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となり 2
登場人物 几鍔、夕鈴
カップリング 几鍔x夕鈴

・2です。
・地の分が長いですー!読みにくいかも!
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夕鈴が突然下町に戻ってきたとき、
よかった、とは思わなかった。

青慎や下町の知り合いと話しているときの、
馬鹿でかい声を聞いて、
家から聞こえてくる包丁の音が突然止むことに気づいて、
昼間でも赤い目をしているのを見て、
埃がひどいなどと言い訳を耳にして、
その様子を見るたびに、
言いようのない腹立たしさを感じた。

王宮なんてお前には合わないんだ、
家族と一緒にいれてよかったじゃないか、
と一部の自分が安心するのと同時に、
気に入らないがあの男と一緒にいるときの夕鈴は、
少なくとも今よりはずっと生き生きしていたし、
幸せそうだったと思ってしまうと、
どうしても素直に喜べない。

王宮に行く前の夕鈴も元気で明るかったが、
あの男を見ているときの夕鈴は、
多分それ以上に、
感情豊かに生きているように見えた。
下町では抱くことのなかった思いや、
一生得ないような経験を、
王宮で手にしてきたのだろう。
もちろん心配にはなったけれど、
顔を見るたびに『あちら』に馴染んで、
知らない顔を見せる幼馴染を悪いとは思っていなかった。
それで幸せならば、
全力で応援し、祝福しなければと思っていたくらいだった。

なのに。

今の夕鈴は、
彼女の姉としてのプライドや、
幼い頃から自分を知るものへの気遣いで、
やっと立っているように見える。
それもこれも全てがあの男に起因していると考えても、
言い過ぎではないはずだ。
こうなりそうなことはもっと前から分かっていて、
それに気づきながら阻止できなかった自分に腹が立っているのか、
やはり原因のあの男にイラついているのか、
何も気づかず傷ついてきた夕鈴を責めたいのか、
几鍔は自分でも分からなかった。

きっと一番気に入らないのは自分のことだ。
王宮のバイトが紹介されたのを知ってすぐ止めればよかったし、
何度か下町に戻ったときに引き止めることもできただろう。
もっと夕鈴が傷つかないように、
何かできたはずだった。
いつものように喧嘩腰にしか言えなくて、
本気で自分の隣に引き止められなかったのは、
過去の関係が変わってしまうのが怖かったからか。
そして、
何かあったら自分がなんとかできると、
どこかで信じていたからかもしれない。
拒絶されるのが怖いのと同時に、
そんな望みもあったのかもしれない。
なんかあったらなんとかしてやると、
助けてやれると高をくくっていたのだ。
今ならそれは、
馬鹿馬鹿しい考えだったと分かる。
もう子どもではないのだから、
どれだけできることが少なくなっているか、
もっと早くに気付かなくてはいけなかった。

始めはあの男に責任を取らせようと、
情報を探ったが大した収穫はなかった。
どこかで夕鈴がまた去ってしまうことを望んでおらず、
本気で挑んでいなかったからか。
結局夕鈴が喜んでいればなんでもいいのだが、
正直に結論を出すのなら、
自分の隣がいい、と、
認めていたような認めていなかったような事実をようやく確認して、
もう几鍔の方が覚悟を決めたのだった。
今になっては、
もう夕鈴が誰にどんな思いを抱いているかなどは関係なくて、
ただ几鍔にとって事実だったのは、
夕鈴のことをずっと誰より大事に思っていたということだ。
それはただの幼馴染ではなくて、
こうして弱って下町に戻ってきた彼女を見ていると、
自分の持っているのは紛れもなく独占欲だと分かった。
腐れ縁だと周囲に言い訳しながら、
夕鈴の隣を守ってきたのは臆病だっただろうか、
と恥ずかしくなる反面、
それでも今から引こうとは思えなかった。
これからも腐れ縁の幼馴染を続けていこうなどとは、全く。

今は夕鈴の姿を人ごみで探すのが癖になっていた。
背は低いほうだし、
服装も地味で決して見つけやすくはないが、
視界にいればしっかり目に留まる。

人に押されながら近づいて、
夕鈴の腕を取った。

「おい」
「几鍔!なによ」
「それ貸せよ」
夕鈴は顔をしかめたが、
几鍔は返事を聞かずに夕鈴の荷物を半分持った。
「落ちたらもったいないだろ」
「落とさないわ」
「どうだか」
「頼んでないのに」
「頼まれてねーな」
「ばか」
「お礼ぐらい言えよ」
「だから頼んでないんだって!」
口喧嘩をしながらすぐに夕鈴の家の前についた。
2人で話していれば、すぐの距離なのだ。
もう少し話ができればとは思うが、
何を言って良いか分からなかった。

そもそも几鍔は女を口説いたことも、
口説こうと思ったこともない。
むこうから言い寄られることはあったのだが、
興味を持ってこなかった。
いつか嫁をとらなくてはと分かってはいたものの、
それは具体的ではなかったし、
ずっと先のことだと思っていた。
だから今こうして気を引きたい女が前にいても、
なにをしていいか分からない。
ましてや、
幼馴染で喧嘩をしてばかりの夕鈴が相手では。

じっと顔を見てしまい、
夕鈴に不審な顔をされた。
「アンタ、最近変よ」
「変なのはお前の頭だろ」
夕鈴は舌打ちをすると、
几鍔の腕から荷物を奪った。
二倍以上の重さになって、
腕が痛くなる。
「失礼なやつね」
「中まで運んでやろうか」
「いいわよ。
アンタなんか中に入れたくないの」
「そーかよ。
落とすなよ」
「分かってるわよ」
これ以上ここにいてもまた喧嘩をするだけだろう。
几鍔は諦めて戻ることにした。
少しは気の利くことも言えたらいいのに、
夕鈴相手では何も思い浮かばない。
「ねえ、几鍔!」
「あ?」
振り向くと、
何かが跳んできた。
反射で取ると、りんごだ。
「ナイスキャッチ。
お礼よ。
頼んでないけどね」
勝ち誇ったような夕鈴の顔を見て、
それだけで嬉しくなってしまって、
随分単純だなと自分を笑いたくなった。
「じゃーな」
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