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となり 4
登場人物 几鍔、夕鈴
カップリング 几鍔x夕鈴
「似合わねーことしたかな」
几鍔は走り去った夕鈴を見て、
ため息をついた。
自分らしくはないが、
嘘はついていない。
髪飾りは商品にできないものだし、
どうやって販売促進するかも考え中だった。
夕鈴がつけたところも見たかった。
「はー、難しいな」

少しずつ夕鈴の表情が戻ってきて、
なんとなくだが喧嘩しつつも距離を縮めていると思っているのだが、
勘違いだろうか、と几鍔は不安になる。
戻ってきたばかりのときは、
本当に1日中泣いているような印象さえあって、
几鍔が近づくと震えてまで泣くのをやめて痛々しかった。
その後何度も夕鈴に会いに行って、
こじつけの理由さえもなくなってくるほど通って、
なんとなく警戒されなくなってきた気がしたのだが……
今日の拒絶っぷりはひどかった。
本当に似合っていたから思わず口に出してしまった。
夕鈴のことが1人の女性として好きなんだと気付くと、
それを誤魔化すのはとても難しかった。
気がつくと探してしまうし、
会えると嬉しくなってしまう。
可愛いと思ったら言いたいし、
触りたくなるときもある。
自分の気持ちを冷静に分析できる反面、
いつかその気持ちが管理しきれなくなって、
夕鈴を傷つけるのではないかと思うと怖くなるときもあった。
「まあ、考えても仕方がねえな」
仕事に集中していれば、
夕鈴のことを考えすぎずにすむ。
几鍔は道に置いた在庫の箱を抱えて、
店の奥に入った。






夕鈴は、しばらく几鍔のことは避けてすごすようにした。
几鍔が出入りする店はたくさんあるから、
完全に鉢合わせを防ぐのは中々大変だが、
先に見つけてしまえばいくらでも姿は隠せる。
外を歩くときは几鍔の姿をまず探すことにした。
だいたいは、店の人間となにか打ち合わせをしていて、
たまに1人でふらふらと歩いている。
その時々で荷物の多い老人を見つけると手助けしたり、
輪が溝にはまった車を助けたり、
迷子の親を捜したり、
几鍔は本当に親切なのだ。
町の中で困っている人間がいたら、
誰にでも手を貸す。
その町の人間に自分も含まれている。
そう思うと、夕鈴はなぜか心が痛かった。
ずきっ、と鈍い痛みは覚えがあるけれど、
認めたくはなかった。
黎翔に線引きされたときと同じ痛み。
好きな人との、距離を感じる痛み。
気持ちが同じでないことを、悲しく思うときのもの。
どれだけ意地をはっても、
少しずつ夕鈴が几鍔に惹かれているのは事実だった。
あれだけダメだと思ったのに、
少し親切にされて惚れてしまって、
しかもその親切さが誰にでも同じだと思うと妬いてしまう。
どうしてこんなに性格が悪いのか、と
また毎晩泣きたい気持ちになった。
最も今回は涙は出てこなくて、
ただ自分への苛立ちが積もるだけだった。

とにかく、
この気持ちを几鍔に気付かれないようにすることが大切だ。
知られたら、また気を使うだろうから。
そして一段と優しくしてくれるだろう。
失恋して帰ってきたカワイソウな幼馴染を、
またも失恋で傷つけないように。
そんな情けない話はなにがなんでも避けたかった。

何日か避けていればそんなに難しいことでもなく、
夕鈴は几鍔と一月くらい話さなかった。







ずっと几鍔のことを意識して生活していたので、
もう何も考えなくても几鍔がいそうな場所は避けられるようになってきた。
今日もふらふらとバイト先から家に帰るところだった。
ぼんやりと遠くを眺めながら歩いていると、
几鍔の姿があった。
だれかと話している。
几鍔より頭1つ背の低い女性で、
年は夕鈴と同じか1つ下くらいだろう。
にこやかで、笑い声は聞こえないが、
楽しそうに話していた。
心臓の鼓動がうるさくなった。
足が少し震える。
名前も知らないその女性から、目を逸らすことができなかった。
じっと2人を見ていると、
几鍔がこちらを見そうになった。
目が合う前に急いで逃げた。





