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love you like no other! 2
登場人物 陛下、夕鈴、李順、浩大
カップリング 陛下x夕鈴

・陛下記憶喪失ネタその2 まだ続きますー
夕鈴はいつもとあまり変わらず掃除を続けていたが、
政務室には行かなくなった。
黎翔に邪魔だから後宮にいろと言われ、後宮にとどまっている。

――もし一番最初の日に、小犬の陛下を見なければ、
ずっとこんな感じだったのかしら?

夫婦の演技をしているときの狼陛下とはまた違う、
完全な拒絶を感じる。
もちろん回りに人がいるときは近くに立って、甘い言葉を言われるが、
いつものようにドキドキしない。
瞳の奥が無表情で、体の奥が冷たくなってしまう。
訓練しているから演技で答えることはできるが、黎翔に会うことで体はぐったりと疲れてしまう。
自分にさえ小犬を見せないということは、
黎翔はずっと狼陛下を演じていなければいけないのだろうか、と心配になる。
側近である李順の前では本性も見せているだろうが、
夕鈴は最初に出会ったあの日以来、黎翔が李順の前でのんびりとした声で話しているのをあまり見ていない。
「陛下大丈夫かなあ」
「お前さんこそ大丈夫か?」
床を磨いていると、ひょっこり張元が姿を現す。
「あ、そこせっかく拭いたのにお菓子食べないでくださいよ!」
「そうピリピリするでない。陛下もお前さんもピリピリしたらワシどうしたらいいんじゃ!」
「やっぱり陛下、疲れてますよね。
私の前でもずっと演技してますし、心配です。でもみんな、あまりなんとも思わないんですね」
夕鈴は、黎翔の記憶がどこまでなくなったのか全く分からなくて、
心配で周りの反応も見ていた。
夕鈴にとっては、王宮に来てからの思い出が全部なくなってしまった陛下は、
全く別人のようなのだが、
王宮で働く人間にとってはそれほど違いはないらしい。
少し不機嫌そうだ、という感想をちらほら耳にしたが、黎翔の記憶を疑うものはいない。
夕鈴にとっては、本当の陛下は『小犬』のほうだが、
李順や他の官吏にとっては『狼』のほうが自然なのかもしれない。

「まー、ちょっぴり不機嫌陛下ってところかのう」
張元はお菓子をぼりぼりこぼしながら、あまり興味がなさそうだった。
夕鈴は、自分にはあまりできることはないけれど、
少しでも黎翔が肩に力を入れすぎないようにできたらいいと思っていた。
けれど、今は王宮で一番警戒されているというくらい、自分が顔を見せると明らかに空気が変わる。
望まれていないときに姿を見せることはできなくて、
ますます何もできなくなっていく自分に嫌悪感しか抱けない。
――でもめげちゃだめよ。顔は見なくてもなにかできるはず。
「張老師、ちょっとお願いがあるんですけど…」







黎翔は、机の上にある丸い物体を見て眉間に皺を寄せた。
「なんだこれは?処分しろ」
後ろに降りてきた浩大に短く指示を出す。
「えー、じゃあオレ食べちゃっていいっスか」
「勝手にしろ」
黎翔はすぐに饅頭から目線をそらして、そばに散らばる書簡に目を通し始めた。
「あ、でもー、これお妃様の手作りだからなあ~オレが食べたら、周りの人なんて思うかなあー。
陛下の寵愛が薄れてるって言ってあっというまに噂になっちゃうかもー」
「……毒見はしてあるのか」
手と視線はそのままで、黎翔が低い声でたずねる。浩大はニッと笑って答えた。
「今しまーす」
そのままひとつだけ投げるように口の中に入れる。
「さっすがお妃ちゃんの手作りはうまいねー」
いつもなら、ひとつでも手を付けようなら刃物が刺さっているところだが、
今の黎翔は反応しなかった。
黎翔は、人を小ばかにしたような表情の隠密を横目で見た。
自分の記憶がなくなっていることは李順の説明で理解したし、
いつの間にか多くの案件が片付いて、
また新しい問題が出ているのもなんとか処理についていける。
しかし臨時の妃については、
どのように扱っていいのか全く手がかりがなかった。
「…こんなもの、妃が作る必要はあるか?
李順が選んだというからどんな娘なのかと思ったが、
ただの町娘と変わらない」
ぶつぶつ言いながら、黎翔は饅頭をひとつ手に取る。
少し暖かく、指にじわりと熱が伝わってくる。
暖かい食べ物を口にするのは久しぶり、な気がする。
――そうでもないか?
記憶の片隅に、まだ湯気が立つ料理を囲んだ覚えがあるが、それが何だったのかまでは思い出せない。
「え?そりゃそうっしょ。ただの町娘だもん」
「は?」
饅頭を口にしようとしていたが、手が止まった。
「え、陛下知らなかったんスかー、お妃ちゃん、下町の下級官吏の娘で、
貴族でもなんでもないただの女の子だからねー」
「……」
無言で一口かじると、
控えめに砂糖の入った餡子の甘さが口に広がった。







