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君がいてもいなくても何も変わらない話 4
登場人物 みんな
カップリング 多分陛下x夕鈴

※夕鈴が死んでいます
※陛下の子どもがいる(夕鈴との子ではない)
・捏造した『東の国』の人たちが少し出てきます
・10年後くらい
・これで終わりです


続きからどうぞ

――――――――――



黎翔が机の上に書簡を投げた。
「これで安定して鉄が入るようになるといいが」
「届けてまいります」
「ああ、頼む」
近くにいた官吏が机の上に広がったものを確認して、丸めて懐に入れる。
東の国と国境を接する国は多く、それを利用して白陽国は貿易の規模を広げた。
鉱山が少なく、慢性的に鉄が不足していたが、
今回の条約でそれは解決するはずだ。
「陛下、そろそろお休みになられたほうがよろしいのでは?」
隣にいた李順が、黎翔の机にたまった書簡をまとめる。
「もうそんな時間か」
窓の外に目をやると、星が出ていた。
「ええ」
「今日は妃のところへ行ってくる。明日からしばらく帰れないからな」
明日、黎翔は早朝から条約の最終調整をして、その後国境へと向かい正式に条約は結ばれたこととなる。
「・・・そうですか」
「なんだ、まだ話足りないことでもあるか。明日はもう余裕がないな。今聞くぞ」
「いいえ」
李順は無表情のまま首を降った。
そしてそのまま部屋を出て行く黎翔を見送る。
王が出て行ってから、李順はその机を片付けて、自分も部屋に戻ることにした。
正妃を迎えてからというもの、国交は順調に広がっている。
東の国は古くから交流の多い国も多くて、第三王女であった現在の正妃も顔が広い。
それぞれの皇室にも顔が利き、本人自身も賢くて、ずいぶんと助けになっていることは事実だった。
それは李順が理想に描いていたような『正妃』であり、
国王と妃が並ぶ様子も、絵に描いたようなものであった。
だから、そこに違和感を持つ必要などはないのだ。
これが正しい王宮の形だ。
妃はほとんどの時間を後宮ですごすか、
国のために外へ赴き隣国の皇族との縁を深める。
時には、新たに建設された病院や孤児院を回ることもある。
華やかな衣装を身にまとい、常に笑みを浮かべ、話し方は穏やか。
ゆっくりと音を立てずに歩き、臣下には労いの言葉をかける。
自ら望まれない仕事には首を出さずに、黙って夫の決定に従う。
もう十年近く王宮にいるというのに、
あの王女が、黎翔の言葉に首を横にふったところを、李順は見ていなかった。
いずれどこかの国の妃になることを想定されて育てられた、
そういう娘なのだ。
だから、王の隣にあの王女が来たのは、正しいことだ。
正妃として国王の隣にたち、公務を執行し、そして国母となってこの国に皇太子をもたらすことが、
この国に足を踏み入れたあの王女の役割だ。









条約を結ぶために、国境沿いまで移動して、王宮へ戻る道のりだった。
山道を越えて平原に出ると、一面に花畑が広がっていた。
以前ここを通ったのは、反乱軍の討伐に向かったときだった。
あのときここで見たものは、焼けた民家と、そこからあがる煙だけだった。
不愉快な油が焦げたにおいと、土に染み付いた赤黒い染みは、記憶から消えない。
黎翔は、馬の上から当たりを見回して、満足そうに口元に笑みを浮かべた。