部屋に入ると、
寝台にそのまま倒れた。
もう走っている最中から涙が止まらなくて、
頭が痛くてしょうがなかった。
我慢するのが辛いなら、
言ってしまえばいいのだろうか。
気持ちを伝えて、
几鍔が絶対に断ってくれるなら言えそうな気がした。
いや、
ああして楽しそうに話をしているのを見て、
いざ本当に断られると分かったらきっと怖くて言えない。
幸せになってほしいと思っていながら、
結局冷たくされるのは嫌。
夕鈴は卓の上に置かれた簪を取った。
「陛下…」
目を瞑ると、まだ顔は思い出せる。
王宮で過ごした時間を思うと少し心が和らいだ。
恋をしてドキドキしていた思い出は、
夕鈴の心を温かくしてくれた。
全くかなわない恋は辛かったけれど、
終わってしまえば黎翔の幸せを祈るのはそこまで難しくなかった。
恋が実ろうが敗れようが、
黎翔が大切な人であるのは変わらない。
几鍔のことだって、
そう思っていなければ。
大事な幼馴染だから、幸せを祈ってあげなくては。





一晩中泣きながら考えて、
夕鈴は1つ結論を出した。
几鍔と、几鍔の選んだ人の幸せを祝福するということ。
悲しくはなるだろうが、
几鍔のことを好きになる前は、
大切な幼馴染だった。
きちんとお祝いしなければと思った。
もう避けるのはやめる。
決心して、几鍔がいそうな場所に向かった。
避けるのは慣れていたから、
これまで通っていなかった道を通れば会えるはずだ。

思ったより時間がかかってしまったけれど、
夕鈴は几鍔を見つけることができた。
「これください」
後ろを向いて商品を数えている几鍔に声をかける。
「はい…夕鈴?」
「これで足りる?」
「ああ」
お金を渡すと几鍔は商品とおつりを渡した。
「なんか久しぶりだな」
「そうね」
「あー…なんだ、
なんか困ったこととかないか」
「なにそれ。ないわよ」
「そうかよ」
「アンタにいちいち気を使われなくても、
大丈夫よ。
心配かけてごめんね」
「……」
几鍔が顔をしかめる。
しかし何も言わなかったので、
夕鈴は続けた。
「王宮から戻って、
色々気を使ってくれてるのは分かってたの。
ちゃんとお礼を言えなくて悪かったわ」
「別にそれは…」
「ここの町の人のこと、
いつも見てるものね。
なにかあると落ち着かないんでしょ」
「夕鈴」
几鍔は夕鈴の話途中でさえぎった。
夕鈴の腕を掴む。
「何を勘違いしてんだか知らねーけど、
俺は別にお前に親切にしてたつもりはねえ」
「無意識だったの?
だとしても、私はそれて助かったから、
ありがとう」
「そういう意味じゃなくて、
俺はだな、その…」
几鍔は気まずそうに目をそらした。
うまく言葉が見つからなかった。
今言っていいものかも分からない。
とてもじゃないがそんな雰囲気には思えなかった。
「とにかく、私お礼を言いたかったのよ。
それから、もう大丈夫だから、
私に構ってないでちゃんと自分のことしなさいよ」
「迷惑だったってことか」
「え?
人の話聞いてた?
助かったって言ったじゃない」
「だったらなんで、
もう大丈夫なんて言うんだよ。
俺が好きでお前に会ってたんだから、
それでいいだろ。
これからも」
夕鈴は几鍔にじっと見られて、
うまく返事をいうことができなかった。
この人は何を言っているのだろうか、と混乱した。
早く幼馴染のお守りから解放されればいいのに、
自分から面倒ごとに首をつっこんでいる。
「…だって、私といたら、
幸せになれないじゃない」
「は?」
蚊の泣くような声で呟いて、
夕鈴は几鍔の腕を振り払った。
そこにいることに耐えられなくて、
夕鈴は逃げ出した。
せっかく諦めようとしていたのに、
優しくしないでほしかった。
嬉しいと思ってしまったのはもっと嫌だった。
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