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となり 3
登場人物 几鍔、夕鈴
カップリング 几鍔x夕鈴


そういえば昔から何度も助けてもらっていたな、と思う。

夕鈴は重たい荷物を部屋に置いた。
玄関先から台所に持ってくるだけで辛かった。
正直、買い物をした瞬間から、
自分だけで持ってこれるか不安な量だった。
だから人ごみで几鍔に声をかけられたとき、
少し持ってもらおうか迷ったのだ。
結論を出す前にとられてしまったけれど。
根菜や塩の入った重たいほうをわざと選んでくれた。
夕鈴が右利きで、いつも右が重たいことも分かっていたんだろう。

「はー……」
王宮から戻ってから、
気を使われているのは分かっていた。
以前よりかなり頻繁に家に来るし、
青慎のことも見てくれている。
しかも、決まって夕鈴が悲しくてしょうがなくて、
耐えられなくて涙が出そうになるときにやってくる。
1人でずぶずぶと暗い穴の底に入りそうになっているときに、
邪魔をしにくる。

やめてほしかった。
そんなことに救われている自分も嫌だったが、
この情けない自分を助けるために几鍔が時間や気をつかうのも嫌だった。
彼はそんなに暇じゃないはずだ。
夕鈴はひとまず夕飯の下準備だけすませて、
自分の部屋に入った。
王宮から1つだけもらってきた簪がある。
妃がつけるには安物だが、
夕鈴の質素な部屋の中では一番価値がる。
簪についた飾りがゆれて、
軽やかな音がした。

この音を鳴らしながら歩いていたことはもう夢のようだ。
だれにも手入れされなくなった手や髪は、
あっというまに荒れてしまって、
もう飾りなんて似合わなくなっていた。
それでも構わないけれど、
思った以上に早く消えてしまう思い出に戸惑っている。
だんだん涙も出なくなってきた。
黎翔を好きだと思っていた気持ちが否定されているみたいで、
それが辛かった。
初恋だったのだから。
嘘じゃないと思いたかった。
ずっと綺麗な思い出で、
その失恋の悲しみに浸っていたかった。
いつまでも黎翔を好きでいたかったのに、
悲しさが少しずつ薄れてしまう。
最初は1日中思い出していたのに、
今では忘れている時間がある。
夜だって、ゆっくり寝られる。
あんなに辛いと思っていたのに、
もう元気になっている。
あまつさえ、
他の人に優しくされて揺れてしまうこの単純な心はなんなのか。
少し優しくしてくれれば誰でもいいのではないか。
もっと自分の気持ちを大事にしたい。
黎翔のことも、
几鍔のことも、
大事に思っていたい。
ほんの少しの時間で、
気持ちの変わってしまう自分が恥ずかしかった。

「ごはん作ろう」
部屋でぼんやりしているだけで、
いつの間にか時間が経って暗くなっていた。
そろそろ青慎も帰ってくるだろうし、
なにか温かいものを作ってあげよう。






バイトを終えて、
夕鈴は市場を見て回っていた。
昨日食材は買ったばかりだから、
今日は手ぶらでゆっくりと見て回れる。
たまに珍しい色の紐や、
貝殻でできた装飾品が目に入って、
目がちかちかした。
王宮で見たものはさらに光っていたが、
市場で太陽の光を反射して見える光はまた違って眩しかった。
辺りを見ながら歩いていると、
几鍔がだれかと話しているのが見えた。
商品を指差して何か指示しているようだった。
「あ、夕鈴ちゃん」
話をしている男に気づかれて、
夕鈴は気まずい思いをしつつも挨拶した。
「こんにちは」
「買い物帰り?」
「バイト帰りです。買い物は昨日したから」
「すごい荷物だったな」
「アンタは黙っててよね」
「なあ、夕鈴。
お前、これどっちがいいと思う?」
几鍔は手に持った籠を並べた。
「こっちと」
そして左右を逆にする。
「こっち」
中に入っているものは同じ小物だが、
色が違っている。
「うーん…最初かなあ。
こっちが右にあると、
なんかごちゃごちゃして見えるわ」
「だよな!
ほら見ろ。俺も言っただろうが」
「分かったよ。じゃあそっちに置くよ」
どうやら商品の陳列順序を相談していたらしい。
男は商品を移動させて、
あまったものを置きに奥のほうへ入っていった。
「夕鈴、ありがとな」
「別にお礼を言われるほどじゃ」
「そうだ、これやるよ。
ちょっと欠けてるんだけどな」
几鍔に渡されたのは、
小さな花の髪飾りだった。
桜貝でできていて、光の当たる角度によって、
淡い桃色や、白っぽくも見えた。
どこが欠陥品なのか全く分からない。
「きれい」
「商品にはできないけど、
別に分からないだろ」
「…うん」
「なんだよ?」
几鍔が夕鈴の顔を覗き込む。
夕鈴は驚いて一歩下がった。
「調子悪いのか」
「そんなわけじゃないけど」
「ならいいけど。
それ、かせよ。
せっかくだからつけてやる」
あまりに几鍔らしくない。
「え、いいわよ」
「俺が見たいんだよ。
どうやって売るか考え中なんだ」
「そういうことならいいけど…」
大人しくすると、
几鍔は夕鈴から花の飾りを受け取った。
髪を触られるとくすぐったく感じる。
「こんな感じか」
「ありがとう」
「似合ってる」
「…っ!
アンタに言われても嬉しくないわよ!
じゃあね!」
「あ、おい!」
ほとんど行き先など考えずにただ全力で走って、
人の少なくなった路地で壁にぶつかるようにして足を止めた。
うるさい呼吸が狭い道に響いた。
つけてもらったばかりの飾りは外してしまった。
懐から王宮の簪を取り出した。
シャラシャラと音がする。

自分が好きなのは陛下だ、と言い聞かせる
あの気持ちは嘘じゃなかったんだ!
好きだったんだ!と
全部嘘になってしまうのが悲しい。
嘘の思い出になって、
そのうち忘れるんだ。
夕鈴は簪を握り締める。
飾りが食い込んで痛かった。
もうこの気持ちしか、
自分と陛下をつなげてくれるものがない。
この痛みもなくなったら、
もう本当に、なにもない。
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