「お妃様」
簪の揺れる音がした。
唇に柔らかい笑みを浮かべて、白陽国の正妃が振り返る。
そして追いついた女官を連れて、廊下を歩いていく。
そこに鉢合わせた水月は、ゆったりとした所作で頭を下げる。
妃とその一行が過ぎ去ったころに頭を上げると、眉間に皺を寄せて立っている、国王の補佐官が目に入った。
「婦人を睨むのはよくないよ、補佐官殿」
柳方淵は手にした書簡を持ち直して、鼻を鳴らす。
「睨んでいたわけではない」
「じゃあ見とれてたの」
「切るぞ」
両手が塞がっているから刀は取れないと思うのだが、水月は一応困った顔を作った。
「いやだなあ、物騒で」
「貴様の製作した宴の予算表、無駄遣いが過ぎるぞ」
「そう?」
「酒が高い」
手にしていた巻物を器用に広げて、方淵が一点を指差す。
今年の春の宴も、柳方淵と氾水月が中心となっている。
先に指名された方淵が氾水月を副責任者に任命して、実質十年前と同じ責任者二名という形になっている。
「あの方の贔屓にしているところから取り寄せようと思ってね。
試飲したけどかなり上質だったから、陛下も気に入ってくださると思うよ」
あの方、とは今の後宮の主のことだ。
方淵が自分を睨んでいることに気づいて、水月はとぼけて首を傾けた。
「なにか?」
「・・・なんでもない。それから楽団にとる時間も長い」
「ええ?短くしたら、何をいれるつもりなんだい」
水月が少し不服そうな顔をする。だいたい答えは分かっている。
「演説だ」
「だと思った。だから少し長くしておいたんだ」
呆れたような水月の態度に、方淵の眉間の皺が深くなった。
声も心なしか大きくなる。
「関係者が増えたのだから仕方ないだろう。今回は東の国から第一、第二皇子もいらっしゃる」
「ああそう。結局来るんだ。なら一曲くらいなら削ってもいいかな」
水月は少し嫌そうな顔をした。
重要な客人が来ると、それだけ面倒が増えることになる。
「それではほとんど変わらんだろう!そもそも三種類も楽団を用意する必要はない」
方淵の発言を聞いて、水月は信じられないという顔をした。
「なにを言っているんだ、あるよ。朝、昼、夜で雰囲気はもちろん変えたいし、
一日中楽器を弾きっぱなしでは、奏者も楽器も疲れてしまうだろう。
前みたいに予算が全然ないわけじゃないんだから、本領発揮させてもらうよ」
「そんなに音楽が聞いていたいなら家で勝手に弾けばいいだろう。
宴の予算を使ってやることか!」
「君、人の話聞いてないのかい。今回は前みたいにケチケチする必要はないんだろう?
東の国からも客人が来るのだったら、白陽国の国力を示すいい機会じゃないか」
水月が表情も変えずにすらすらと反撃すると、方淵の声はいよいよ怒鳴り声になった。
「そんなもの、他にいくらでも示しようがある!
ごちゃごちゃと意味のない音楽や舞で品位を疑われたらどうする!」
「私がそんな初歩ミスすると思うのかい?そこは信頼してもらって構わないよ。
品位を疑われるとしたら、酒を飲んた官吏の態度くらいだろう。君の管轄じゃないか。
だからこそ悪酔いしない良質の酒が必要だと思うね」
「分かった。なら酒だけはそのままで構わん。
ただし楽団は二つに減らして、その分は内外の警備にあてさせてもらう。
規模が大きくなる分、ここは譲らないからな」
「・・・仕方がないね」
一連の話、もとい口喧嘩が終わったところで、水月がくすりと笑った。
「何がおかしい」
「いや?」
くすくすと笑う様子が気に入らなくて、方淵は不愉快さを隠さず顔に出した。
「そんな顔しないで。ただ、私達も成長したなと思ってね」
「あのころと比べるな」
「まあね。あの時は、お妃様がいないとまともに会話ができなくて・・・」
「その名前を出すな!」
方淵の声が廊下全体に響いた。
とたんに、がた、と後ろから音が聞こえた。
2人が後ろを振り向くと、小さな子どもが怯えて座り込んでいた。
「おや、いかがなさいましたか、殿下。こんなところで」
「・・・母上を見ませんでしたか」
怯えたような表情だが、声は透き通ってよく響く。
水月がしゃがみこんでいる子どもを抱えて立ち上がらせる。
「先ほどこちらを通って、後宮へお戻りになったと思いますよ」
にっこりと笑って答えると、その子どもは少し視線をそらした。
「あ・・・ありがとう」
勇気を振り絞るようにして水月の目を見ながら礼を言う。
「ええ」
そして、そのまま走って逃げるように過ぎ去っていった。
「挙動不審だな」
子どもが走っていった方向を見ながら、方淵が呟く。
「陛下と剣の練習をしているときは、もっと生き生きしていらっしゃるよ。
人見知りみたいだけど」
「あれが皇太子とは・・・」
「李順殿の話では、陛下の小さいときに似ているらしい。
殿下も成長したら、陛下のように視線だけで人を倒せるようになるんじゃないかな」
「それはお前の妹の妄想だろう」
氾紅珠の記した小説は、複写されて長く流行りにのっているらしい。
その『少女』がだれのことなのか、もう話には出てこない。
『青年』も、時の王黎翔のことではなく、完全に空想の世界の人物であるとされている。
それでも物語として、下町のほうまで広がっている。
「また御懐妊されているようだし、だめなら次があるんじゃないのかな」
「その言い方は・・・」
まるで物のような言い方に、方淵は少し眉をひそめた。
たまに水月の発言には驚く。それを微笑みながら言うから気味が悪い。
「なに?君は私が口を開くたびに文句ばかりだな。それは変わらない」
「文句を言わせる貴様が悪い!」
「なんでもいいけど」
水月は、現在後宮の主として、正妃として黎翔の隣に立つ人物を思い出す。
姿を目に入れることは稀で、話したことは片手で数えられるくらいしかない。
正妃か、正妃ではないか、それだけの違いが生み出す差の大きさに驚いてしまう。
彼女は、もっと近かった。
隣で話し、一緒に悩み、王のことを一心に見ていた彼女は、
王宮にはもういない。
王宮にいる人々の記憶からは、もう彼女は消えてしまったのだと思う。
水月にとっても、彼女のことをはっきりと思い出すのは難しくなっている。
きっと出会えば自然に会話ができると思うのに、
手がかりなく表情を思い浮かべることはもうできない。
思い出にすがって、消えないようにと必死でつなぎとめるのに、
それさえ無駄に思えた。
口に出して、記憶を確認することもある。
しかし音になって空気に溶けて、やはり消えてしまう気がした。
ここへと戻るきっかけをくれた彼女を、ただ失っていくのを見過ごしたくはない。
彼女がいなくなってから、
口を聞かなくなった妹にまた執筆を促したのも水月だった。
忘れずにいる助けが欲しかった。
書物はずっと残る。記録された記憶は、だれかの手に渡ってずっと残る。
彼女が確かにいたという証が、文字になって残ってくれる。
形にならない美しい思い出はいつかなくしてしまうから、
紙にたくす。

