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love you like no other! 3
登場人物 陛下、夕鈴、李順、水月、方淵
カップリング 陛下x夕鈴

・その3 まだつづきます
「え、政務室にまた行ってもいいんですか?」
驚いて茶器を落としそうになるが、
なんとか持ち直した。
黎翔は少し不服そうな顔をしている。
「李順が君がいないと効率が落ちると言うから試しに許可することにした。
邪魔はしないように隅にいてもらうぞ」
「はい!」
思ったより大きい声になってしまって、夕鈴は急いで口を押さえた。
「絶対隅っこにいます!ありがとうございます!」
「…君は、」
黎翔は壁に手をついて、夕鈴が逃げられないようにする。
不愉快だ。
「私の前ではそのようには笑わないのに、
他の男に会えると思うと嬉しそうだな?」
「へ?」
「だれか意中の相手でもいるのか、この私以外に」
ぐっと顔を近づける。
「え?!違いますよ!みんなの様子は気になりますけど、
まだ陛下のそばにいられるし…あ、いえ…なんというか、
前は結構政務室にいたので落ち着きますし…」
だんだんと小さくなる声が消えると、黎翔はすぐに身を離した。
「ならばよい。粗相のないようにな」
「はい、陛下」
夕鈴はそのまま動けずに、黎翔の姿が見えなくなるまで見送った。
姿が消えると、気が抜けて思わず座り込む。
「はーっ!びっくりした!」
まるで焼きもちを妬いているような言い方だ。
小犬陛下のように、拗ねているように見えた。
まだ気を許してもらっていなくて、ずっと演技は続けているが、
時折小犬のような顔を見せてくれることがある。
今だって、少し不機嫌が背中はなんだか可愛くて、
思わず駆け寄って頭を撫でてあげたくなってしまいそうだ。
もちろん、そんなことはできないが。
「陛下って、記憶がなくても寂しがりやなのね」
少しは警戒されなくなったのかな、と夕鈴は遠くなる黎翔の影を覆いながら、
頬をゆるめた。


なんだあれは。
黎翔は自分の行動がよく分からなくなって、早足で自室へ向かった。
自分の前ではすぐ固くなり、
どこかぎこちない笑い方しかしないのに、
他の男がいる政務室に行けると分かった瞬間の笑顔は忘れることができない。
一瞬心臓が止まりそうになった。
一番不可解なのは、
そんなことに苛立っている自分だ。
記憶のせいだとは分かるが、
時折自分では理解できない感情が沸き起こってくることがとても不愉快だった。





翌朝の政務室はあたかも吹雪の吹き荒れる極寒の山のようであった。
夕鈴がだれかに微笑むたびに、黎翔はその官吏に突き刺すような鋭い視線を投げる。
今のところそれに耐えていつも通りに仕事をしているのは柳方淵だけだが、
攻撃される回数も一番多い。
「今日は外で雪でも降っているのかな」
ブルブルと震えながら、水月がため息をついた。
「戯言を言ってないでさっさと仕事を片付けろ」
方淵の手はいつもの倍以上の速度で動き、黎翔の不機嫌のせいで生じた仕事の停滞を取り戻そうとしている。
「せっかくほとんど機能停止しているのだから、
もうみんな帰ればいいんじゃないかな、そう思わないかい?」
「思うかっ!貴様は何かあれば帰宅する理由ばかり探していいかげんにしろ」
「そんなことないよ。理由なんかなくても家に帰れるし」
さらりと返事を返して、処理済の書簡をまとめて端によける。
「論点はそこではない」
「はいはい、君こそ手が止まっているよ」
「…北部の干ばつの件資料は集まっているだろうな」
「もちろん滞りなく」
黎翔は言い争いをしつつも、一番処理は速い二人組みを横目で見ながらため息をついた。
「補佐官の二人は静かに働けないのか。
あの組み合わせは博打だな」
李順は黎翔のほうを見て口を開きかけたが、
発言するのは止めた。
「だれだこんな人事を組んだやつは」
「…貴方ですよ」
「記憶にない」
「さようですか」
「情報がまばらで不愉快だ」
最後はほとんど独り言だったので、
李順は返事はしなかった。
黎翔は、自分に言われたとおり部屋の隅に座っている夕鈴に視線をやった。
政務室に入ってきて一度会釈をしたっきり、
夕鈴は一切こちらを見ない。
「不愉快だ」
「分かりましたから、覚えていないことは私に聞いてください」
見当違いの李順の返答が聞こえてきて、
黎翔は盛大にため息をついた。







*


「陛下?」
呼ばれて、黎翔はふと我に返った。
あの後政務室から中央殿に移動して、
自分が何をしたのかも覚えていないほど次から次へと情報が流れていった。
李順がなんとか助け舟を出して救ってくれるが、
細かい情報の抜け落ちを穴埋めしながら新しい情報を処理するのは骨の折れる仕事だった。
現在の人員や物資の状況は既に把握したが、
結果を覚えても過程が抜けていると所々で支障が出る。
そうして仕事が終わって、無意識に足を運んでいたのは後宮であった。
ぽかんとして、
それから大慌てで茶器を運び、
お菓子もあったかしらと必死の夕鈴を見ていると、
体の緊張がすっと解けた。
「茶だけで十分だ」
「あ、そうですか。そうですよね!もう遅いですし!」
「あとは君がいれば」
黎翔は長いすに座り込むと、そのまま夕鈴の手を取った。
「えっと…」
「座ってくれ」
「はい」
夕鈴はおとなしく黎翔の隣に腰掛けた。
握られたままの手が熱く感じる。
そのまま二人とも沈黙している。
ちら、と時々黎翔に目を向けると、黎翔は目を閉じて、
寝ているのかおきているのか分からない状態だった。
「あの、陛下、もうお休みになられたほうがよろしいのでは?」
「今休んでいる」
「椅子じゃなくて寝台に…」
「仕事で疲れた夫を癒すのも君の仕事ではないのか」
黎翔は夕鈴の発言にイラついたように、
少し乱暴に夕鈴の腕を引っ張り、
そのまま自分の下に組み敷いた。
「どうなのだ」
「い、癒すというのは」
「分かるだろう」
夕鈴は黎翔の目をじっと見た。
やはり、感情の読めない暗い色だ。
だれにも気を許せない王様に、
自分は何をしてあげたらいいんだろう。
「……耳かきとかどうですか」
咄嗟に思いついたことを言うと、
黎翔はしばらくぽかんとして無反応だった。
夕鈴は自分の発言が恥ずかしくなってきて、
顔が熱くなった。
小さいときに母親に耳かきをしてもらったときに、
膝まくらの温かい体温にとても安心した記憶があったのだ。
だから、黎翔にも安心してもらえると思ったのが…
黎翔は声を殺して笑って、
ゆっくり立ち上がった。
「悪くないが、今日はもう戻ろう。
ずいぶん眠たそうだからな」
ぽん、と頭に手をのせると、
それだけで満足したように微笑んで、黎翔は後宮を出て行った。
残された夕鈴は、
先ほどの微笑みのせいで心臓がうるさくなってしまい、
その夜はそのまま寝付くことができなかった。
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