「ありがとうございます」
明るい声が聞こえて、黎翔は足を止めた。
周囲の目があるため、時折後宮へ向かうようにしている。
たいてい書簡を抱えて、仕事をしているだけではあるが、
外から見て妃との仲が睦まじく見えれば問題ない。
幸い、臨時妃を演じる少女は黎翔から話しかけなければ何かを頼んでくるわけでもないし、
無駄に機嫌を取ったりもしてこない。
まれにこちらを不思議な顔で――まるで何かを心配するような顔で見ているのが気になるが、
放置して仕事に集中できる程度だ。
黎翔は、女官と一緒にいる夕鈴を視界に入れた。
落とした簪を拾った女官にわざわざ礼を言っている。
自分で頭に挿そうとするところを後ろから拾った。
「わが妃よ、
君は花などなくても美しいが、せめて添えるのは私の手からにさせてくれ」
抱きしめるようにして簪を奪うと、夕鈴の体は飛び跳ねるように反応した。
「お前たちは下がってよい」
視線を流しながら女官たちに伝えると、二人っきりになった。
「そこまで驚かなくてもよいだろう。私は幽霊ではない」
ゆっくりと夕鈴から離れる。
そのまま並んで廊下を歩いていくと、夕鈴から口を開いた。
「陛下、いつお戻りに…?」
「今だ」
「…」
「どうした?」
言いたいことがあるのに言えないという顔をされて、苛立ちを半分混ぜながら尋ねた。
口に出せないのなら、せめて顔にも出さないで欲しい。
「昨日、ちゃんとお休みになりました?」
遠慮するように、夕鈴が聞くと、黎翔は無言でしばらく夕鈴を見つめていた。
「それは君に関係あるか?」
冷たい声で返すと夕鈴は一瞬ひるんだ顔をしたが、すぐに目に力がこもった。
「陛下の身を心配するのは、私の仕事です」
夕鈴の手はよく見ると震えている。
黎翔は少し口角を上げた。
「そう怖がるな。わが妃の言うことなら従おう」
素早く方向を変え、黎翔は後宮の一室に入った。
すぐそこにある長椅子に腰かけて、腕を組む。
「一刻したら起こしてくれ」
「寝台は使われないのですか」
「ここが落ち着く」
それ以上は何を言わず、一礼して下がる夕鈴を片目で追った。
休みたいときは勝手に休むが、
だれかに休憩を取らされるなどとは、奇妙な心地だった。