狼陛下の正妃は、妃の見本ともいえるような人物だった。
外見や口調、しぐさ、身分、どれをとっても彼女に文句をいれる人物はいなくて、
最初はその存在に戸惑っていた王宮もすぐに慣れた。
もともとするはずだったことのことをしていたら、全てが上手くいく。
学んだ理論を実行していれば、妃は人々に期待されていることをする。
失敗はない。
周宰相や、柳・氾両大臣も、現在の正妃には関わらない。
正妃は王宮にいる間は移動を除いて後宮から出てこないし、
彼らの行う政に口を出すこともない。

今は後宮も少し賑やかだった。
黎翔は妃を複数迎えるのは面倒がって増やさないが、
以前よりも後宮を歩く女官は増えた。
皇太子もいるし、次に季節が変わる前に、第二子が誕生するはずだ。
「柳方淵殿、氾水月殿!!」
「なんだ?!」
王宮に相応しくない騒がしい足音が聞こえた。
名前を怒鳴られて、二人が振り向く。
1人の官吏が血相を変えて走ってくるところだった。
「何かありましたか」
水月の記憶にある限り、政務は全て順調に進んでいるはずだ。
なにか問題が起きそうな不安要素はなかったと思う。
「陛下が・・・陛下が、帰路にて突然襲われ、危篤状態にございます」
方淵の手から落ちた書簡が転がった。









