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けんじゃとおくりもの
登場人物 水月、紅珠
カップリング なし

・おさない水月と紅珠
・SNSで最初に公開しました。

水月は池の見える場所に座っていた。
廊下なのだが、
ここが一番綺麗に見えるからといって気にしない。

父上のあの顔は初めてだったかも、
と思い出してみる。
怒っているわけではないだろうが。
氾家の長男として生まれてこのかた、
あの父親に怒られたことは一度もない。
驚いているようにも見えなかった。
強いているなら少し寂しがっているような、
悲しんでいるのとは違う…

理由は単純に、おもしろくなかったからだ。
このままこの何人だか分からない人間の丸い背中に囲まれて、
何時間も筆を握っているのが嫌だったのだ。
試験の内容だって、
この国で一番の難関といわれているわりには大したひねりもなかった。
その時間はとても無駄に感じて、
ついつい何も書かずに出てきてしまった。
一応父親に言われて受けたのだから、
名前ぐらいは書いてくればよかっただろうか。

王宮はおもしろいところだと言われたけれど、
あの試験を受けて選ばれた人間が集まる場所がおもしろいとは到底思えない。
かといって、
他に特別やりたいことがあるわけでもない。
ただこうして毎日庭を眺めたり、
楽器を弾いたり、
散歩をしたりできればいいのだけれど。
わざわざあの親が声をかけてくるということは、
この生活に文句があるからだろうと思って、
一応試験は受けようと思ったのだが、
どうしても耐えられなかった。
つまらないんだから仕方がない。
しかも年齢のせいで、
通り過ぎる人間にいちいち嫌味ばかり言われて、
流石に疲れてしまった。

後ろのほうでドタバタと音が聞こえている。
末の妹が大きくなるにつれて、
少し家の中は騒がしかった。
最近は父が紅珠のために服や装飾品を集めているから、
家には前より頻繁に商人が出入りしている。
そろそろ後宮に入れるころなのだろうか。
いやまだ確か6だか7だか…少し早いか。
何歳年が離れているのかもあまりはっきり覚えていない。
水月はあまり紅珠とはかかわってこなくて、
なんとなく横を通り過ぎて、
小さいと思うくらいだ。

「紅珠様、
危のうございます!」

随分騒がしい、と思いながらもあまり気にはとめていなかった。
ジョキ、と不吉な音がするまで。

あまりにも聞きなれない音のため、
流石の水月も驚いて後ろを見た。
一番最初に視界に入ったのは小さい妹の紅珠で、
その手にはハサミが握られた。
それと、もう片方の手には髪の毛の束だ。
なんて気持ちの悪いものを持っているんだ、
と紅珠の綺麗な手から預かろうかと思ったが、
よく見たらその色は自分の髪の色と同じであったし、
随分頭が軽くなっていた。

「紅珠、何しているんだい」
「ないしょですわ」

内緒も何もないだろう、と思うのだが、
紅珠はすぐに後ろを向いて走りさっていってしまった。
周りに立っている使用人や
紅珠のお目付け役は青ざめている。
念のため首の辺りに手をやると、
やはりそこを覆ってくれるものはなくなっていて、
ずいぶんぞんざいな理髪師である。

呪いやまじないの類ではないだろうが、
いったい妹が何もしようとしているのかは気になって、
水月は重たい腰を上げるとのろのろとその後を追った。
話し声がするからなんとなく居場所はわかる。
水月が角を曲がると、
目があった使用人はびくりと反応して気まずそうな顔をした。
その立っている扉の向こうに紅珠がいるのだろう。

「紅珠は?」
「この中にいらっしゃいます」
「私が入ってもいいのかな」
「止めるように申し付けられてはおりますが…」

幼い紅珠のいうことよりも、
もちろん長兄の水月の言葉のほうが重い。

「入れてくれる?」
「…はい」

一言声をかければすぐに扉があいた。
中には紅珠と、
色とりどりの飾り紐。
床に散らばって一枚の絵画のようになっている。

「水月兄様!」
「紅珠、水月兄様は仲間はずれなのかい」

紅珠の隣には弟2人も座っていて、
2人とも困惑した顔をしている。
紅珠は入り口に立っている使用人を睨んだ。

「ないしょだって言ったのに」
「ごめんごめん。
どうしても兄様が入りたいってお願いしたんだ」
「もうっ」
「何をしているの」

尋ねると、
紅珠は飾り紐のひとつを握って、
誇らしげに近づいてきた。

「兄様、
シケンに落ちて落ち込んでいらっしゃるのでしょう。
元気を出してくださいませ。
紅珠が新しいかざりで髪を結んで差し上げますから、
一緒にお外に出かけましょう」

紅珠は水月の後ろにまわりこんで、
やっとそこで自分のした過ちに気付いたようだった。
布の上に置かれた髪の束と、
短くなってしまった水月の髪を見比べて、
泣き出した。

「紅珠、
泣かないで」
「ごめんなさい、兄様。
内緒で一番似合うお色を選んで差し上げたかったの。
だって紅珠の髪の色は兄様と違うから、
分からなかったんだもの」
「ありがとう。
すぐに伸びるから、そしたら紅珠が結んでくれる?
兄様は来年も試験を受けるから、
そのときに合格できるように。
1年後だよ」
「…はい」

鼻水でべちゃべちゃになった顔を拭いてやって、
抱きしめると、
紅珠はさらにわんわん泣き出した。
小さい手に服の袖をつかまれるのは、
そこまで嫌いではないと気付いたのはこのときだ。

「ねえ紅珠、
こんなにたくさんあるのだったら、
兄様も紅珠に選んであげたいよ」

しかも、これだけで笑顔になるのだから。
つい頭を撫でてやりたくなっても仕方ない。
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