*


夢はよく覚えていないが、
花の香りがした。
春を主張するような強いものではなく、
抱き寄せたらふわりと感じる程度の香りだ。
「――下、陛下!」
「ん…」
うっすらと明けた視界から光が入ってきて、その不愉快さに黎翔は目を細めた。
「もう時間ですよ!」
焦点が合わないが目の前には人がおり、
その後ろからところどころ視界に入ってくる日光が余計まぶしく感じる。
どうせなら全て覆ってくれ。
そう思って、黎翔はその人物を自分に近づけた。
「へ?!」
力強く抱き寄せられ、夕鈴は自分を支えきれず黎翔の方へと倒れこんだ。
なんとか腕で体重がかからないようにしたつもりだが、あまりに距離が近い。
人もいないのに演技の練習だろうか、と思ったが、
演技の練習を一緒にやったことさえこの人は覚えていないんだと思い出して少し悲しくなる。
黎翔は抱き寄せた人物から感じる香りが夢と同じだと思い、
さらに強く腕に力をこめた。
抵抗がなくなり、体重が自分にかかる。
体温がゆっくり着物越しに伝わったころ、頭が夢から開放された。
目の前にいるのが誰かというのと、
自分が何をしているか理解して、黎翔はなぜか後ろめたくなり小さく謝罪した。
「…すまない」
なぜ夫である自分が妻を抱き寄せて謝らなければならないのかは分からないが、
なぜか謝罪しなくてはいけない気がした。
「いえ」
心なし顔が赤く、全身を固くした夕鈴が目の前にいる。
それがなんだか可笑しく、思わず笑ってしまいそうになった。
「君は私の妻として振舞うのが仕事なわりに、どうにも慣れないのだな」
そう言って夕鈴の頬に手を伸ばした。
黎翔にとってはなんでもないことなのだが、
夕鈴はそれだけで体を強張らせる。
「可愛いな」
自然と口に出たが、特に黎翔は気に留めなかった。
そう思ったからそう言ったのだ。
お世辞にも見目麗しいわけではないが、
表情の変化や小さな仕草が愛らしく、
見ていて飽きない。
彼女を相手にしていると、
仕事をしているときとは違う、心地よい緊張感がある。
黎翔と夕鈴はお互いを見詰め合っている。
黎翔には、目の前の夕鈴の表情は読みきることができない。
「…陛下」
もっといろいろな表情が見たいと思い、思わずさらに距離を縮めてしまう。
しかし、そこで胸の辺りに抵抗があった。
「もう一刻はとっくに過ぎております」
「君が休めと言っただろう」
「一刻で起こしてくれっておっしゃいましたよね」
ぴしゃりと言い返されて、
黎翔は黙ってしまった。
こんな風に黎翔を扱う人間が他にいただろうか。
李順か?時折。
浩大は、また種類が違う。
どこかで感じたような感覚だが、それは何だか分からなかった。
「手厳しいな」
最後に悪あがきをするように夕鈴の髪を一房掬って流した。
「また夜に来る」
ぱっと赤くなった夕鈴の顔を見て、満足するが、
どこかその顔も少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。






*


次々と片付いていく書簡を見、李順は一声かけようと思ったが止めて、
追加分を机に重ねた。
「お前は鬼か」
不満そうに顔を上げた黎翔を見てさらりと返す。
「本日は随分やる気でいらっしゃるので、せっかくですから」
「妃に働けと言われた」
「それは大変結構なことですね」
一瞬記憶が戻ったのかと思うような発言をすることがあるが、
ほとんどが勘違いだった。
黎翔は未だに夕鈴のことを名前で呼ばなくて、
もしかしたら名前を覚えていないのではないかと思うことさえある。
ただの臨時の花嫁で、時折仲の良いところを見せるだけならば、
名前などなくてもできるのかもしれない。
最初は不自然さを感じたが、
今はこのままでも良いとも思う。
無駄な煩わしさや心配事から解消されたし、
黎翔もとっぴょうしもないことを言わなくなって、
随分楽だ。
「あの娘はおもしろいな」
―――と思ったのも勘違いでしたでしょうか。
李順は眼鏡をくいと直した。
「そうですか」
「最初はお前がトチ狂ったのかと思ったが、おもしろい」
なんてひどい単語を使うのか、と李順は顔をしかめた。
『トチ狂っている』としたら、どちらかというと貴方のほうでしょうが、とも思った。
「私だって他にきちんとした候補がいたら、
もっと教育の楽な娘をとりましたよ。
あまりからかいすぎないでくださいよ。どうせ臨時なんですから」
そういえば、最初のころにも同じような会話をしたなと思い出す。
記憶をなくしても、また同じことになるのではないかと心配になってくる。
今度は引き伸ばさずに、もっと早く決断をしたい。
黎翔は季節が変わるころには名前を忘れてしまうくらいで、
二人を引き離すことができたら…
手段はいくらでもあるのだが、
どれも現実に思い描くことはできなかった。
そのうち、実行すればいい。
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