扉の前で、面会禁止だと拒否された。
以前黎翔が倒れたときにも、顔を見ることが許されたのは医師と李順だけだった。
その李順が、今は扉の前にいる。
「入れろ!!」
「申し訳ありませんが、私達は中にいてもなにもできません」
「陛下を襲ったのは何者ですか」
方淵を押さえて、水月は李順に尋ねた。
「離せ、貴様」
「いいから」
「貴方方は、十年前に王宮に侵入したものを覚えていますか」
李順は眼鏡を調えた。
「あれで全てではなかったようです。
現在全員牢に入っています。これ以上は仲間はいないと言っておりましたが」
李順の爪に赤黒い汚れがこびりついていた。
捕まえた人間を裁くことを名乗り出たのは李順自らだった。
「あの・・・ときの・・・」
方淵の脳裏に、十年前も同じ場所で止められたときの情景が浮かぶ。
侵入者が入ったのは夜で、王宮にいたのは警備のものと、
あとは厨房で明日の準備に当たっていた調理師だけだった。
朝いつものように出仕したら、
ただ一言妃が死んだと伝えられ、そして国王の姿もなかった。
国王の部屋は完全に封鎖されていて、なにを言っても通してもらえなかった。
十年前も、今も、補佐官という肩書きを持ちながら、
黎翔を守れたことはない。
扉が開いて、医師が顔を覗かせた。
その隙に方淵が扉を押し開けて中に踏み込む。
「あ、方淵殿、お待ちなさい!」
後ろの呼びかけは無視して進むと、寝台が見えた。
その横には、国王の正妃と、皇太子が座っている。
子どもの小さな手で父の手を握っていた。
「・・・陛下」
寝台に横たわる黎翔は、一見普段と変わらないように見えた。
目に見えるところにはほとんど傷がない。
ただその目を覆うように、白い包帯が巻かれている。
寝台の横には、生けられた薄桃色の花があった。
後ろから足音が追いかけてきて、
李順と水月も方淵の横に並ぶ。
黎翔の口が開く。
「ゆ、う・・・りん・・・」
皇太子がその単語を拾って、急いで立ち上がりすぐ横にある花に手を伸ばす。
そしてその花を、彼の父の手に乗せる。
方淵の口から出た嘘は、子どもの手に渡っていた。
黎翔の口元が少し緩む。


「この、国は・・・君の願った、国に、なったか」


花の溢れる優しい国に。
返事はなくても、花の香りが教えてくれる。

僕は涙を流すなら、
君のように、だれかのために泣こう。
君が消えた悲しみで、自分のために泣くことはしない。

それが最後に僕の名前を呼んでくれた、
君と僕の小さな約束。






――――――――――――

(12.26.2911)
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夜中に泣ける
更新されていて、気になって読んだら夜中に涙出まくりです。明日も仕事なのに、どうしましょう。夕鈴死んじゃった。陛下もおかしいし、でも。
最後にどわっと涙ですよ。切ないですよ。方淵も水月もカッコいいし、どうしましょう。
でも死んじゃうの、いやだ。でもいい話だ。ああ、刹那過ぎです。
gaa2様
gaa2様、はじめまして!
夜中にお騒がせですみませぬ・・・!
自分でも結構厄介な話だったので、なにか感じていただけたのなら嬉しいです!
方淵と水月さんは、2人がいなくてもがんばってくれると信じています。
どうもありがとうございました!
お返事していなくてすみません!
12月26日のyossi様へ

コメント欄に頂いたものに、ずっとお返事していませんでした。すみません;

最後の台詞、一言で言いたいこと言うにはどうしたらいいんだ・・・と
悩みに悩んで自分でももうよく分からなくなっていたので、
なにか!なにか伝わっていたら嬉しいです。

夕鈴と陛下の関係は、
ただ「私、恋してる」とか、「好き!」とか、それだけではなくて、
陛下にとって、夕鈴がきてくれたことによって、
それまで「王様」としてどこか遠くから見ていた自分の仕事が、
どこか心を寄せられるものになったらいいなと思っています。
陛下にとって、夕鈴のことを悲しんで、思い出にして別れを告げるよりも、
ずっと心の中にしまったまま、
自分に力をくれる存在となるほどに、
夕鈴の存在が意味を持ってくれるものになるんじゃないか・・・。

夕鈴と陛下の心と、2人の距離がどうなっていくのは、
はらはらもやもやするところでありまして、
毎日毎日考えて、この話も考えた結果の1つなのですが、
原作はタイトルどおり花嫁で終わってくれ!と願うばかりです。

だんだん話がずれてしまいました(^^;)

お返事が大変遅くなってしまいましたが、
コメントありがとうございました。
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6月26日にコメントをくださった匿名の方へ
ありがとうございます。
苦しいとか悲しいとか言われることが多い話ですが、
私としては1つのハッピーエンドです。
なにか印象に残ることがあれば幸いです!
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うさきさんへ
うさきさん、こんにちは。かなり更新がマレになってしまっているサイトに来てくださって、本当にありがとうございます。

今の陛下を見ていると、このときとはまた違う話になりそうだなとは思いますが、この話を書いたときは、夕鈴が陛下のそばにいたことで、陛下にとって自分の仕事に対する考えの中に、夕鈴のことを想いながら仕事をする部分があったらいいなと、元々の陛下だったら気にしていなかったことや、目指さなかったことも目指してくれたらいいなと思って書きました。楽しんでいただけたのならよかったです。
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