」
「墨?眉墨のこと?」
後に残らないものを送るのは少し臆病な気もするが、
随分女性的なものを選んだなと思った。
紅ではないところがいやらしくなくて、彼らしいのかもしれない。
しかし方淵は怪訝な顔をしている。
「まゆ墨とはどんな種類だ?松煙か?油煙か?
これは煤に水を注いで不純物を取り除き、
上澄みの細かい粒子の煤を使用した青墨なのだが、
淡墨の場合は厚みのある赤紫色を帯びた上品な紫紺系だ。
濃墨にすれば引き締まった深みのある青系の黒になり…」
水月は受け取った墨を落としそうになったがなんとか持ち直した。
墨は、墨だ。
確かに、紛うことなく。
「書き味はなめらかで伸びが良い。
筆がひっかかりにくくなるから、
多く書くなら重宝すると思う」
女性への贈りものとしては随分滑稽なものではあるが、
彼は彼なりに真剣に選んでくれたのだろう。
水月はからかうのはやめにしておくことにした。
「手紙を手紙だけで渡すのは非礼であったと、
謝罪もしておいてくれ」
「わかった」
やっぱり何か一言つけたしたくなってしまう。
きっと方淵に贈り物をするようにと言ったのはその父親なのだろうけれど、
まさか墨を贈るだなんて思ってはいないだろう。
紅珠も墨をもらうのは初めてのはずだ。しかも異性から。
妹の反応を予測するのは楽しく、
水月は思わず笑ってしまった。
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笑えました!
こんにちは。
以前SNSに書き込みいただきました、うりうりといいます。

方淵×紅珠、私も結構イケるんじゃないかと思っています。
家同士がライバルというのもいいし、
あの水月と方淵が義理の兄弟になるというのもいいし、
たぶん紅珠って、家柄とか教養とか容姿とかは
方淵の“絶対的理想”なのにも関わらず、
ドリーマーな一面に「こんなはずでは・・・・・」と
方淵に思わせてしまうだろうところもいいです。
でも方淵が眉間に皺を寄せて怒鳴ったりなんかしたら、
お嬢様の紅珠は泣いちゃったりして、
方淵がオロオロしたり。
想像が膨らみますね。

今回笑えたポイントは、
・休憩室で“装飾されたかわいらしい”恋愛小説を読む方淵 ←お妃さまでなくとも、同僚の誰かが来たらどう思われるのかとか何も考えなかったであろうところが彼らしい(笑)
・小説の具体的な箇所を指摘して修正を要求する方淵 ←相当真面目に読み込んだと見えます。
・新作の助言を求める紅珠とそれに真剣に悩む方淵 ←知らず知らずに方淵は執筆に巻き込まれています。
・「必要なら知恵を貸す」の義広様のお言葉 ←柳大臣も執筆に加わるのかと思いました!

柳大臣のお言葉もう、本当に・・・・。
すぐに続きを読めばそうでないことは一目瞭然だったのですが、
このセリフまでを読み終わったときは本気でそう思えて、
笑いすぎて思わず涎垂らしちゃいました!(汚くてスミマセン)

恋文のやり取りをしているんじゃないかという周囲の目を余所に、
真面目にキラキラ小説についての意見を交わす二人・・・・
おもしろかったです!
おりざさんへ
こんにちは!
ギャグとして書いていたので楽しんでいただけてよかったですv
一応続く予定で書いていたのでネタはあるので、
まとまったらいつかあげるかもしれないです!

うりうりさんへ
こんにちは。
SNSではこっそりお邪魔して考察を楽しんでおります。お世話になっております。

こんなに長いコメントを頂いたのは初めてかもしれません。ありがとうございます。
方淵x紅珠は原作で絡みがないわりに反応して下さる方もまあまあいらっしゃるので、
潜在能力を秘めたカップリングだと思っています。
一言でも本誌で会話してくれたら堂々と盛り上がれるのに!
方淵には紅珠みたいにふわふわして可愛い子に振り回される人生も悪くないと思いますが、
その辺りは神のみぞ知るところでいろいろ妄想するの楽しいですよね。

> ・休憩室で“装飾されたかわいらしい”恋愛小説を読む方淵 ←お妃さまでなくとも、同僚の誰かが来たらどう思われるのかとか何も考えなかったであろうところが彼らしい(笑)

方淵は周りの人にどう思われるかとか全然気にしなさそうですよね。
義広様はそのあたりひやひやしてると思います。もっとうまくやれよ!いちいち難しいことして!みたいな。

> ・「必要なら知恵を貸す」の義広様のお言葉 ←柳大臣も執筆に加わるのかと思いました!

頼んだらやってくれそうですね~
この表現は古典作品の○○を示唆しているから××という表現が相応しいと思うがどうでしょうか、
とか方淵が聞いて、
いやこれはむしろ▲▲の□□のことを言っていて引用するとすれば~~が~~
とか学術論文でも書いているのかというくらい熱心にやってくれると思います!

本人達はいたって真面目なシリアスギャグを目指していたので、
笑っていただけたなら嬉しいです!
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secret


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